人工ダイヤモンドは天然物に比べて価格・美しさ・不純物の少なさなどで勝っている
天然のダイヤモンドは地球内部の高温高圧な環境で作られており、産出量には限りがあり品質にもばらつきがあります。これに対し、近年は科学技術によって作り出される「人工ダイヤモンド」の存在感が増しており、価格だけでなく純度や品質でも天然ダイヤモンドをしのいでいるとのことです。
Lab-grown diamonds - Works in Progress
https://worksinprogress.co/issue/lab-grown-diamonds/
自然界でダイヤモンドが形成されるには数十億年かかるといわれており、天然ダイヤモンドのほとんどは宝飾品やハイテク産業が利用するには不純物が多すぎて、採掘にも費用がかかります。一方、近年の科学技術の発展に伴って人工ダイヤモンドの製造技術は向上し、記事作成時点では品質やコスト面でも天然ダイヤモンドをしのいでいるとのこと。
ハーバード大学大学院でコンピューターサイエンスを研究しているジャヴィド・ラーカー氏は、「人工ダイヤモンドは、自然が可能なことは人間がより良く行うことができるという原則を証明するものです」と述べ、人工ダイヤモンドの歴史について解説しています。
まず、1796年にイギリスの化学者であるスミソン・テナントは、閉じたチューブの中でダイヤモンドを加熱する実験を行い、「ダイヤモンドは炭素からなる鉱物である」ということを発見しました。この発見は他の科学者が結果を再現するまで、20年間にわたり懐疑的な目で見られたとのこと。
その後も長らくダイヤモンドの形成方法は不明なままでしたが、ノーベル賞も受賞したフランスの化学者であるアンリ・モアッサンは、19世紀末に人工ダイヤモンドの製造に取り組みました。モアッサンはダイヤモンドの産出地であるアフリカ南部や、内部にダイヤモンドに似た鉱石・モアッサナイトを含んでいたキャニオン・ディアブロ隕石(いんせき)などの地質学石分析を実施しました。
アフリカ南部のダイヤモンドは地中深くの層に含まれていることから、モアッサンはダイヤモンドが地中深くで、高い圧力によって形成されたものだと推測しました。また、ダイヤモンドやよく似た鉱物が見つかる地層や隕石では付近に鉄が見つかっていることから、「ダイヤモンドは炭素を含む高温の鉄が突然冷やされ、激しく圧縮されることでダイヤモンドが形成されるのではないか」と考えたそうです。
結局、モアッサン自身は人工ダイヤモンドの製造に成功することはありませんでしたが、1950年代にアメリカのゼネラル・エレクトリックが高温高圧状態を作り出すベルトプレス型アンビルを用いて、初めてダイヤモンドの合成に成功しました。プロジェクトチームを率いたトレイシー・ホールは、会社で冷遇されていたこともあって後に退職し、ブリガム・ヤング大学の教授となりました。
ホールが考案したプロセスで製造された人工ダイヤモンドは直径が数千分の1mmと小さかったため、宝飾品として加工するには不向きでしたが、精密研磨用の砥石(といし)やノコギリなどに利用されました。ゼネラル・エレクトリックの人工ダイヤモンドは天然ダイヤモンドよりも高価だったものの、注文に応じて形状や規則性を変更することができたため、工業用途としては優れていたとのこと。
その後も人工ダイヤモンドの製造についての研究が各国で進められ、記事作成時点では宝飾品としても十分な品質を持つ人工ダイヤモンドが工業生産されています。純粋な形では、人工ダイヤモンドと天然ダイヤモンドは物理的・化学的・光学的に同一であり、市場に流通する優れたダイヤモンドが人工物なのか天然物なのか、肉眼で見分けることはできません。
訓練された宝石商は、ダイヤモンドの形成中に含まれる不純物や成長パターンなどを調べることで、それが人工かどうかを識別することが可能です。しかし、今や人工ダイヤモンドは天然物よりはるかに安価で純度も高く、消費者の要望に応じて透明度や色合いも調節可能となっているほか、カッティングしやすいという点でも優れています。
以下のグラフは、1カラットあたりの価格推移を天然ダイヤモンド(青色)と人工ダイヤモンド(赤色)で比較したもので、縦軸が価格(ドル)、横軸が年となっています。2016年の時点では天然ダイヤモンドが1カラットあたり約6500ドル(約93万円)、人工ダイヤモンドが約5500ドル(約79万円)でしたが、次第にその差は開いていき、2024年には天然ダイヤモンドが約5000ドル(約72万円)、人工ダイヤモンドが約1300ドル(約19万円)となりました。すでに人工ダイヤモンドの売り上げは、天然ダイヤモンドを上回っているそうです。
ラーカー氏は、「人工ダイヤモンドは採掘されたダイヤモンドよりも美しく加工できるため、高級ジュエリーに使われることが増えると予想されます。人工ダイヤモンドによって顕示的消費がなくなるわけではありませんが、その恩恵のほとんどは鉱山所有者ではなく消費者が享受できるでしょう」と述べました。
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