関朋岳

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昨年、そして今年と、関朋岳が目覚ましい活躍を見せている。以前から国内のコンクールで好成績を残していたが、バルトーク国際コンクール2023で第2位、第1回グリューネヴァルト国際コンクールで優勝、そして6月に行われた第20回記念ハチャトゥリアン国際コンクールでも優勝。各国で聴く者を魅了している彼のヴァイオリンは、今後日本でも多くの聴衆を虜にするだろう。その大きな一歩が、ハチャトゥリアン国際コンクール優勝を記念した今回のリサイタルだ。関朋岳の“今”を伝える、本公演への思いを聞いた。

ーーハチャトゥリアン国際コンクールの思い出を伺えますか。

一次予選の演奏中にゲリラ豪雨になって、審査員の方から「演奏が聞こえないほど雷が激しいから、一旦弾くのをやめてくれ」という指示があり、演奏を中断することになったんです。

ーーそれは、メンタル面ではかなりきつかったのでは?

中断したのは、結果的に30分くらい。でもその時は、再開できるのは1時間後かもしれないし、もっとかかるかもしれない。どうなるかわからなくて怖かったですね。なんとか集中力を持続させるために、あまり動かないように、話さないようにしながら、できる限りのことをして気持ちを落ち着かせました。

ーーそのような事態を乗り越えて、1次ではバッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV 1003」など、セミファイナルではシューベルト「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調、D.574 op. 162『グランドデュオ』」などを演奏され、ファイナルに進出。ファイナルでは、モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K. 216」、ハチャトゥリアン「ヴァイオリン協奏曲 ニ短調」を弾いて、見事優勝されました。特にファイナルについては、どのような思いがありましたか。

モーツァルトは、指揮者がいないなか自分でオーケストラの方々と合わせて演奏するという課題がありました。言葉の問題もあるし、プロの方々を相手にして、どういう風にリハーサルを進行していけばいいのか、コンクール前からすごく緊張していたんです。でも1時間のリハーサルの中でどれだけ自分のやりたいことを伝えられるのか、ある程度頭の中でイメージし、対策を立てて臨みました。

ーーイメージ通りにできたという手応えはありましたか?

これまでのオーケストラと共演した経験の中で、指揮者がどのようにリハーサルを進めているのか見てきている。それを活かして進めました。相手へのリスペクトを忘れないように心がけながら、精いっぱいできたのではないかと思います。

ーーハチャトリアンの協奏曲に関してはいかがですか。

アルメニア人であるハチャトリアンの曲をアルメニアの方たちの前で弾いたので、皆さんの聴き慣れているという空気、そして気持ちの高まりを感じました。ひたすらその流れに乗ろうと頑張りましたし、うまく乗れてからは身を任せられる部分もあって、すごく良い経験でした。

ーーしかも、それが優勝という結果となりましたね。どういうところを評価されたと思いますか。

1曲1曲、まんべんなく評価されたと思いますが、やはりハチャトリアン協奏曲でアルメニア、ハチャトリアンへの自分なりの知識や考えをもったうえで、どれだけのセンスをもって表現し、アルメニアの人に届けられたのか。そこを見ていただけたような気がします。

ーーコンクールを通して、新たな気づきや学びなどはありましたか。

ハチャトリアンを今後演奏するうえで、彼の生まれた国に行ったことは意味があったと思います。コーカサス地方の民謡をリスペクトし、取り入れたうえで自分らしさを表現しているからこそ、新しい要素が生まれているし、結果的に非常に聴きやすいものになっている。今後ほかの国の作曲家の作品を演奏する時も同じように、そうした部分にリスペクトをもって弾きたいと思います。

ーーコンクールを振り返って、あらためてどのようなことを思いますか。

着実にステップアップできたのではないかと思いますし、純粋に嬉しいですね。これをきっかけに、今後の音楽人生も広がっていくのではないかと思います。

ーーそして、今回の優勝を記念して開催されるリサイタルのプログラムについて教えていただけますか。

大きなコンセプトとしては、海外でふれたものを皆さんに披露したいと思っています。
1曲目にはハチャトゥリアン/ハイフェッツ「剣の舞」。ピアノとヴァイオリンだけで弾けるハチャトリアンの曲は限られていますが、言うまでもなくコンクールで得たものをお見せしつつキャッチーに。
2曲目はバルトーク「バイオリンとピアノのためのソナタ第1番 Sz.75」でヘビーに、しかもハチャトリアンに近い民族性を感じる楽曲を。ここで休憩を入れて、一息ついていただこうと思います。
そして3曲目は少し雰囲気を変えて、バッハ「無伴奏パルティータ第2番 BWV1004 より『シャコンヌ』」。僕が師事しているドミトリー・シトコヴェツキー先生がバッハの権威でらっしゃるので、レッスンしていただく機会も多かったんです。このタイミングで、先生から得たものを皆さんに聴いていただきたいという気持ちがあって選びました。
4曲目はラヴェル「ツィガーヌ」。3曲目と同様に無伴奏で始まる楽曲であり、さらに先日まで留学していたフランスの音楽でバルトークとの共通点もあります。
5曲目はハチャトゥリアン「アイシャの踊り」、そして最後の6曲目にバルトーク「ラプソディ 第1番」とコンクールにちなみ、民族性をリスペクトしたうえで聴きやすく、しかも華やかな楽曲で終えたいと思いました。
今回選んだ曲はもちろんどれも大好きですが、特にバルトークのラプソディは最近の僕の勝負曲。日本で披露するのは初めてですし、ある意味一番の注目曲と思います。

ーーバルトークのラプソディを「勝負曲」とおっしゃいましたが、関さんにとってバルトークの魅力とは?

混沌とした中に、ハンガリー語の冒頭に来るアクセントの感じなどリズミック的なもの、それからバルトークならではの響きや和声感があります。一見聴きづらいようでいて、身体に入ってくると魂が震えるような曲が多くて、好きですね。

ーーそして、リサイタルでは北端祥人さんがピアノを弾いてくださいます。関さんが感じる北端さんのピアノの魅力、今回の共演に期待されていることは?

もちろんソロでも素晴らしいけど、室内楽的な音楽づくり、音色づくりに長けている方でもあります。ピアノは鍵盤を使うのでヴァイオリンのようにひとつの音の音程を変えることはできませんが、北端さんだったら音程を変えられるんじゃないかと思うほど、響きのコントロールが素晴らしい。おのずと僕の演奏も良い方向に導いてくださいます。バルトークのソナタ1番は彼もぜひ弾きたいと言ってくださったので、特に注目していただきたいですね。

ーー関さんの今後の活動も楽しみですが、ヴァイオリニストとしてどういう活動をしていきたいと考えていますか。

この数年、世界中のオーケストラや音楽家たちに触れる機会がありました。皆さんレベルも高くて、しかも国ごとの特徴を持った素晴らしい音楽家たち。日本のみならず世界で演奏していきたい、とあらためて思います。

ーーご自分では、ヴァイオリニスト・関朋岳の強みはどこにあるととらえていますか。

ソロも、室内楽も、オーケストラもできる。それは唯一無二……かどうかはわかりませんが(笑)、ぜひ人とは違う特徴として、どんどん出していきたい。オールマイティーに活動できる演奏家になりたいです。

ーーそれでは、関さんにとってヴァイオリンという楽器の魅力とは?

僕は口下手な方で、あまりトークとかも得意ではありません。そういう意味でも、自分を表現するための言語の一種になってくれたと感じています。

ーーご自分の思いの丈を、ヴァイオリンの音色に乗せていらっしゃるわけですね。締めくくりとして、リサイタルへのお誘いのメッセージをいただけますか。

今自分が一番見せられる、自分が一番届けたい曲を詰め込みました。それを聴いていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。