「たいしたことない」人がエリート相手に戦う方法【里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール!】第15回
里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第15回では、「エリート相手の戦い方」に関する考え方に迫ります!
「エリート相手の戦い方」について語った里崎智也氏(右)と五十嵐亮太氏(左)
――前回、前々回と「キャリア組」と「ノンキャリア組」という話題が続きました。里崎さんには、『エリートの倒し方』(飛鳥新社)という著作も出しています。「自分は決してエリートでも天才でもない」と前置きした上で、戦略的に生きるコツを述べていますね。
里崎 僕自身は野球の天才でもないし、エリートでもないということを自覚していたので、エリートを倒して自分が一番になるためにはビジネスマン的な戦略が必要だった。だから王道にこだわらず、自己流のやり方を見つけるしかなかったんです。
五十嵐 でも、サトさんはロッテで下剋上から日本一にもなったし、第1回WBCで世界一にも輝き、世界のベストナインにもなっている。決して「エリートではない」ということではないと思いますけどね。
里崎 結果的にそういう実績はできたけど、それは言ってみれば「いいオプションを装備しているだけ」ということに過ぎないと思うよ。
五十嵐 サトさんの言う「いいオプション」って、何ですか?
里崎 もともと、僕は軽自動車なんだよね。決して高級車ではない。で、ボディは軽自動車のままなんだけど、そこに後からベンツのエンジンを積んでみたり、乗り心地のいいプレミアムタイヤを装着してみたりしただけのことなんだよ。
五十嵐 でも、それも十分すごいことだし、誰もが「日本一」や「世界一」の称号を得ることはできないんだから、それは自慢できることですよね。決して「エリートではない」というわけではないと思うけどな(笑)。
里崎 でも、たいした成績を残していないのは事実だから。現役通算成績を見ても、僕は通算で1089試合しか出場していないし、ヒットは890本、ホームランは108本。決して、誇るべき数字ではないでしょ?
五十嵐 サトさんって、1000試合ちょっとしか出ていなかったんですか? 意外な気がしますね。そう考えたら、数字以上のインパクトを残しているし、それこそサトさんのすごいところじゃないですか。
■実績を残すための「3つの視点」里崎 だから僕はノンキャリア組だし、軽自動車だけど、WBCで優勝して世界のベストナインに輝いて、クライマックスシリーズで3位から日本一になって、交流戦で2年連続優勝して、雨の中で満塁ホームランを打って......。そんなオプションでここまでやってきたけど、実際に中身を調べてみたら、そんなにたいしたことがないってこと(笑)。
五十嵐 そんなことを言ったら、僕だってすごい成績を残しているわけじゃないし、中身を見たら「実は五十嵐はあんまりたいしたことないな」って思われていますよ。
里崎 僕は2000安打どころか、1000安打も打っていない。だから、「野球にかけて、890(ヤキュウ)本で引退したんです」とか、「煩悩の数だけホームランを打ったので引退しました。除夜の鐘を打つときには僕のことを思い出してください」って、今ではネタにしているけどね(笑)。
五十嵐 新春早々、サトさんのことを思い出すのはイヤだな(笑)。さっきも話題に出たけど、サトさんが考える「エリートの倒し方」って、例えばどんなことですか?
里崎 いろいろな方法があるけど、「自分の無力さを知ること」「王道にこだわらずに、自分流を磨き抜くこと」「小さなことにこだわらないこと」「常に3つの視点で見ること」という感じかな。現役時代から考えてきたことを今でも大切にしているし、それはサラリーマンの人にも役に立つ考えだと思うけどな。
五十嵐 今言った、「常に3つの視点で見ること」というのは、具体的にはどういうことですか?
里崎 ひとつ目は自分から外を見る視点。ふたつ目は外から自分を見る視点。そして3つ目は野球選手なら監督の視点、サラリーマンならチームリーダーや経営者の視点で物事を見ること。その3つの視点から、「自分はどう動けばいいのか、どう動いているのか?」を客観的に見ることが大切だと思うな。
五十嵐 自分だけの視点だと自意識過剰になったり、自分を甘やかせたりするから、客観的な「外からの視点」が大切なのもわかるけど、3つ目の「チームリーダーの視点」も必要だということですか?
里崎 結局、野球選手にしてもサラリーマンにしても、監督や経営者が自分に何を望んでいるのか、どんな役割を果たすべきなのかを知っていないと、決していい成績を残すことはできないから。あえて上司の視点に立つ。それはつまり、エリートの視点に立つことでもある。そうすれば、エリートの人たちに無いもの、彼らよりも勝っているものも見えてくるんじゃないのかな。
■自分で限界は作らず、やりたいことは相手に伝える五十嵐 以前、サトさんは「自分は便利屋になる」って言っていたけど、だから大御所やエリートがしないような仕事を積極的に引き受けたり、「スケジュールさえ合えば、基本的には何でもやってみる」というスタンスを貫いたりできるんですよね。そのスタイルは僕も好きだし、すごくいいと思います。だから、「自分はノンキャリア組だ」って言いつつ、今でも途切れずに仕事が殺到するんでしょうね。
里崎 同時に「自分はこんな仕事をしたい」「こんなこともできます」「こんなことに興味があります」って、いろいろな人に言い続けることも大事だと思うな。以前、FMラジオに呼んでもらった時に「ぜひレギュラー番組をやりたい」と口にしたことがあって、その時は「若手芸人並みにガツガツしていますね」って笑われたんだけど、結局、後にそれも実現した。あの時に口にしていなかったら、僕がそれを望んでいることは誰も知らなかったわけだし、あらためて言葉にすることは大切だと思ったね。
五十嵐 僕も現役引退後にいろいろな仕事をやらせてもらっているけど、メディアに出ていると、野球中継だけではなくてバラエティー番組に呼ばれたり、イベントに出演させてもらったり、引退時には考えていなかった状態になることがとても楽しい。自分で自分の限界を作らずに何事にも挑戦してみる。ある程度の貪欲さは大切ですよね。
――昔から、「今の若者には夢がない」と嘆く年長者は多いし、その年長者自身も「人生の意味を見出せない」という人もたくさんいます。人生において「夢を持つこと」はやはり大切なことでしょうか? 夢がないと人生は味気ないものでしょうか?
里崎 僕は「必ずしも夢は持たなくてもいい」というスタンスですね。ただ、「夢を持っていたほうが人生はラクになる」とも考えています。
五十嵐 え、「夢を持っていた方がラク」? いかにもサトさんらしい発言ですごく気になります。僕としては「夢は持っていたほうがいい」という考えですね。やっぱり、ここでもサトさんとはスタンスが違うみたいだけど(笑)。
――里崎さんと五十嵐さんの考え方は、近いようで、細かい点では大きく異なるということが続いていますね(笑)。次回はぜひ「夢を持つこと」について掘り下げていきたいと思います。次回もどうぞよろしくお願いします。
里崎・五十嵐 了解です。次回もよろしくお願いします!
構成/長谷川晶一 撮影/熊谷 貫