原監督と丸佳浩 (C)Kyodo News

写真拡大

 35歳の丸佳浩が、2024年の巨人打線を牽引している。

 7月17日の阪神戦で昨季の安打数94を超えるシーズン95安打目を記録。サンタナ(ヤクルト)と首位打者を争い、安打数でも細川成也(中日)とリーグトップを競う。17日現在の打率.315はプロ17年目にしてキャリアハイである。“復活”というより、“進化”する35歳。思えば、第三次原政権は、丸佳浩の獲得から始まった。

 すでに2024年シーズン開幕から3カ月半以上が経過し、東京ドームの一塁側ベンチに阿部監督がいる風景が当たり前になった今こそ、「原政権」の功罪を検証できるのではないだろうか。今回は、2019年から2023年まで計5シーズン続いた「第三次原政権」の補強を振り返ってみよう。

◆ 【2019年】143試合77勝64敗2分 勝率.546 1位

 球団ワーストタイの4年連続V逸で呼び戻された60歳の原辰徳が、自身三度目の監督就任会見をしたのは2018年10月23日。そして、1カ月後の11月24日には、FA宣言していた広島の丸佳浩との初交渉に臨んだ。06年オフの小笠原道大との交渉以来という本気度が伺える直接出馬で、若大将・原の象徴「背番号8」と5年総額25億5000万円の大型契約を提示。人間ブルドーザーのような行動力とバイタリティでロッテとの争奪戦を制し、18年MVPプレーヤー丸の獲得に成功する。結果的にV3を達成した広島の主軸で、当時29歳と全盛期を迎えていた丸の同リーグ間での移籍は、セ・リーグのパワーバランスそのものを変えてしまった。

 このオフ、原巨人はFAで丸に加えて、炭谷銀仁朗(西武)も3年6億円提示で捕手強化に成功。さらにオリックスを自由契約になった中島宏之、米球界から日本復帰した岩隈久志といったベテランのビッグネームも続々と獲得する。新外国人選手ではクローザー候補のクック(前監督・高橋由伸の「背番号24」をつけた)、前年にメジャーで20本塁打を放った内野手のビヤヌエバにも年俸2億円超えと全権監督タツノリはなりふり構わない補強に邁進する。

 今振り返ると、いかにも平成巨人の大型補強路線には懐かしさすら感じるが、賛否はあれど、これが原辰徳のチーム再構築のやり方だ。中心選手を入れ替え、背番号をシャッフルし、新しいチームだと内外に意識させ、組織を作りなおす。

 もちろんすべての選手が計算通り働くわけではなく、岩隈は故障で19年は1軍登板なしに終わり、翌シーズンに復活する中島も移籍1年目は打率.148と低迷。新外国人勢も期待外れの結果だったが、丸が3番センターに定着して143試合、打率.292、27本塁打、89打点、OPS.884と優勝に大きく貢献する。炭谷も大城卓三や小林誠司との併用で、限られた出番ながらも攻守に光るいぶし銀の働きを見せた。

 シーズン中の6月下旬には日本ハムとのトレードで鍵谷陽平、藤岡貴裕を獲得。7月にも楽天の古川侑利をトレード補強と積極的に動き続けた第三次原政権の1年目であった。鍵谷は移籍初年度の19年が27試合、20年46試合、21年59試合と貴重なリリーバー役で定着していく。

 なお、原監督の復帰で5年ぶりにリーグVを飾った9月21日のDeNA戦で、マウンドにいたのは6月下旬に獲得した抑えのデラロサだった。とにかく補強に邁進して力技で実現させた令和元年の覇権奪回。だが、日本シリーズではソフトバンクに屈辱の4連敗を喫することになる。

◆ 【2020年】120試合67勝45敗8分 勝率.598 1位

 2020年は新型コロナウイルス感染拡大に伴い、開幕が6月19日に延期。120試合制の異例のシーズンとなるが、新外国人補強は菅野智之とのダブルエース候補として、韓国球界で前年17勝のサンチェスの獲得に成功。8勝を挙げるも、年俸3億4000万円の2年契約という破格の条件を考えると物足りない成績だった。

 ナショナルズのワールドシリーズ制覇のメンバーでもある外野手のパーラは、故障にも苦しみ1年で退団。大量に売れ残ったシャークグッズは正月の福袋常連グッズとしてファンの手元に届けられた。なお、164キロ右腕ビエイラはリリーフで27試合に登板、胴上げ投手となる。

 効果的だったのはシーズン中の補強だ。6月に楽天からウィーラーを、7月にも同じく楽天の高梨雄平をトレードで獲得。ウィーラーは内外野を守り打率.247、12本塁打、36打点。高梨は44試合で防御率1.93とブルペンの救世主となった。結果的に両者の獲得がリーグV2へと繋がったといっても過言ではないだろう。

◆ 【2021年】143試合61勝62敗20分 勝率.496 3位

 前年の日本シリーズでソフトバンクに2年連続で4連敗という惨敗を喫した原監督は、再び大型補強に乗り出す。完全に力負けしたシリーズの雪辱を誓い、スモークとテームズの長距離砲を獲得。FAでDeNAから梶谷隆幸と井納翔一が移籍する。

 しかし、2021年も外国人選手は新型コロナウイルス対策による入国制限でチーム合流が遅れ、調整不足のテームズはデビュー戦の4月27日ヤクルト戦の外野守備中に右アキレス腱断裂の重傷を負い離脱。5番打者として7本塁打を放ったスモークも、家族が来日できず6月17日に退団が発表された。8月にハイネマンを緊急補強もわずか10試合の出場で帰国。移籍2年目のウィーラーが打率.289、15本塁打、56打点とひとり奮闘した。

 FA組の梶谷は死球による不運な右手骨折もあり61試合の出場に終わり、井納は春先にスキップしながら金網ネットを通り抜けようとしたら頭を打ちつけ頭部裂傷……という謎すぎる負傷もあり防御率14.40とまったく戦力にならず、優勝を逃す一因となった。前年9月の澤村拓一のロッテへの放出に続き、開幕直前の3月に田口麗斗とヤクルトの広岡大志のトレードが成立。広岡は巨人でも伸び悩んだ(23年に鈴木康平との交換でオリックスへ)。米球界から復帰の山口俊、さらに日本ハムから同僚への暴力事件で出場停止中の中田翔を無償トレードで獲得。山口は打線の援護に恵まれず、中田も翌年以降に復活するがこの年は不振に苦しんだ。

 チームは8月29日に首位浮上も、9月以降は10勝25敗8分けと急失速して勝率5割を切り、3位でシーズンを終える。あらゆる補強がハマり達成したV2の影響か、編成面で動き過ぎた感もあり、この年の補強はことごとく空回り。原巨人の潮目が変わった1年でもあった。

◆ 【2022年】143試合68勝72敗3分 勝率.486 4位

 覇権奪回を掲げる2022年は新外国人選手のポランコとウォーカーを獲得。ポランコは26本塁打、ウォーカーは23本塁打と前評判度通りの長打力を発揮したが、それぞれ外野守備には難があり、両翼での共存が難しいという問題を抱えていた。この時期、原監督は本気でセ・リーグのDH制導入を目指していたことを感じさせる編成である(ポランコは翌年からロッテへ。ウォーカーも23年秋にトレードでソフトバンク移籍)。

 新外国人投手のシューメーカーは「靴屋じゃないヨ」というズンドコ自己紹介で爆笑をさらうも4勝8敗、防御率4.25。先発ローテ入りを期待された推定年俸2億2700万円のアンドリースは、0勝2敗と大きな誤算だった。7月に途中入団の左腕リリーバーのクロールは21試合に登板も契約更新はせず。一時期クローザーを務めたビエイラやデラロサも、この年限りでチームを去った。

 5年ぶりのBクラス転落、原監督は初めてCS出場を逃す。補強は蓋を開けてみないと分からない外国人選手頼み。FA選手の多くが巨人に来たがった時代の終焉を感じさせる2年連続のV逸でもあった。

◆ 【2023年】143試合71勝70敗2分 勝率.504 4位

 新エースの戸郷翔征が2023年春のWBC招集、菅野智之は故障のため、開幕1戦目がビーディ、2戦目がグリフィンと新外国人投手が立て続けに登板(初戦の敗戦投手も新外国人のロペス)という層の薄い投手力はシーズンを通して原監督を悩ませた。 

 リリーフ防御率3.81はリーグワーストで、元DeNAの育成契約で獲得した三上朋也が22登板で防御率4.60。5月にオリックスからトレード移籍した鈴木康平が、防御率6.59にもかかわらず33登板していることからも苦しいブルペン事情が垣間見える。ただ、7月に緊急補強した左腕バルドナードが21試合で防御率1.69と結果を残し、20試合に先発して6勝5敗、防御率2.75のグリフィンとともに残留。両者は2024年の阿部巨人でも貴重な戦力になっている。

 野手陣では広島から復帰の長野久義、ソフトバンクを自由契約になったベテラン松田宣浩、現役ドラフトではオコエ瑠偉とレギュラークラスの補強はなく、ポランコをリリースしてまで獲得した新外国人選手のブリンソンは外野守備や走塁でボーンヘッドを連発。だが、皮肉にも投打ともに補強が思い通りできなかったことにより、それが結果的に原監督の若手起用へと繋がっていく。

 リーグトップのチーム打率.252、164本塁打を記録しながら、投壊で首位阪神には15.5ゲーム差をつけられ4位。球団初の同一監督で2年連続のBクラスに低迷するも、一方で戸郷と山崎伊織が新世代二本柱として定着。野手陣も門脇誠や秋広優人など多くの若手がチャンスを掴んだ。

 こうして三度目の原体制は通算5シーズンで終わりを告げる。監督復帰した直後はまさに平成巨人という手法のままに大型補強に邁進してチーム再建に成功するも、令和の球界では次第に金銭面含む巨人ブランドのアドバンテージもほぼなくなり、外国人補強も新型コロナの余波で思うようにいかず、次第に手詰まりになってしまった印象だ。

 だが、2024年の阿部監督の新チームで、第三次原政権の象徴ともいえる丸佳浩が1番打者として復活。24年の開幕戦で1号2ランと超美技で救世主になったのは育成選手も経験した35歳の梶谷隆幸だった。原体制のラストイヤーに来日した、グリフィンは現在も左のエース格としてローテを守り、バルドナードはチーム最多の37登板と貴重な働きを見せている。左のリリーバーとして高梨雄平もブルペンになくてはならない存在だ。

 昨季は一軍ヘッド兼バッテリーコーチとして選手を見ていた阿部監督が、原巨人の長所は継承した上で、足りない部分(外野手や中継ぎ陣)をピンポイントで補強してチームを再構築。しぶとく首位争いを繰り広げている。2024年の阿部巨人は、非常に効率的に弱点を強化された「原巨人のアップデート版」とも言えるのではないだろうか。

 

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)