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おとなしい人がリーダーになったらどうやって部下を動かしたらいいのでしょうか? 脳科学者の西剛志氏は著書『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』の中で、「3つのしくみがある」と言っています。一体どういうことでしょうか? 具体的な方法を、本書から紹介します。

「おとなしい人」でも部下を動かす3つのしくみ

私はこれまで、ビジネスからスポーツまでこのような内向性を持つリーダーを研究してきました。日本でもWBCで日本を優勝に導いた栗山英樹前監督や、星野リゾートを世界に展開している星野佳路氏、他にも世界的なファッションブランドの創設者から女性経営者まで。


このような人は深い思考をすることで本質を見出すのがうまく、人を動かすしくみを経験的に理解しています。今回はその中から比較的シンプルで実践しやすい、うまくいく人たちの習慣を紹介したいと思います。

【しくみ(1)】リフレクティブ・リスニング

「いざ相手と会話しようとしても、盛り上がらない」以前、内向性が高いリーダーの方から、そんな相談をもらったことがあります。内向型の人は、前頭前野が発達しており、論理的思考が習慣化しているため、基本的に目的のない行動が苦手です。同僚と親睦を深めるために雑談しようとしても、時間の無駄のように思えてしまうことがあります。


「中身のある話をしよう」と気負いすぎて、「どうしてその問題が起きたの?」「それで、原因は?」と聞いてしまい、相手が引いてしまって、逆に会話が弾まないという場合もあります。そこで、うまくいく内向型リーダーがよく行っているのが、「リフレクティブ・リスニング」という方法です。これは「反射的傾聴法」とも呼ばれ、学術的にも効果が立証されている傾聴の技術です。といっても、難しく考える必要はありません。


ルールはシンプルで、「相手が言ったことをそのまま反射して返す」というだけです。たとえば、取引先の商談で、初対面の人に挨拶する場面があったとします。


自分:田中さんは、どうして今の仕事を?


顧客: もともと、人と話すのが好きだったので。営業が向いているかなと思ったんです。


自分:人と話すのが好きなんですね。どうして好きなんですか?


顧客: うーん、どうしてでしょう。人と話すことで、新しいことを教えてもらえたり、刺激をもらえたりするからかな。


自分:なるほど。新しい知識を学ぶのがお好きなんですね。


顧客:そうそう、そうなんです。


このように、相手が言ったことを反復する。これだけです。そのくらいのことで会話がスムーズになる? と思うかもしれませんが、ぜひ、騙されたと思って一度試してみてください。実は私自身も、以前は会話を真面目にしすぎて盛り上がらなかったのですが、この「リフレクティブ・リスニング」を取り入れただけで、盛り上がるようになりました。


小さな違いですが、これだけで相手の脳に快感を与える効果があります。海外の研究でも、私たちは会話の中で自分について話をすると、脳の中の報酬系が活性化することがわかっています。人間は、自分自身に一番関心があります。集合写真を見るとき、真っ先に自分を見てしまいますが、脳は自分のことが大好きなのです。


リフレクティブ・リスニングで相手に言葉を返すと、相手が「自分のことを話してくれている」と感じて快感を感じやすくなり「私のことを理解してくれている」という安心感まで得られます。さらに「〇〇なんですね」とワンクッション挟むことで、会話に余白が生まれ、次の質問がくるまでに考える時間もできるため、相手もリラックスして話すことができます。


反対に、反復せず、尋問のようにずっと質問を続けられると、相手は快感を得にくく、自分のことを理解されずに話だけがどんどん進んでいく印象を受けます。この人と話すとなぜか不快に感じる人がいるとしたら、その原因の一つは会話中に相手の反復がないことなのかもしれません。

【しくみ(2)】ピグマリオン・クエスチョンを利用する

「指示を出すのが苦手」というのも、多くの内向型リーダーが直面する問題です。管理職という立場になった以上、他のチームメンバーを動かし、協力してもらわないことには、成果は出ません。部下に頼み事をしづらく、仕事を自分で背負い込んでしまう人も多いと聞きます。


ちなみに、あなたがこんな部下を持ったら、どうするでしょうか? 言われたことしかやらない新人社員。細かいこと全てに指示を出さないと動いてくれません。職場に課題があることも自主的に考えません。そんな部下に「自分で考えて動けるようになってほしい」というメッセージを伝えたいとします。


そのとき、あなたなら、どんな言葉をかけるでしょうか? 内向型の人ほど、どんな言葉をかけるか困ってしまうかもしれませんが、研究からわかってきた有効な方法は、普段の何気ない会話の中でこんな言葉をかけることでした。「あなたは言われなくてもやる人だと思いますか?」


いきなり言われると驚くかもしれませんが、この言葉を仕事以外の場面で何気なくかけてみるのです。ちなみにあなたが、日常会話の中でさらっとこの質問をされると、どんな感じがするでしょうか? 「はい」「いいえ」どちらで答えてもいいのですが、私たちは2つの選択肢があったとき、よりよい選択肢や、自分がそうなりたいと思う選択肢を選ぼうとする傾向があります。


「もちろん、シチュエーションによっては言われなくてもやりますよ」と答えるかもしれません。その場合は、「じゃあ、どんなときに言われなくてもやる?」と聞いてみると、脳内に「言われなくてもやっている自分」が自然と想像されます。すると、脳は自分でイメージした通りになろうとするのです。


実際にショッピングモールでアンケートをお願いする実験でも、「少しお時間よろしいでしょうか?」と声をかけたグループと、「あなたは人に協力的ですか?」と声をかけたグループで、どのくらいアンケートに協力してくれるかというリサーチがあります。


「少しお時間よろしいですか?」と聞いたグループは協力してくれたのが29%でしたが、「あなたは人に協力的ですか?」と問いかけたグループでは、なんと77%の人が協力してくれたそうです。問いかけるだけで、約2.7倍も実際に行動してくれたのです。問いかけることで相手がそうなろうとする質問法を、私は「ピグマリオン・クエスチョン」と呼んでいます。


ピグマリオン効果とは、期待をかけるとその通りになるという心理現象ですが、次の項目で伝えるとおり、期待をかけることは人によっては命令にも感じられる人がいるため、逆効果になる場合もあります。そこで効果的なのが、命令ではなく相手に問いかけるこの「ピグマリオン・クエスチョン」です。脳は質問されるのが大好きで、問いかけられると答えようとするため、自然に自分でどうなりたいかを決めてくれるのです。

【しくみ(3)】「期待」と「やる気」は釣り鐘のような関係

仕事であれ、教育であれ、子育てであれ、人を動かす立場になったときに絶対にやってはいけないことがあります。それは、むやみに「期待しているよ」と伝えたり、やたらと能力をほめたりすることです。スタンフォード大学の研究でも、パズルが解けたときに「すごい。優秀だね!」とほめると、難しいことにチャレンジしなくなる傾向があることがわかっています。


なぜなら、もし次に難しいことにチャレンジして失敗したら、それは「優秀」でなくなるからです。「優秀さ」を保持するために、失敗しない簡単な課題ばかりをやるようになるのです。能力をほめるのではなく、努力をほめると「難しい問題」にチャレンジする率が高まることもわかっています。


相手を評価するときは、能力をほめるのではなく、「努力」をほめてあげることが大切です。これは動物も同じで、努力したときに報酬をあげると、その努力をもっとするようになります。脳科学的には、線条体と呼ばれる脳の報酬系が活性化するため、その特定の行動を促進することができます。


また、モチベーション理論で有名な米国の心理学者ジョン・アトキンソン教授の研究では、こんなこともわかっています。「期待」と「やる気」は釣り鐘のような関係で、実現可能性が0%でも100%でもなく、ちょうど50%くらいだと、もっともやる気が出やすいことです。簡単にできることや、絶対に不可能なことを「君ならできる! 期待しているよ!」と言われても、やる気はまず出ません。

出所:『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』(ダイヤモンド社)より抜粋


たとえば、「君なら、東京タワーに必ず登れるよ! 大丈夫!」と励まされても、大きなやる気が出ることはないでしょう。努力しなくても簡単にできることは、意欲が湧かない傾向があります。一方で「あなたは標高約1万メートルのエベレスト山頂に登れる! がんばれ!」と言われても、やる気は出ません。登山家や冒険家ならまだしも、一般人にはあまりに無謀でゴールが大きすぎるため、「そんなことできません……」と言いたくなってしまうでしょう。


ですから、人のやる気を引き出すためには、実現可能性が50%前後のところを期待してあげるとよいと言えます。私が現場での数多くの経験を通して感じたのは、その人が実現できる60〜70%くらいの確率のところを期待してあげると、さらに効果が高い傾向があるということでした(もちろん個人差はあります。その人が燃えるラインを探ることも大切です)。


自分だけではギリギリだけど、周りがサポートすることで実現できる、そのような部分を期待してあげると本人のやる気は高まりやすくなります。スポーツの世界でも、簡単にできることではゾーンに入りにくくなります。自分の能力を少し超えたところにゴールを設定してあげると、脳がよい状態に入りやすくなるのです。そのためにも、相手の能力や状態を理解してあげることが大切です。


相手の話を聞いてあげることが基本になるでしょう。 まさにこれは、内向型が得意とするところです。これこそ、内向型リーダーが行っているサーヴァント・リーダーシップのやり方の一つなのです。
 

西剛志

脳科学者