「ヒグマ猟師をバカにするな!」八つ裂き殺戮の現場でコンビニ時給以下の報酬「住民に迫る命の危険」…「特殊部隊を相手にするようなもん」

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 ヒグマの出没やヒグマによる被害が相次いでいる日本。農林水産省によると、クマによる農作物の被害は年約5億円にも上る。そんな中、元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏はヒグマハンターの日当について、問題点をあげるーー。

日当が安すぎるとして、猟友会が出動を辞退したとい

 最近、どうしても気になったニュースがある。ハンターの日当が安すぎるとして、猟友会が出動を辞退したというニュースだ。

北海道空知地方の奈井江町の猟友会がクマが出没した際の出動を辞退した問題で、町は猟友会奈井江部会への出動の依頼を断念しました。/この問題はクマが出没した際に出動したハンターに町から支払われる報酬額などを巡り、地元の猟友会が出動を辞退したものです。/ これまでに町が提示した額は日当が8500円、発砲した場合は1万300円でした。/猟友会側は危険な業務であるにもかかわらず額が低すぎるなどとして、5月18日付でハンターの出動を辞退するとの文書を三本英司奈井江町長に宛てに提出していました>(北海道ニュースHUB、6月11日)

 確かに安い。命懸けでヒグマと対峙するのに日当8500円では割に合わないのではないか。奈井江町のハロワーク求人を検索してみると、介護職員・ヘルパーで月給20万円程度、事務職で18万円程度、調理員で17万円程度の募集があった。日当8500円で月20日勤務だとして月給17万円にしかならない。すべての日で発砲しても20万6000円である。この値段ではしんどいと思う人も多いのではないだろうか。日当8500円で何時間働かされるのかがわからないが、奈井江町の訪問介護員(パートタイム)募集にある時給1350~1430円に届かないのではないだろうか。

特殊部隊を相手にして、ハンターが勝負を挑むようなもんです

 この安い報酬に対して、北海道猟友会(砂川支部奈井江部会部会長)の山岸辰人氏は、<ひざ丈まで草があれば、彼らは体重200キロあって、5メートル離れた所に身を隠しても分からないですよ。だから、特殊部隊を相手にして、ハンターが勝負を挑むようなもんですよね><高校生のコンビニのバイトみたいな金額でやれ。ハンターばかにしてない?って話ですよ>と(テレビ朝日ニュース、6月17日)と怒りを爆発させ、1回の出動につき4万5000円と民間基準の報酬をベースに提示したものの、町は予算不足を理由に交渉は決裂してしまっている。

クマの駆除は、猟友会頼みを本当に脱することができるかは未知数

 こうした状況を<酪農学園大学の佐藤喜和教授は「クマの駆除については猟友会頼みの自治体が多いが、高齢化・後継者不足により今後困る地域が出てくる。猟友会頼みのクマ対策を考え直す時期に来ているのでは」>(同ニュース)と指摘しているが、クマの駆除は、猟友会頼みを本当に脱することができるかは未知数ではないだろうか。

 今、奈井江町では、子どものヒグマを連れた母ヒグマの目撃情報が増えている。これは非常に危険な兆候である。例えば、ヒグマについての比較的新しい研究論文『ヒグマによる人間への攻撃:世界的な視点』(2019年)において、以下のようなデータが明らかになっている。

(1)攻撃された人の特徴

•ほとんどの攻撃された人は大人(99%)で、男性(88%)でした。

•攻撃された時、63%の人は一人で行動していました。

(2)攻撃が起こった時の活動

•レジャー活動中:攻撃された人の50%は、ハイキング(88件)、キノコなどを摘む(64件)、キャンプ(31件)、釣り(18件)、ジョギング(17件)などのレジャー活動をしていました。

•仕事中:28%の人は、農作業や家畜の見守り、木の伐採(104件)、野生動物の研究(12件)など、外での仕事をしていました。

(3)攻撃が起こるシナリオ

•母グマと子グマの遭遇:47%(137件)がこの状況で起こりました。

•突然の遭遇:20%(59件)がこれに当たります。

•犬がいる場合:17%(48件)でした。

•撃たれたり罠にかかったクマの攻撃:10%(30件)でした。

•捕食(人間を食べる)目的の攻撃:5%(15件)

(4)攻撃が起きた季節と時間

•夏: 48%の攻撃が夏に発生

•昼間: 73%の攻撃が昼間に発生

子グマを守ろうとする母グマがもっとも危険である

 これらデータの示すところは、子グマを守ろうとする母グマがもっとも危険であると言うこと。そして、私たち日本人が盲点になっていそうなのが「犬」だ。同調査では<その他の頻発するシナリオ(突然の遭遇、犬の存在、負傷したクマ)は、主に人間の不適切でリスクを高める行動(クマの生息地で単独で静かに移動する、放し飼いの犬を散歩させる、狩猟中に負傷したクマを追いかけるなど)の結果であり、この問題に対する一般市民の教育と認識を向上させることで減らすことができる。例えば、クマの生息地では、自分の存在を知らせることで、突然の遭遇を避けることができるし、放し飼いの犬は強く避けるべきである>と指摘されている。

クマ対策先進国であるロシアの教え

 例えばクマがでるかもしれない森などを歩くときに犬を連れていけば、クマが寄ってこないのではないかと抑止力に期待する人も多いのかもしれないが、犬がクマに対して攻撃的な態度をとることで、クマが襲いかかってくるケースが多発しているということだ。特に放し飼いの犬は、ヒグマに挑発的な行動を取るケースがあるようなので注意が必要だ。<クマは集団に直面すると攻撃するよりも逃げる可能性が高い>(同調査)と指摘しているから、1人で犬を放し飼いにするのはやめた方がいいだろう。

 例えば、ヒグマの生息数が最も多く人間に対する襲撃の記録数が最も多いロシアでは、クマとの衝突を最小限に抑えるための専門マニュアルが開発され、出版され、大量に配布されている。それと比較して日本はどうであろう。

 クマの危険性がやっと認知されつつあるが、まだまだ他国と比べて、理解と認識が進んでおらず、そこにきて、猟友会に満足な報酬を渡すこともできないというのであれば、この先、クマに人が殺されるのを待つようなものである。もしくは恐怖を感じる住民が奈井江町をでていってしまうだけだろう。

町議会議員も同じ給料にすればいい

 報酬が低いのは財源は…という人もいるのだろうが、例えば、年間約60日議会が開催される奈井江町の町議会議員(10人立候補して9人当選)は、日当換算(月18.3万円12か月、期末手当4.5か月)で約5万円だ。猟友会にお金が払えないというなら、町議会議員の定数を削減するなり、猟師に提示した報酬と同程度の報酬(コンビニバイトの時給)にすべきだろう。それで財源は捻出される。