「特定技能」「技能実習」の外国人が、訪問介護で働けるように 人材不足解消への期待と懸念は...識者が指摘
厚生労働省の有識者検討会は、「訪問介護」に従事する外国人材の制限を緩和する案を2024年6月19日にまとめた。
在留資格「特定技能」や「技能実習」で働く外国人材や、経済連携協定(EPA)に基づく「EPA介護福祉士候補者」にも解禁していく方針だ。
それにより、こうした在留資格を持つ外国人材が、訪問介護に従事することができるようになる。そのメリット・デメリットはどのようなものなのか。東洋大学福祉社会ライフデザイン学部教授の高野龍昭氏に話を聞いた。
8割の事業所が訪問介護員の人手不足感じる
厚労省の資料によれば、2022年度の介護サービス職員の有効求人倍率のうち、施設介護員は3.79倍だが、訪問介護員は15.53倍。約8割の事業所が訪問介護員の人手不足を感じているという。
24年6月時点で、訪問介護に従事できる外国人材の在留資格は2種類。EPAに基づいて介護福祉士の資格を取得した「EPA介護福祉士」と、介護福祉士の資格を持つ在留資格「介護」の人だ。なお、EPA介護福祉士候補者、EPA介護福祉士の正確な在留資格は「特定活動」というものだ。
前出の高野氏は、訪問介護の現在の状況をこう取材に説明する。
「訪問介護を含めた介護分野で、給与水準の向上などの処遇改善策を、政府は進めています。しかしながら、訪問介護では、小規模の事業所が多く、経営も効率的に行われていないケースが多く、介護分野のなかで処遇改善策が最も遅れている状況です。そのため、人材不足が続いています」
外国人材の制限緩和について、高野氏は「訪問介護の人材不足に一定の効果が見込まれる」と評価する。
一方、懸念点もある。一定の日本語能力を有する人しか介護分野に従事できないとはいえ、原則として1人で利用者の自宅を訪ねる訪問介護では、利用者が話す言葉を理解したり、要望や体調の変化の訴えに応えることが難しい場合に、他の職員に頼れない。
訪問介護の「生活援助」においても、日本の文化的な習慣や風習を学ばないと対応が難しいだろう。生活援助とは、利用者の身体に直接触れて行う「身体介護」以外で、利用者が日常生活を営むことを支援するサービスのことだ。ようするに、日本の利用者に合わせた調理や洗濯、掃除などを行う必要がある。
また、国籍や肌の色などを理由に、訪問介護の利用者から「来てほしくない」との声が上がり、外国人材が定着しない懸念も考えられるという。高野氏によれば、介護施設では同様の報告がまれではないとのことだ。
介護分野で働く外国人材「優秀で誠実」の声多く
訪問介護が「特定技能」などで働く外国人材にも解禁されるという報道を受け、インターネット上では「外国人材による犯罪が増える」との根拠のない風説が広がった。「まずは国内の人材を増やしてほしい」という声もあがった。
これに対し、高野氏は「介護業界の経営者や現場の職員に聞くと、介護分野で働く外国人材について『優秀で誠実だ』と異口同音に話す人が多い」。日本人と外国人材の犯罪発生率(検挙率)を法務省のデータをもとに比較してみると、外国人材の方が有意に高い状況にはない、とも指摘する。
また、介護分野における国内の人材を増やすことも難しい状況だ。介護業界全体での有効求人倍率は約5倍で推移していると言い、高野氏は「現場も打つ手がない状態だ」と話す。日本人の人材を増やしつつ、外国人材にも期待する方向で制度の改革が進んでいるという。
今後の課題は、外国人材を受け入れる事業所への支援策だ。
訪問介護は小規模な事業所が多いため、外国人材を教育したり、定着のための生活上の支援をしたりする余力が十分ではなく、そのための交付金や補助金が、従来の介護報酬とは別に必要だと、高野氏は指摘している。