インドネシアのスラウェシ島南西部で発見された洞窟壁画が、新たな年代測定法によって少なくとも約5万1200年前のものであることが判明しました。この壁画は3人の人間のような存在がイノシシと関わっている様子を描いたものであり、「現存する世界最古の具象芸術およびストーリーテリングの例」だと研究チームは主張しています。

Narrative cave art in Indonesia by 51,200 years ago | Nature

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07541-7



Cave painting in Indonesia is the oldest known ‘picture story’  - Griffith News

https://news.griffith.edu.au/2024/07/04/cave-painting-in-indonesia-is-the-oldest-known-picture-story/

Found in a cave in Indonesia, we can now show the world’s oldest figurative art is 51,200 years old

https://theconversation.com/found-in-a-cave-in-indonesia-we-can-now-show-the-worlds-oldest-figurative-art-is-51-200-years-old-233663

51,000-year-old Indonesian cave painting may be the world's oldest storytelling art | Live Science

https://www.livescience.com/archaeology/51000-year-old-indonesian-cave-painting-may-be-the-worlds-oldest-storytelling-art

スラウェシ島では数万年前の洞窟壁画が多数見つかっており、2019年の研究では「半身半獣の狩人」が描かれた壁画が、当時としては最古の約4万4000年前に描かれたものであることが報告されました。その後の2021年の研究では、同じ地域で描かれたスラウェシ島原産のイボイノシシ(Sus celebensis)の壁画が、さらに古い少なくとも4万5500年前のものであることが判明しています。

4万4000年以上前に描かれた世界最古の動物壁画には「半人半獣の狩人」が描かれている - GIGAZINE



今回、インドネシア国立研究革新庁やオーストラリアのグリフィス大学などの研究チームは、新たな年代測定法を用いてスラウェシ島の洞窟壁画が描かれた年代を調査しました。

洞窟壁画の年代測定手法のひとつに、顔料の層の上を水滴や水が流れることで形成される炭酸カルシウム粒子に含まれるウランなどを用いて、壁画が描かれてからどれほどの年月が経過したのかを測定する手法があります。「Uシリーズ」と呼ばれるこの手法では、サンプルを手作業で掘り起こしてまとめて分析するやり方が一般的でしたが、このやり方では年代の異なる炭酸カルシウム層が均一化されてしまうという問題があったとのこと。

そこで研究チームは、レーザーを炭酸カルシウム層に照射することで、壁画に近い部分も含めて異なる炭酸カルシウム層を精密にサンプリングする分析手法を開発。「レーザーアブレーションUシリーズイメージング」と名付けられたこの方法で、再びスラウェシ島の洞窟壁画の年代測定を行いました。その結果、かつて約4万4000年前のものだと思われていた「半身半獣の狩人」が描かれた壁画は、さらに4000年以上古い約4万8000年前のものであることが確認されました。

さらに、「Leang Karampuang」という洞窟で発見された「野生のイノシシとやり取りする3人の人間の姿」が描かれた壁画が、少なくとも5万1200年前のものであることがわかりました。この壁画は、作品の中で何かが起こっている「物語」を伝える最古の芸術であると研究チームは考えています。

実際にスラウェシ島で発見された5万1200年前の洞窟壁画は、以下の動画で確認できます。

New discovery! 51,200-year-old cave painting in Sulawesi, Indonesia - YouTube

世界最古の「物語を伝える洞窟壁画」が発見されたのは、インドネシアのスラウェシ島です。



肉眼ではうっすらと何かの影らしきものがあることしかわかりません。



着色するとこんな感じ。大きなイノシシの周りを3人の人影らしきものが取り囲んでおり、何らかのやり取りが行われている様子が確認できます。研究チームは、3人のうち1人はイノシシの喉の周りに何かを近づけており、1人はイノシシの頭の上で逆さまにひっくり返っているように見えると指摘。他の人物より大きく描かれた最後の1人は、正体不明の物体を持ち何かのかぶり物をしているようだと解説しています。



グリフィス大学の進化人類学者であるアダム・ブルム教授は、「人間が絵画を通して複雑な物語を伝える能力をいつ発達させたのか」についての理解を塗り替えるものであるため、今回の発見は重要だと主張しました。



研究チームは、「洞窟壁画が伝える物語が何なのかはわかりません。もしかしたら、実際にあったイノシシ狩りの記録かもしれませんし、神話や想像上の物語を描いたものかもしれません。いずれにせよ、スラウェシ島の初期人類が考えたイノシシと人間の交流に関するものだったようです。少なくとも5万1000年前から、人類はストーリーを伝えるために具象芸術を利用してきたことがわかっています。私たちの新しい年代測定法を使えば、美術史におけるこの重要な発展に関する知識のギャップを埋めることが可能になるかもしれません」とコメントしました。