by Anthony Quintano

ブラジルの国家データ保護機関(Autoridade Nacional de Proteção de Dados:ANPD)が2024年7月2日に、FacebookやInstagramの投稿をAI開発に転用できるとするMetaの新しいプライバシーポリシーを無効とし、ブラジルの国民が生成したデータでAIをトレーニングすることを禁止すると発表しました。

ANPD determina suspensão cautelar do tratamento de dados pessoais para treinamento da IA da Meta - Autoridade Nacional de Proteção de Dados

https://www.gov.br/anpd/pt-br/assuntos/noticias/anpd-determina-suspensao-cautelar-do-tratamento-de-dados-pessoais-para-treinamento-da-ia-da-meta

Brazil authority suspends Meta's AI privacy policy, seeks adjustment | Reuters

https://www.reuters.com/technology/artificial-intelligence/brazil-authority-suspends-metas-ai-privacy-policy-seeks-adjustment-2024-07-02/

Brazil data regulator bans Meta from mining data to train AI models | AP News

https://apnews.com/article/brazil-tech-meta-privacy-data-93e00b2e0e26f7cc98795dd052aea8e1

ブラジルのANPDは7月2日に「プラットフォーム上に公開された個人データを、AIシステムのトレーニングに使用することを容認するMetaの新しいプライバシーポリシーを、ブラジルで即時停止することを命じる予防措置を発表します。コンプライアンス違反には、1日当たり5万レアル(約140万円)の罰金が科されます」と発表しました。

この措置は、MetaがユーザーのデータをAIのトレーニングに使用する指針を示したことを受けたものです。Metaは2024年6月26日にプライバシーポリシーを更新し、ユーザーが明示的に拒否した場合を除き、Metaは同社のソーシャルメディアのユーザーが公開したコンテンツをAIのトレーニングに使用することができるものとしました。

この変更に対しては、施行前からアーティストらを中心としたユーザーが反発していたほか、EUでも発効を一時差し止める命令が下されています。

MetaがFacebookとInstagramの投稿でAIを強化する計画をEUで一時停止へ - GIGAZINE



ブラジルはMetaにとって最大の市場のひとつで、同国にはFacebookだけでも約1億200万人のアクティブユーザーがいます。そのため、ANPDは「このような扱いをすることは、相当数の人に影響を与えるおそれがあります」と懸念しています。

ブラジルの一般データ保護法(LGPD)違反の兆候があったことから、この件に関する予備調査を開始したANPDは、「個人情報を生成AI開発に使うことによって起きる結果をデータ主体、つまりデータの持ち主が認識できるような明確かつ正確で容易にアクセス可能な情報をMetaが開示していない」と結論づけました。

当局は特に、写真や動画、投稿などといった児童や青少年の個人情報が適切な保護措置なしで処理されている点を問題視しています。

審査ではほかにも、ユーザーには個人情報の処理を拒否する権利があるにもかかわらず、その権利を行使することに対する過度で不当な障害があることも判明しました。

当局はMetaに対し、プライバシーポリシーを改訂して生成AIのトレーニングに個人データを使用することに関するセクションを除外し、そのような目的での個人情報の処理を一時停止したという公式声明を出すよう求めています。



一方Metaはメディアを通じた声明でANPDの決定への失望を表明した上で、この動きはイノベーションの後退を意味し、ブラジル国民がAIの恩恵を享受できる日の到来を遅らせることになると付け加えました。

声明でMetaは「当社の透明性は、モデルや製品のトレーニングに公開コンテンツを使用しているこの業界の多くの他企業よりも高いものです。また、当社のアプローチはブラジルのプライバシー法や規制に準拠しています」と述べています。

この決定に対し、人権を擁護する立場からは歓迎の声が上がっています。ブラジルを拠点とする人権団体の研究員であるHye Jung Han氏はAP通信に「当局の決定は、Metaのソーシャルメディアで友だちや家族と共有した個人情報が、予測や予防が不可能な方法で自分たちに危害を加えることに使用されるかもしれないという不安から子どもたちを守るのに役立ちます」と話しました。



一方で、自社プラットフォームのデータをAIの訓練に使うと率直に表明したMetaに対する厳しい措置は、他のAI企業にデータの使途の明示を控えさせ、透明性を低下させる結果を招きかねないとの指摘もあります。

ブラジルのシンクタンクであるリオデジャネイロ技術・社会研究所のロナルド・レモス氏は「Metaは大手テクノロジー企業の中で唯一、自社のプラットフォームから得たデータをAIの訓練に使うと事前にはっきり通知した企業だったために厳しく罰せられたことになります」と述べました。