© Buena Vista Pictures 写真:ゼータ イメージ

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ジョン・マスカーは、ディズニー黄金期の作品『リトル・マーメイド』(1989)や『アラジン』(1992)オリジナルアニメ版で共同監督と製作を手がけた伝説的な人物だ。手描きアニメの全盛期を支えた重要人物であるが、2000年代以降も『プリンセスと魔法のキス』(2009)や『モアナと伝説の海』(2016)でディズニーとの仕事を続けた。

マスカーには、手描きアニメへの矜持がある。1995年のCGアニメ『トイ・ストーリー』が大ヒットした一方で、マスカーが監督を務めた2002年の『トレジャー・プラネット』が不振だった後、ディズニーはデジタルアニメへと変遷していったことを、マスカーはスペインのにて振り返っている。「アニメーションの時代が終わり、ディズニーは手描きから離れつつありました。『トイ・ストーリー』の後、彼らは私に、クラシック映画の全てをデジタルアニメーションに変換したいと申し出ました。私は、だったら腹を切りますと答えました」。

そんなマスカーが手がけた名作アニメたちは、実写化されて新たに蘇っている。中でも『リトル・マーメイド』は、アリエルが有色系キャストによって演じられたことで、世界中で大きな議論を招いた。ディズニーはポリティカル・コレクトネスに傾倒しすぎだという批判も聞こえるようになった。

マスカーは2009年に『プリンセスと魔法のキス』を監督し、久しぶりにディズニーと仕事をした。この映画は現時点でディズニー最後の手描きアニメ映画であり、またディズニー初の黒人プリンセス映画でもある。「私たちは、“woke”であろうとしていたわけではありません。とはいえ、批判も理解しています」と語るマスカーにとって、現在のディズニー作品は、何か大切なものを見落としているように感じられるようだ。

「ディズニーのクラシック映画は、メッセージありきで始まっていませんでした。彼らは、キャラクターや物語、世界観に共感してもらうことを考えていました。今でも、それこそが心臓部だと思います。思惑を排除する必要はありませんが、まずは共感でき、説得力のあるキャラクターを作らなくてはいけません。娯楽性や力強い物語、魅力的なキャラクターが先なのであり、メッセージ性はその次にするという点で、彼らは少し方向修正をするべきだと思っています。」

その上でマスカーは、ディズニーが新たな挑戦に及び腰になっていることや、実写リメイク作品の描写にも疑問があったことを、次のように述べている。

「企業というのはいつも、こういう考え方をするものです。“どうやってリスクを軽減できるか?こういうものが好まれたのだから、別の形に変えて、もう一度売り込もう”。あるいは、“もっと良いものが作れた”と考えるかです。『リトル・マーメイド』にも疑問がありました。父と娘の物語が映画の心臓部だったのに、彼らはそれを重視しなかった。それに、あのカニ(=セバスチャン)です。動物園に行って、本物のカニを見てください。もっと表情豊かですよ。『ライオン・キング』もそうです。それこそがディズニーの基本的な魅力の一つなんです。それをうまく表現できるのは、アニメーションなんです。」

マスカーが共同監督を務めたCGアニメ映画『モアナと伝説の海』(2016)も、今は実写映画化に向けて準備が行われているところだ。マスカーはこれに参加しない。「うまくやってくれることを願いますよ」と、マスカーは願っている。

作品で描かれる価値観や、表面的な描写のあり方は時代とともに大きく変化するものであり、別時代に甦らせるためには細心の注意が必要だ。1937年の『白雪姫』もまもなく実写リメイクが施されることになるが、オリジナル版の監督デイヴィッド・ドッド・ハンドの息子であるデイヴィッド・ヘイル・ハンドは、「リスペクトがない。ウォルトも父も、あの世で嘆いている」とを呈したことがある。

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