ドラマ『Destiny』第1部まさかの完結。貴志(安藤政信)の涙に驚き…最後に“何してんねん!”真樹(亀梨和也)
<ドラマ『Destiny』第5話レビュー 文:木俣冬>
真樹――。何してんねん!と叫びたくなったラストシーン。
カオリ(田中みな実)の死は事故だったとわかったのもつかの間、またしても容疑者になってしまう野木真樹(亀梨和也)。病状も心配です。
5月7日(火)に放送された、第1部完結となる『Destiny』第5話の見どころを簡単にまとめてみるとこうなる。
・石原さとみと安藤政信の泣き演技と、亀梨和也の苦痛演技
・佐々木蔵之介と仲村トオルの違うドラマみたいな裁判シーン
・第1話の冒頭は第5話のラストに繋がっていた
(※以下、第5話のネタバレがあります)
新たな登場人物・新里(杉本哲太)が現れて、20年前の過去が動きだした。
新里は奏(石原さとみ)の父・辻英介(佐々木蔵之介)のかつての部下で、英介を死に追いやった「環境エネルギー汚職事件」の経緯を知っていた。が、彼の口からは真相は明かされることなく、奏にヒントを伝えるのみ。
「辻さんは死をもって真実を封じ込めた」――。新里の意味深な言葉を噛み締めながら、奏は自力で英介の真実にたどり着く。
当時を記録したノートは処分されていたが、長野の実家にボイスレコーダーが残っていた。文字だと手を入れることもできてしまいそうだが、声には手を加えることはできない。英介の肉声、語り口が、いまも生きているように鮮やかに、事件当時のことを奏に伝える。
英介の渾身の記録を聞くにあたって奏は、真樹を自宅マンションに呼んで一緒に聞くことにする。誰かに聞かれてはならないから自宅にした、というが、貴志(安藤政信)との住居に真樹を呼んでいいのか。貴志のメンタルが心配になる。
手にカナカナと刺繍されたタオルハンカチ(物持ちがいい)を用意して臨む奏。テレコから流れる英介の肉声は、事件のあらましを詳しく語る。
裁判シーンでは、英介と浩一郎(仲村トオル)の緊張感あふれるやりとりが長く続き、別のドラマがはじまったかと思うほどだった。
(ここからは英介の語りの要約になります。復習と思ってご覧ください)
環境エネルギーに関する補助金を巡って、東議員と山上重工業の副社長が逮捕され、その取り調べを担当したのが英介。
自白はとれなかったが、東議員の関与を裏付ける証拠のメールがみつかる。出所がはっきりしないため英介は迷い、上司に相談するも、起訴しろの一点張り。
しぶしぶ贈収賄で起訴したが、浩一郎が弁護に立ち、メールは捏造したものと指摘する。
メールを提出した議員秘書は、供述を強要されたと言い出して、英介は追い詰められていく…。メールが送られていた時間に、秘書は病院で人間ドックを受けていた。となると、メールを送ることはできない。
東議員は無実になり、証拠が捏造されたものと知りながら起訴に踏み切ったとして、英介は懲戒免職になる。誰も味方してくれず、孤立無援の英介。すべての責任が彼に押し付けられたのだ。
父の置かれた状況と心情を思い、タオルで顔を覆う奏。
「でもこれが私の突き止めた真実」
やはり浩一郎が、間接的にお父さんを自殺に追いやったのだ。
石原さとみは鼻が詰まった感じの声になっていて、ほんとうに泣いているように見えた。迫真の泣き芝居。
「私達、もう会うのはやめよう」と真樹に言う。
真樹もこれでは帰るしかない。黙って去っていく。が――。
「もう二度と会うことはない。これが私たちの運命」と奏が浸っているとガタッと音がして、玄関に真樹が倒れていた。
おーい、ここで倒れるかー、もうちょっと強がることができなかったのか真樹。いや、それだけ病状が悪化しているということだとは思う。亀梨和也の痛みに苦悶する表情は絶品だった。
◆真樹の“正義”とは何だろう。その晩、火事が…
奏は貴志に連絡し、真樹を病院に運ぶ。
真樹がマンションに来てた? とびっくりする貴志。そりゃそうだ。奏の説明を聞いて、「僕は!」と大きな声をあげたすえ、涙目になってしまう。え、泣いてる? とびっくりした。大人で包容力のある人かと思ったけれど、こんなにも純粋だとは。
奏のことを思う自分と、勝手なことをしている奏との距離を思って子供のように悲しくなっている姿を見ると、貴志派になってしまいそう。ちょっとやばい人かも?と疑ったことを謝罪したい。安藤政信の涙目、貴重。
奏は「大切なのは貴志だよ」と言い、「もう会わないし、会う気もないから」と言う。あの日うっかりキスしたことを思い出しもしないように見える奏。確かに「忘れる」とは言っていたけれど、ほんとうに忘れちゃったのかもしれない。
でも、人間ってそういうもの。その場、その場でどこに本気になるか変わってしまうものなのだ。こういう味付けがちょっと凝った料理のような人間描写が『Destiny』の醍醐味である。
奏と貴志の話を立ち聞きしている真樹の痩せた首筋から肩にかけてのラインが切ない。
三角関係ではふたりの男性が同等に魅力的であることは重要だ。その点、真樹と貴志は完璧である。
貴志にテレコを聞かせる奏。これは信頼の証だろうか。そう感じて安心したのか、貴志が「ひとつだけ言っておきたいことがある」とさだまさしみたいなフレーズで切り出したのは「彼は癌だよ、それも重篤な」という重い宣告だった。
ここで主題歌『人間として』がかかる。第3話に続いてこの主題歌の正しい使い方だと思う。
椎名林檎の歌詞は、正義に「賢しく能弁か」と問いかけている。そして貴志は「僕が主治医だから、彼の」と言うのだ。
つまり、これは貴志の医師としての正義の表明。病気の話をしたら奏の心は真樹のほうに向かうだろうとわかっていながら伝える理由は、奏から言われれば真樹も治療をするかもしれないからではないか。
貴志は泣くほど奏を愛しているけれど、医師としての正義(患者を治すことが第一)を貫く。そう、正義とはときとして目の上のたんこぶのような存在である。
奏は、父の正義を受け継いで、自分の正義を貫くことで、真樹との関係を断ち切ろうとした。
では、真樹の正義とは何だろう。真樹は実家を訪れ、その晩、火事が起こる――。
第1話冒頭、奏が早口でブツブツ言っていたのは、「あなたは今回、“現住建造物等放火”という罪で逮捕されました」だった(最初からここに気づいていた方々はすばらしい)。
真樹は実家に火をつけたのだろうか。重篤の病を抱えたうえ、奏は「大切なのは貴志」と言うし、失うものが何もない真樹はある意味、無敵の人ではあるのだが……。