森田想、記憶に残る役に次々チャレンジ。女同士の壮絶な殴り合いシーンでは「段取りより多くなってしまって(笑)」
2018年、74分間ワンカットで描いた初主演映画『アイスと雨音』(松居大悟監督)が東京国際映画祭で上映され、念願だったというレッドカーペットデビューを飾った森田想さん。
圧倒的な存在感と繊細な心情表現で注目を集め、映画『タイトル、拒絶』(山田佳奈監督)、『放課後ソーダ日和 特別版』(枝優花監督)、映画『踊ってミタ』(飯塚俊光監督)、連続テレビ小説『エール』(NHK)、『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)など話題作に次々と出演することに。
◆車から放り出され…「痛かったです」
2019年、森田さんは、舞台の演出家として活躍してきた山田佳奈監督の長編映画監督デビュー作『タイトル、拒絶』に出演(公開は2020年)。
この作品は、それぞれ事情を抱え苦悩しながらも力強く生きるセックスワーカーの女性たちを描いたもの。森田さんは、デリヘルで働くキョウコ役を演じた。送迎車の運転を務める若い見習いスタッフ・良太と肉体関係があり、恋愛感情を持っているが疎まれ、乱暴に扱われる。
「あの作品は、主演が伊藤沙莉ちゃんで、全員が『じゃあ、やりたい!』って思ってやった作品だし、山田佳奈さんという女性の監督が本当に鋭い方というか。
カットがかかったときにこっちが『OKは出たんだけど、ちょっと…』って思っていたら、そのことを言い当ててくれる監督で、『今やりづらかったでしょう?セリフ、もうちょっと早く言いたかったでしょう?』って察して気遣ってくれる監督だったので、現場もすごくいい雰囲気でやっていました」
――好きな人にひどい扱いを受けていましたね。
「そうなんです。結構ひどい目に遭わされていますよね。車から放り出されたり、ひどいことを言われたり…路上に何度も転ばされて。痛かったです」
――セックスワーカーは、あまり馴染みがない仕事だと思いますが、キョウコを演じるにあたってどのように?
「まずセックスワーカーという設定の前に、恋愛にしっかりハマッている子みたいなことがあり、自分的にもあまりわからない感じなので、そこのほうが難しかったかもしれない。男の人に対してそこまで固執するということが。
そんなひどいことをされても好きみたいな気持ちのほうが、私は寄り添えないので考えたかな。ただただキャーキャー騒ぐ女の子じゃなくて、好きだからやっているという風にはどうしたら見えるのかなって考えていました。そこをしっかりやろうと思っていたので」
――良太はワルぶっているが、実はそうじゃないと言い、どんなにひどい目に遭わされても離れない。
「そう。めっちゃいい子ですよね(笑)。車から引きずり出され、路上に倒されて、バッグの中身もグチャグチャにされて…本当にひどいですよね。それでも好きだという思いはわからない。あんなに拒絶されても好きでいられるなんてわからないです」
――キョウコを演じていていかがでした?
「自分がキョウコちゃんを支えてあげなきゃじゃないけど、許してあげなきゃという風に思っていたので、ひどい目に遭わされるシーンもしっかりキョウコちゃんとして傷つくことができました。それで打って変わってみんなでギャーギャー騒ぐシーンとかはラフにできたので、そこの差もおもしろかったかなって思います」
――登場キャラがみんな個性的で印象的でした。
「そうですよね。それぞれワケありで、多種多様というか…楽しかったです」
◆壮絶な殴り合いのシーン
2019年、『放課後ソーダ日和 特別版』が公開。この作品は、枝優花監督による『少女邂逅』のアナザーストーリーとしてYouTubeで配信されたWEBドラマを劇場用に再編集したもの。クリームソーダを求めて純喫茶をめぐり歩く少女たちの小さな冒険を描く。
「枝(優花)さんの色たっぷりのYouTubeだったのですが、それが劇場版にと聞いてうれしかったです。枝さんも映画監督をメインでやっている方なので、映画として消化されるのもうれしかったし、何かそういうのが流行っているのかなと思いました。
自分はYouTubeで公開していたらYouTubeで見ちゃうなと思ったけど、やっぱり映画好きの方は映画館で見てくださる方が多いから、そういう方たち向けに披露できるのも良かった。うれしかったです」
――若さに溢れはつらつとしていて眩しかったです。メロンソーダが500円600円。学生にとっては大きいですよね。
「めちゃくちゃ大きいんですよ(笑)。高校を卒業した後に撮ったので、すごく気持ちがわかる感じでした。食べたいけど、高いなあって。撮っていたのが夏場か夏前だったので、メロンソーダがいっぱい食べられておいしかったです(笑)」
2020年、森田さんは映画『踊ってミタ』に出演。この映画は、過疎化が進む町の住民たちが“踊り”によって再生していく姿を描いたもの。森田さんは、アイドル志望だったがなれなかった中森役。母親に反対され、ご当地アイドルグループを脱退したクラスメイトの古泉ニナ(加藤小夏)をいじめ、壮絶な殴り合いシーンも。
「私が演じた中森にはアイドルになれなかった妬みみたいなのがあって、ちょっと意地悪をするというか。高校を卒業してわりととすぐだったので、また学生役ができて、(加藤)小夏ちゃんとも出会えたりしたのでうれかったです」
――二人で殴り合うシーンは、森田さんのほうが圧倒的に殴っていましたね。
「そうですね。1発か2発殴られて、5、6発殴り返しているような感じで、段取りより多くなってしまって(笑)。本番では何をやってもいいと思っているので。でも、小夏ちゃんのほうが怒っていたイメージ。気の強さの戦いみたいな感じでおもしろかったです」
――最後にニナが踊っているところをネット中継で見ているときの森田さんの表情がとても良かったです。ただのいじめっ子じゃなくて、自分がなれなかったアイドルになれたのに、母親に反対されて簡単に辞めてしまったことに対する怒りでニナに意地悪を…というのがわかって。
「良かったです。主人公に嫌味を言ったり、意地悪をする役は結構多いのでわりと得意ではあります(笑)。そういう役をやる時期が結構ありましたね。いい気分ではないですけど、ひ弱な役よりかは気の強いほうが演じやすいかな。
いじめっ子に対してはあまり親近感を感じたくないですけど、気が強いとか、しっかり自分が思っていることを言うみたいな部分は私も持っているとは思うので」
◆初朝ドラは「緊張しすぎて記憶がない」
2020年、連続テレビ小説『エール』(NHK)に出演。昭和という激動の時代に、人々の心に寄り添う曲を数々生み出した作曲家・古山裕一(窪田正孝)と、歌手になる夢を追い続ける音(二階堂ふみ)夫婦の物語。森田さんは、小山夫妻の娘・梅(森七菜)の幼なじみでもある先輩作家・幸文子役を演じた。
――初めての朝ドラはいかがでした?
「緊張しすぎて、本当に何も覚えてないです。めちゃめちゃ緊張していました」
――作家としての才能とは別のところで最初から注目を集めている梅ちゃんに対する怒りがすごかったですね。
「そうですね。梅ちゃんに対する妬みがあって。でも、作家になったのに、好きな人ができたから、簡単に田舎に戻るということにまた怒りが…という気持ちはすごくよくわかるなあって。そういう意味ではものすごく感情移入しやすかったですね。ただ、緊張しなきゃもっとうまくできたかなって思います」
――朝ドラの撮影は独特の雰囲気だと思いますが、いかがでした?
「本当にそうでしたね。あとやっぱりあのシーンだけだったから、私のせいで時間を押させてもいけないとか、いろいろ考えてしまって…緊張しました。記憶がないくらい(笑)。でも、良い経験になりました」
同年、『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)に出演。都内の進学校の3年D組の担任として義澤経男(田中圭)がやって来る。3年D組には成績は優秀だが、大人を追い詰め、壊れていく姿をゲームのように楽しむ生徒たちが集まっていて、自らの手を汚すことなく完全犯罪に近い形で担任を潰していく。義澤と生徒たちの壮絶なバトルが…という展開。
森田さんは、飲食チェーン店の社長の娘で、同級生の女子生徒にマッチングアプリで“パパ活”をさせ、お金を稼がせている大木薙役を演じた。
「以前、『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)の最終回に出たのですが、そのご縁でそのプロデューサーさんが声をかけてくださり出演することになって、うれしかったです。
メインキャラクターのひとりというのもうれしいですし、学生モノで。結構変わったおもしろいコミカルな学生モノだったけど、キャストの子も久保田紗友ちゃんは元々仲が良かったですし、他の子も仲良くなって今も一緒に遊んでいるので、すごくいい出会いのドラマだったなと思います」
――森田さんが演じた薙は、仲間にパパ活をさせてお金を巻きあげて。
「そう。社長令嬢で上位グループにいたのにお父さんが問題を起こして会社を追放されてしまう」
――上位グループからはみ出したくない焦りみたいなのがすごく出ていましたね。
「自分がメインのそういう回も作っていただけてうれしかったです。上位グループにいたんだから、やっぱり下には落ちたくないというのが、学校あるあるで」
――それにしてもすごい展開でしたね。
「本当ですよ(笑)。もうゾンビの世界でしょう? 後半はもう台本が来たときにはみんなで楽しんでいました(笑)」
――最初からどういう展開になるか聞いていたのですか?
「詳細は知らされていませんでしたけど、大雑把にゾンビというか、そういうテーマ性は聞いていました。ただ、進行状況で変わっていくという感じではありましたけど。父親が会社を追放されて落ちぶれるというか、最初からずっとリッチではないからグループ内で気を遣っているということは、一応聞いていました。
後半の展開はちょっと予測してなかったですけどおもしろいなと思います。だからおもしろがって、それこそ配信とかで見てくれる知人とかはいました。復活の儀式があって、最終的にハッピーエンドなので」
――ユニークな展開のドラマでした。撮影はスムーズにいったのですか?
「主演の(田中)圭さんとか皆さんお忙しかったので、スケジュール的にはそんなにスムーズではなかったかもしれないですけど、雰囲気はとても良かったです。スピンオフがあって、そっちは山田(裕貴)さんがメインで異常なセリフ量だったので、本当に大変だったと思いますけど、とても印象的なドラマでした」
森田さんは、2023年の映画『わたしの見ている世界が全て』(佐近圭太郎監督)に主演し、マドリード国際映画祭外国映画部門主演女優賞を受賞。映画『レジェンド&バタフライ』(大友啓史監督)など話題作出演が続く。次回は撮影エピソード、公開中の映画『辰巳』(小路紘史監督)も紹介。(津島令子)
ヘアメイク:齋藤美幸
スタイリスト:入山浩章