中村憲剛×佐藤寿人
第19回「日本サッカー向上委員会」後編

◆第19回・前編>>日本代表のもろさ「前線、中盤、最終ラインの思惑が少しずつズレていた」
◆第19回・中編>>「GK問題」に見る世代交代の必要性「パリ経由でひとりでも多くA代表へ」

 1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。

 ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」の第19回は、ふたりに2024年の日本サッカーを占ってもらった。

 残念な結果に終わったアジアカップの日本代表と、序盤戦から大混戦を見せるJリーグ。日本サッカーを支える両輪を、どのような視点で見ているのか──。

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第6節で16年ぶりのJ1勝利を挙げた東京ヴェルディ photo by Getty Images

── 2024シーズンのJリーグが開幕して1カ月ほど経ちました。4試合が終わった段階(※インタビューは3月18日に実施)ですが、J1初参戦のFC町田ゼルビアがいきなり首位に立つ驚きの幕開けとなりました。

憲剛 町田は結果を出せるサッカーをしています。勝つ確率を上げるサッカーを。徹底していますし、強いです。

寿人 まさに、ですね。

憲剛 勝つためには、いろんな戦い方があっていい。町田には「どうやって勝つか」──それが明確にあって、そこに向けて選手を補強しました。

 勝つ確率を上げることを徹底して、それを遂行する。相手よりもハードワークするところだったり、球際のところもそう。そこを手を抜かずに徹底してやり続けるから、見ていて本当に強いなと思います。

 チームの戦い方の密度で言えば、ちょっと抜けていますよね。4-4-2で、前に高い選手や速い選手、強い選手がいて、彼らの特徴を活かした戦いをしています。さきほど、代表のところで話したイラクやイランの戦い方に少し近いのかもしれない。

 要は、日本人が苦手としている戦い方、それを根気よくやり続けられる心身のタフさがあるので、根負けしてしまうチームがここまで出ています。

寿人 本当にいろんな戦い方があってしかるべきで、ボールを持つチームもあれば、逆に相手にボールを持たせて、カウンターを仕掛けるチームもある。「攻撃が正義」で「守備的な戦い方が悪」みたいな風潮もありますけど、結局、勝つためにその戦い方を選択しているだけであって。プロは結果がすべてですから、そこを徹底して追求しているのが町田の強みなんだと思います。

憲剛 そこへの執念は、図抜けている気がします。際のところで絶対に水を漏らさないことや、とにかく隙を与えないことを徹底していると思う。

寿人 そうなんですよね。

憲剛 2017年から6年間、フロンターレとマリノスが攻撃的なスタイルで優勝争いをシェアしてきたなかで、去年は神戸がコンパクトでコレクティブなハードワークをベースにして戦い、優勝した。同じ年にJ2でも神戸と似たスタイルの町田が優勝し、昇格して、今はJ1で首位。

 攻撃サッカーに対抗するために、強度の高い守備を整備したチームが勝ちはじめているフェーズなのかなと。なので、今度はその守備を打ち破るチームが出てくるはずで、そうやってサッカーは進化していくんですよね。

── 連覇を狙う神戸も、まずまずのスタートをきりましたね。

憲剛 そうですね。今、神戸はディフェンディングチャンピオンという重圧がかかっていると思います。対戦相手の警戒網は、たぶん想像以上のものがある。実際に今年はやりづらさを感じていると思いますよ。すごく研究されているなって。フロンターレも優勝した次の年はそうだったし、寿人も広島の時はそうだったでしょ?

寿人 そうでしたね。

憲剛 やっぱり優勝するとそうなるんです。それをどうかいくぐって成長していくか、という新たなテーマが出てきます。

── 寿人さんの古巣である広島もスタートダッシュに成功しましたね。

寿人 広島もそうですし、セレッソもいいですね。この2チームに共通するのは、同じ監督が継続してチームを作っていて、足りないところをしっかりと補強し、チームに組み込んでいること。

 広島は安定してピッチに立てるフィニッシャーがいないなかで、湘南から大橋(祐紀)を獲った。彼はすぐに結果を出しましたし、前線が安定してきたことはかなり大きいですね。セレッソも田中(駿汰)の存在が際立っていますし、登里(享平)が入ったことでビルドアップがスムーズになった。そこはセレッソに足りていなかったところなので、いい補強をしたと思います。

憲剛 広島は去年から攻撃のデータが軒並みよかったんですよ。足りなかったのはゴールの決定値だけで。

寿人 そうなんですよ。それだけでしたね。

憲剛 だから、そこに大橋を獲ってきた。文脈が明確ですよね。その大橋がすぐに結果を出しているのが大きいし、加藤(陸次樹)もいて、マルコス・ジュニオールもいるので、前線のタレントは揃っていますよね。あとは、うしろの選手たちがどこまでがんばれるか。

寿人 鉄板の3枚がケガなくやれるかどうか、ですね。

憲剛 今の広島のサッカーを支えているのは、佐々木(翔)、塩谷(司)、荒木(隼人)だと思います。特に中央の荒木ですね。ひとり余るのではなく、彼が1対1を制して守れるので、周りの選手たちがあれだけ高い位置から行くことができる。

寿人 フロンターレが無双していた時の谷口(彰悟)とジェジエウの存在に近いかもしれないですね。個の力で守れてしまうので、前に人数をかけられる。だから、うしろの3人がいなくなった時にどこまで今のサッカーができるかは、ちょっと心配ではあるんですけど。

── 一方で、憲剛さんのフロンターレは苦しいスタートとなっています。

憲剛 思ったような序盤戦でないことは間違いないと思います。

寿人 大変なんですか?

憲剛 スタッフも選手もかなり入れ替わったので、大変だと思う。ただ言えるのは、そもそもこれまでもそうであったように、新しい選手が馴染むのに時間がかかるチームであることは間違いないということ。

 今年はいろんな意味でピッチ内外を支えていた選手たちが複数人いなくなり、そこに若くて力のある選手たちが入ってきたけど、じゃあすぐに額面どおりの力が出せるかと言えば、そんな簡単にはいかない。

 だから、個人的には時間はかかるかなとは思っていましたけど、シーズンの開幕戦がいきなりACLのラウンド16であったのも厳しかったですね。準備期間が短いなかでスタートして、そこで負けたショックもあるんじゃないかと。

── 寿人さんのもうひとつの古巣である名古屋も開幕3連敗といきなり苦しんでいます。

寿人 心配ですね。しかも3戦連続、完封負けですから。その後に柏に勝ったので、いい流れになってくれればいいんですが。

── 不調の原因はどのあたりにあると分析していますか?

寿人 去年の途中にマテウスが抜けて、その後に攻撃のところを再構築できないままシーズンを終えてしまった。マテウスが抜けた後に森島(司)を獲ったんですが、やっぱりタイプがまったく違うので、形はなかなか見えなかったですよね。

 今年に関して言えば、前線にいい選手を入れましたけど、うしろがこぞって入れ替わってしまった影響は大きいと思います。中谷(進之介)にしろ、藤井(陽也)にしろ、丸山(祐市)にしろ、守れるエリアが広いので、彼らの力でなんとか耐えていたっていう局面もかなりあったんです。

 でも、今はそこに取って代わるべき選手たちがまだまだチームにフィットしきれていないので、なかなか厳しいですよね。

憲剛 まだ4試合が終わった段階ですけど、すでにいろんなものが見えてきていますよね。思惑どおりに結果を残せているチームもあれば、うまくやれている気はするんだけど、結果につながらないチームもある。逆に、苦しい戦いをしながら勝っているチームもおそらくあると思います。

寿人 序盤戦はありますよね。勢いだけで勝てているチームとか。

憲剛 なので、この2週間の中断期間はすごく大事な時間だと思うんですよ。これまでに出た課題をどうやって解消していくのか。2週間のなかでいろいろできると思います。

 それぞれの思惑が見えてきたなかで、本当は全チームについて話したいところですが、さすがに読者の方たちもしんどいと思うので止めておきます(笑)。でも、序盤戦を見ただけでも、今年もJリーグは面白くなりそうだなと感じています。

寿人 新潟がいいですよね。継続路線を突き進むなかで、監督の提示するサッカーを選手たちがしっかりと理解している。ある程度リスクを負いながらも前に出ていく姿勢は、見ていても躍動感はありますし、頭でしっかり整理されているからこそチャレンジできているんだなと思います。

 単純に「楽しいな」って思える試合が多いんですよ。それを日本人監督が作り上げているのもすごく興味深いですし、補強の面でもある程度限られた予算のなかでうまく立ち回っている。そういうチームには純粋に、がんばってほしいなって思いますね。

憲剛 やっぱり強化と現場のリレーションがうまく取れていると、補強も含めてスムーズですよね。「どういうチームを目指すのか」というプレーモデルがビジョンとしてあって、そこに向かって監督がチーム作りを進めるなかで、フロントがうまくサポートする形を作れているところが、必然的に上にいるのかなと思いますね。何もこれは今に始まったことじゃなく昔からですけど、序盤戦を見るかぎりあらためてそう感じます。

寿人 ヴェルディもがんばっていますよね。まだ結果は出ていないですけど、守備の強度はすごく高いですし、いい若手もいる。ただ、90分持つかっていうところは、まだまだですけど。

憲剛 今年のヴェルディを見ていると、フロンターレが昇格した時のことを思い出すんですよね。やれる手応えは感じているんだけど、最後のところで勝ちきれずに負けたり引き分けたり。

 2005年のフロンターレがそうでした。最後のところで「J1の壁」みたいなのにぶち当たって、なかなか勝てなかったですね。だけど、そこでブレずにやりきるなかで、ひとつ勝ったら吹っきれたところがあった。今のヴェルディもそうだと思いますよ。

寿人 85分ぐらいまでは互角にやれていますもんね。

憲剛 本当に勝ちきるためには、そこからの5分、10分をどう過ごすか。その時間帯に力を発揮できるところが、やっぱり強いんです。

 ヴェルディはそこの洗礼を浴びている感じがしますけど、ひとつ勝ったら流れは変わっていきそうな感じはしますし、サポーターもそういう空気を感じているんじゃないですかね。何よりJ1でやれる喜びを感じていると思うので。16年ぶりですからね。ここからの奮起を期待しております。

(第20回につづく)

【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグMVPを受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。

佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。