イオンが物流改革に本腰を入れる(撮影:尾形文繁)

物流2024年問題が迫っている。「働き方改革関連法」による残業時間規制強化が4月からトラックドライバーにも適用されることで、荷物の未配や遅配、運賃高騰などが懸念されている。

物流問題は2024年以降も深刻化が予想されており、荷主の危機意識は強い。たとえばスーパー業界では各地で研究会が立ち上がり、競合同士が手を取り合う協業に発展している(詳しくはこちら)。国内流通2強の一角、イオンは物流危機にどう立ち向かうのか。同社で物流を統括する手塚大輔執行役に聞いた。

ーー「物流2024年問題」が迫っています。

国の試算では日本全体で2019年度比14.2%の輸送力が不足すると言われている。何もしなければ、お客様への転嫁を強いられるだけでなく、店舗に商品を運ぶこと自体難しくなってくるだろう。小売業は社会的なインフラ。それだけに物流問題は重大なテーマである。

車両数を5〜10%削減

ーーイオンとしてどう取り組みますか。

核となるのはオペレーション変更による物量の「平準化」だ。時間と曜日の2軸で物量の波を抑えていく。

前者に効くのが「朝便」「昼便」の区分廃止だ。私自身もスーパーマーケットの経営に携わっていたからわかるが、店舗は昼よりも朝に発注量を増やしがちだ。そうすると、朝のピークに合わせて車両を用意しなければならなくなる。そこで今後は朝から昼までを一つの配送時間帯に設定し直し、納品量を分散させることで車両数を削減する。

またこれまではトラックが倉庫から出発する時間を厳格に決めていたため、荷台がスカスカなまま運行する車両も多かった。今後各トラックは時間ではなく、満載になったことを条件に出発するようにする。その分、積載率の改善が見込める。

後者については、特売商品の配送方法を変える。特売日はそれ以外の日と比べ、物量が倍程度に膨れ上がる。その分、トラックの手配にコストや手間がかかっていた。今回「特売品はその日の朝に届けるもの」という習慣を見直し、特売日の前日以前から段階的に店舗へ配送することで曜日ごとの物量の差を抑える。

いずれも、約2年前からイオン九州をはじめ地方子会社の協力の下、効果を確かめてきた施策だ。今春からはこれらを全国の3300店舗に展開することで、5〜10%車両数を削減できると考えている。

ーー2030年には2019年比で34%もの輸送力が不足するという予測もあります。

まだ改善の余地はある。現在のイオンは2000年代前半に構築された物流網をいまだに使い続けている。2024年問題対応の一方で、中長期的に物流の構造全体を作り直さなければならない。2030年をターゲットにプロジェクトを進めているところだ。

「総合スーパーにとって最適な物流」から脱却

ーー既存の物流網が時代にそぐわなくなってきたということですか。

そうだ。2000年代に整備された現在の物流は当時のイオン、つまり大箱の総合スーパー(GMS)業態にとって最適な物流網だった。そこから20年あまりが経ち、事業の主役は中小型の食品スーパーやドラッグストアとなった。さらに「まいばすけっと」のような超小型店など、業態構成が多様化してきている。


てづか・だいすけ:1975年生まれ。2002年9月イオンクレジットサービス入社。イオンの戦略部長や傘下のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役副社長等を経て、2021年3月よりイオンの物流担当。2022年3月からはイオンの執行役、物流機能子会社の社長も兼ねる(写真:イオン提供)

テクノロジーの進化にも追いつかないといけない。アナログ技術が中心の日本のスーパー業界に対し、アマゾンなどのECプレイヤーは倉庫の自動化やデータ活用などを進め、物流を進化させてきている。

こうしたビジネスモデルの変化やテクノロジーレベルの発展に合わせて、もう一度現在、そして2030年以降の戦略にあった物流網に構築し直したい。

ーー物流センターなどインフラを再構築するということでしょうか。

インフラへの投資には取り組んでいく。まずは機能再編だ。GMS中心から中小型店中心に切り替わってきたことで、店舗当たりの物量は減る一方、全体に占める食品の比率が大きく増えている。食品はリードタイム(発注確定から納品までの時間)が短く、温度管理や衝撃への対応など取り扱いが難しい。業態や商品の構成の変化に合わせて、各物流センターの物理的な場所や機能についても再設計する必要がある。

倉庫内業務の自動化にも取り組む。物流の人手不足はドライバーだけではない。昨年10月には工場や倉庫のロボット制御に知見を持つベンチャー、Mujinとパートナーシップを締結した。2026年までをメドにロボットとデータを活用した「次世代自動化モデルセンター」づくりに着手する。

投資はハード面にとどまらない。卸との連携強化も進めていく。

業界全体にいえる課題だが、日本では卸業者さんの配送網が発達しており、われわれ小売業の物流は卸さんに任せきりな側面がある。そのため小売りが物流を考えるときは店舗とセンターの間に限られるし、卸さんからしても卸の拠点からわれわれのセンターまでしか関与できない。こうした状況で各プレイヤーが個別最適を試みても、それが必ずしも「全体最適」になるとは限らない。

各段階で「安全係数」が働いている

これは2024年問題対応の話にもつながるが、小売業はどうしても特売や天候などによって毎日の物量が変動しやすい。当社の物流センターの担当者にすれば、「もしトラックが足りなかったら大変」と考えて、余分にトラックを手配する。食品に関しては発注の確定から配送までの時間が短いため、この傾向が特に強い。確定情報を待たずに経験則に頼った配送計画を組む必要があり、余裕のある配車計画になりがちだ。

同じような現象は卸さんでも起こりうる。サプライチェーンの各段階でこうした「安全係数」が働いていることも、社会全体で物流リソースの逼迫を起こしている一因だ。

こうした日本型物流の課題をどう克服するか。カギを握るのがデータの共有だ。発注情報や需要予測、倉庫の在庫状況などのデータと連動した配送計画をAIが策定し、サプライヤーにもそれらの情報を随時共有する体制を整えていく。各プレイヤーが小売りの動向を早期に知ることができ、かつ確実性の高い情報を基にプランニングできるので、サプライチェーン全体の物流の無駄を減らしていけるだろう。

ーー具体的にはどう進めていきますか。

2024年問題対応でさえ、地方会社の現場からは「これはどうするの」「あれはどうするの」といろいろな意見が出た。今後、全国のイオンに横展開する中で、こうしたトライアンドエラーは出てくるだろう。

スーパーの物流は運ぶ量が多く、時間的な制約も強い。そんなスーパーの物流を変える難易度は非常に高い。同じグループであっても、「新システムが組み上がりました。絶対うまくいくのですぐにこれに切り替えてください」みたいなことはありえない。

そのような中で改革を進めるには、各社の経営のイニシアチブが必須だ。ただ、経営層には物流に造詣が深くない方もいる。各地域の経営者とプロジェクトの進捗を確認し、目線を合わせてもらうため、昨年は出張だらけの1年だった。そういった努力は今後も必要になってくると思う。

ーー2000年代の物流構築以降にグループ入りした事業会社の中には、いまだにイオンの物流網と統合できていない企業もあります。そうした企業との関係も今後の焦点になりそうです。

私が以前在籍したユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスなど、独自の物流網を使い続けている子会社の店舗は全体の3割弱程度だ。一気に統合を進めて、その会社の良さが損なわれてしまっては意味がないので、今後も共通化を強制するつもりはない。

ただ個人的には将来的に統合していくべきと考えている。20年前に物流と同時に改革を進めたプライベートブランド「トップバリュ」は、現在ではどの事業会社からも活用したいと要請されるグループの求心力になっている。物流も有無を言わせないくらい合理的な仕組みをつくれば、今後外部環境の厳しさが増す中でグループ全社に活用いただけるはず。難易度は高いが、その分挑戦する意味は大きいと思っている。

(冨永 望 : 東洋経済 記者)