「マルジェラの理念に心を揺さぶられた」広告代理店勤務・31歳男性の、驚きの“買い物基準”とは
名品には数々の効力がある。
身に着けることで日々のモチベーションアップにつながったり、自分に自信をくれたり――。
まさに、大人たちのお守り的存在だ。
本連載では人々から愛され、流行に左右されることない一生モノの“ファッション名品”にフォーカス。
今回登場するのは、広告代理店勤務のS.Tさん。彼が紹介してくれるアイテムとは?
▶前回:社会人1年目、伊勢丹新宿で買ったカルティエ時計「タンク」。上京して母親になり、新たに思うことは…
今回お話を聞いたのは、S.Tさん
1992年生まれ、群馬県出身の31歳。新卒入社した広告代理店で営業として働く。
学生時代からの趣味は読書で、好きな作家は平野啓一郎。「男性特有の物悲しさを表現するのが上手。ノスタルジーな世界観にハマります」。
メゾン マルジェラに価値観を揺さぶられた
ハイブランドのショーを毎シーズン必ずチェックするほど、ファッションフリークなS.Tさん。
「最近は、ブランドの創立理念やクリエイティブ・ディレクターの思想込みで購入することが多い」と語り、その経緯で購入したのがこちらのメゾン マルジェラのジャケットだ。
昨年冬に、メゾン マルジェラで約15万円で購入。「襟がなくて、立った時にストンと落ちて綺麗に見えるシルエットがお気に入り」とS.Tさん
「元々マルジェラを好きになったのは、見た目の格好良さや美しさもそうですが、ブランドの価値観に心揺さぶられたからなんです。
というのも、通常交わることのない“静”と“動”の精神がひとつの成果物を生み出していて。それは実際、自分の身の回りにも起こっていることだなと思った」
彼が言う「静と動の精神」とは何なのか。少しだけ紐解いていきたい。
正反対の2人にしか生み出せないもの
「静と動の精神」とは、メゾン マルジェラのクリエイティブ・ディレクターにまつわるエピソードだ。
メゾン マルジェラは、1988年にマルタン・マルジェラがパリで創業したブランド。その後、2014年にジョン・ガリアーノがクリエイティブ・ディレクターに就任し、バッグや靴などのヒット作を次々と生み出している。
「このジョン・ガリアーノが、超ド派手な人なんです。それに比べて、創業者のマルタン・マルジェラは、元々メディアにも出ないし、ファッションショーもしない。極力目立たないような振る舞いをする人。この2人が、陽と陰というか、光と影というか。とにかく対局にいるんです」
しかしマルジェラが約20年間手がけた古着を加工する『アーティザナルライン』に共鳴する形で、ガリアーノが『Co-Ed(コー・エド)』という、クリエイションの頂点に位置する男女共通のラインを確立した。
「要は正反対の2人だけど、影響し合っていい服を生み出している」
メゾン特有の4本ステッチは元々切る用途で付けられている。「良い服はブランド名を冠さなくても、良いと判断してもらえる。だからタグは切れるようにしておく。という思想がド直球で好きです」
これらのブランドの変遷を目の前にしたとき、S.Tさんは自分の周りでも同じことが起こっているのではないか、と感じたそうだ。
「僕、20代前半の頃は会社でも本当に自分勝手というか、わがままだったんですよ。でもそれじゃあダメなんだなと気づいた。
マルジェラから見て取れる『静と動の精神』のように、自分とは全然違うタイプの人と仕事をする方が面白いし、大きい仕事ができる。逆に、自己完結できる仕事であればあるほど、小さな仕事になる。
そういった日常生活につながる気づきを、洋服というもので体現して伝えてくれるブランドの理念が素晴らしいと感銘を受けました」
伊勢丹新宿で一目惚れしたアヤミジュエリーのネックレス
首元には、アヤミジュエリーのネックレスが光る。アヤミジュエリーは、日本人女性デザイナーが手がけ、日本のほか、パリやロンドンなど海外展開をしているブランドだ。
大学生の頃に、アヤミジュエリー伊勢丹 新宿店で、約12万円で購入
「アクセサリー自体に一目惚れしたのと、接客してくれた店員さんのことがとても好きになり、購入しました。40代ぐらいの女性だったんですけど、人柄がものすごく良くて。性格も明るいし話も弾んで、気づいたら(笑)」
さらに、このネックレスはレディースものだというから驚きだ。
「最初は伊勢丹のメンズフロアを見ていたんです。でも全然ピンとくるネックレスがなくて。本館のレディースフロアを歩いていたら、これをショーケースで偶然見つけました。
お気に入りのポイントは「華奢なデザインでありながら、ブランドの力強さを感じるクロスのモチーフとのバランス。繊細なダイヤのパヴェが肌になじんで、トーンも上げてくれます。チェーンは細身で輝きが強いので、肌に乗せるとすごく綺麗に見えて、夏の日差しの下とかで合わせると最高ですね」。
パヴェとはフランス語で石畳のことで、メレダイヤモンド(小さなダイヤモンド)などを表面に敷き詰めたデザインは、ハイジュエリーによく用いられる手法だ。
女性ものならではの肌なじみがいい特性を生かし、普段は胸元が少し開いたシャツに合わせることが多いとか。
レディースデザインを好む理由とは?
財布はルイ・ヴィトン「モノグラム ポルトフォイユ チェリーウッド コンパクト」を使用しているが、こちらもレディースものだ。
2018年に、ルイ・ヴィトン 表参道店で約10万円で購入
「5つ下の妹が20歳になった記念に、誕生日プレゼントであげたのがきっかけ。でも、その後自分も欲しくなり、同じものを購入しました」
前述のネックレスに続き、レディース小物をうまく取り入れ、バランスを取るのが抜群に上手なS.Tさん。ファッションは、メンズブランドだけだとつまらない、と主張する。
「毎シーズン必ず色んなブランドをチェックするんですが、メンズは色も形もあまり変化がなくて。なので、レディース商品の中で、少しエッジが効いているデザインのものを取り入れて遊び心をプラスしています」
◆
S.Tさんにとってファッションアイテムとはどういう存在?という問いかけに、「あくまで普段着用する延長線上の少し特別な位置付け、というくらいですが」と前置きをしたうえで、次のように答えてくれた。
「好きなファッションアイテムを着用して会う人がいる、イコールその方は自分にとって特別な人なのだなと気づかせてくれる、そんな存在です。
ネックレスとか細かいし、正直、着けるの手間なんですよね。でもその手間を惜しんでも身に着けて会いたい人がいる、というのは、自分でも気合が入っているし、多分その人が特別な存在になっている証なのかなと思います」
ジェンダーや、ブランドの有名・無名問わず、自分の直感を信じて買い物をすることの楽しさを教えてくれたS.Tさん。
名品とは、ブランドの理念に共鳴し、自分の気持ちを乗せるツールでもある――。
ファッションの奥深さは広がるばかりだ。
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写真/品田健人