井上尚弥ドキュメンタリー写真集発売記念イベントレポート
世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(30=大橋)のドキュメンタリー写真集「NAOYA INOUE DOCUMENTARY PHOTO BOOK 2018−2023」が2月21日に発売された。
2018年11月のトレーニング合宿から昨年12月のマーロン・タパレス(フィリピン)とのスーパーバンタム級4団体王座統一戦までの5年間の歩みを忠実に記録し続けた、ドキュメンタリー性の高い一冊になっている。
今回は、写真集発売を記念して開催されたトークショーの様子をお届けする。
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プラチナチケットには多くの申し込みが殺到したが、抽選の末に権利を手にしたのは約200人の幸運なファンだった。
トークショーに先だって行われた記者会見に登場した井上尚弥は、写真集を片手にカメラに向かって爽やかな笑顔を向け、「ガッツポーズをしてください」という要求にも快く応じた。会見に集まった記者はなんと50名超。「モンスター」への注目度の高さがうかがえた。
写真集を出版することになった率直な感想を聞かれると「この1冊におさめるのがもったいないくらい、たくさんの写真を撮影してもらった。こうやって一冊になったことがうれしい」と笑顔を見せる。
写真集の撮影がスタートしたのは2018年のこと。写真はのべ数十万枚撮影されたが、写真集に掲載されたのはほんの一部。写真集を見返すと、一つ一つの思い出がよみがえるという。中でも思い出に残っている写真を聞くと、次の2枚を挙げた。
「ひとつは熱海でのトレーニング中の写真。弟の拓真、従兄弟の浩樹の3人で行った合宿の写真ですね。一番多くやってる合宿で、何気ない一枚だけど思い入れがあります。
もう一枚はドネア戦を白黒でとらえたショットです。写真を見ただけで、何ラウンドのインターバルかわかります。自分の人生を変えた試合なので、思い出深いです」
写真集には試合やトレーニングの様子を含め、ボクサー井上尚弥のすべてが克明に記録されている。
「掲載されているのは主に試合と練習なんですが、それ以外の写真は少し恥ずかしい」
「5月に(ドームでネリとの)試合が控えているけど、大丈夫?」という記者からの意地悪な質問には、「こうやって写真を撮られながら、今まで結果を出してきたので大丈夫」と胸を張ったのが印象的であった。
続いて行われたトークショーでは200人超のファンが会場を埋めた。司会の合図とともに音楽にのせて井上の写真がスライドで流れる。やがて照明が落ち、聴きなれたイントロにファンのボルテージは一気に上がる。井上のリング入場曲「Departure 」だ。
会場後方から井上が登場すると、大きな拍手と歓声が。「いのうえー!」という掛け声もかかり、会場は興奮に包まれた。トークショーは2018年から1年ずつ思い出を振り返る形でスタート。
司会を務めるのは、TVKアナウンサー増田美香。2018年から「エキサイトマッチ〜世界プロボクシング」のアシスタントを務めていた、アナウンサー界きってのボクシング通だ。
最初に、2018年11月の熱海合宿に密着撮影が入ることが決まったときの様子を振り返る。
「チーム井上でやってきたのに、そこに突然カメラが入ったから正直嫌でした。最初のころは『カメラはどこだろう』ってずっと気になっていた。でも、だんだん気にならなくなったのは伊藤さん(カメラマン)との信頼関係ができたから」
プロスポーツ大賞を受賞した直後の、珍しいスーツ姿の写真が映ると井上は苦笑い。
「これはネクタイを触って(カッコつけて)くれと言われたんです。こういう写真はめったに撮らないから恥ずかしいです」
だが、なにげないこのスナップの持つ意味は大きい。10月のパヤノ戦で井上の名前が世間に広く知られるようになったことは間違いないからだ。怪物の人生を変えた5年は、ここから始まった。
2019年9月の写真は、ボクシング史に残るドネア戦を控えたトレーニングの様子を切り取っている。
「合宿でいちばんピリピリしてた頃ですね。体を見るとわかると思うけど、9月にしては痩せているのは節制しすぎたからです。体は辛かったけど、拓真と浩樹のおかげで笑顔でいられた。あの二人がいると、試合前のきついときでも笑顔になれる。試合で力を発揮できるのは二人の存在があってこそです」
写真集を二人には見せたのかという質問に、「写真集が出ることを伝えてない」と答え、会場は笑いに包まれた。
最後に、参加者から集めた質問コーナーでの井上氏の回答を紹介しよう。
Q1 「練習のやる気が出ないときはありますか?」
井上 そりゃあります。そんなときは練習内容を変えたりする。あとは、気分が乗らないときこそ練習するようにする。たとえば、いつも4ラウンドなら「今日は8ラウンドやります」と周囲に宣言して自分を追い込む。
Q2 「次戦への意気込みを!」
井上 ネリとの会見に臨むに当たって、相手がどんなモードで来るのかすごい考えていた。どんなふうにあおってくるのかと思ったら、まさか反省モード(笑)。そのおかげで、テレビを見ると自分の方が悪そうに見えて戸惑った。でも、あれも相手の作戦かもしれない。
最後はファンにサイン入り写真集を手渡し、イベントは無事終了。笑顔でファンと接する様子に、井上の魅力を再確認した1日であった。
取材・文/キンマサタカ