チョコザップ「将来目標1万店」の裏にある現実
chocoZAP浦和店では1日限定の野菜詰め放題イベントが開かれていた(2月9日、記者撮影)
「こんなの初めて」。物珍しい様子で立ち止まった女性の視線の先にあったのは、なすやニンジン、彩り鮮やかなパプリカなどの野菜。そこで行われていたのは産地直送野菜の詰め放題だった。
この女性が驚きの声を上げたのは、場所が食品スーパーなどではなく、運動をするジムだったためだ。女性は野菜を詰め終えた後、ロッカーに荷物を置き、トレーニング器具へと向かった。
2月上旬、野菜の詰め放題イベントを開いていたのは、月額2980円(税抜き)の廉価ジム「chocoZAP(チョコザップ)」だ。RIZAPグループ(ライザップ)が2022年7月から展開を始めた新業態となる。
会員数は110万人を超え、エニタイムフィットネスを抜きフィットネスジム日本一に。大量出店を続けつつ、展開開始から1年超で単月黒字化を達成。セルフ脱毛やランドリー(洗濯機)、カラオケまで利用できる店舗もあるなど、話題に事欠かない。
繁盛店に並んでいた故障マシン
この日開かれた野菜詰め放題イベントは限定企画だった。一定期間内に週1回以上の来店者が最も多かった店舗を全国7つの地域別に選出。その店舗でイベントを開いた。関東地区ではさいたま市にある浦和店で実施した。
チョコザップは2月時点で約1300店舗、1店舗平均で約840人の会員がいる。イベントの開かれた浦和店はその中でも繁盛店だ。
だが、同イベントスペースの近くに置かれていた4台のトレッドミル(ランニングマシン)にふと目を移すと、すべてに「故障中」のポップが貼られていた。
ライザップによると、店舗設置のマシン総台数に対する故障台数の比率は3月時点で約1%。利用はできるが不具合が生じている台数の比率は2.7%だ。故障率については一時期5%を超えていたというので改善は進んでいるといえる。しかし利用会員の体感はまた別ではないか。
浦和店のトレッドミルはすべて利用できない状態だった。3月11日時点でも2台が「エラー状態」となっており使用されていなかった(2月9日、記者撮影)
「故障している機械を早く修理して」「利用したくてもできません」――。SNS上では器具の故障に対する不満が散見される。ライザップの瀬戸健社長はこの状況をどう認識しているのか。
「マシンが動く、使えることは最低限必要なこと」。東洋経済の取材に瀬戸社長はそう認める。そのうえでチョコザップの運営は「まだ試行錯誤の段階」と話す。
チョコザップは常駐スタッフがいない無人店だ。そのため普段はAI(人工知能)カメラなどを用いて遠隔で監視・コントロールしている。
しかし現時点において、「マシンは動いていてもあまり動かせない。もしくは人が無理やり動かしている」といった細かい状況までは把握できないという。店舗に赴いて確認すると「コンセントが抜けていただけ」ということも多いそうだ。
1月以降は出店を抑え環境改善に軸足
無人店だからこそ起きる問題といえるが、瀬戸社長は「『人ありき』ではなくシステムとハードで制御するほうが想定外のことは起きない」と語る。
有人店で多店舗展開すると、サービス品質を一定水準に保つには店舗スタッフの能力に依存する部分が大きいと考える。人材の確保や教育も必須だ。それよりも無人のほうが安定した運営ができると瀬戸社長は主張する。
2023年度計画で約890店増という出店スピードも、「有人店だったら無理だった」(瀬戸社長)。
故障の特定をどのように行い、どう素早く対処するか。人が行っていたことをいかにデジタル技術で代替していくか。それを試行錯誤しながら進めているという。
チョコザップは走りながら検証・改善を繰り返す事業スタイルをとる。しかし出店や話題づくりだけが先行していてはサービスへの信頼すら揺らぐ。さすがに今年1月以降は出店を抑制。マシンの故障を含めて店舗内環境の改善に力を振り向けることにした。
出店攻勢に再び転じるのは2024年度に入ってからとなる。2027年3月には現在の約3倍に当たる3800店にする計画だ。
到達時期は明記しなかったが、「1万店舗以上」という目標も対外的に示している。単純比較ができないとはいえ、これはコンビニで約1万4600店あるローソンに近い規模になる。
プライム市場の上場なるか
大量出店を目指す中、ライザップの大株主でもある瀬戸社長は身銭を切って会社の資本増強を進めている。
3月7日、ライザップは瀬戸社長が保有する約2775万株を立会外分売で売却すると発表した。発行済み株式の約5%に当たる株が証券取引所の取引時間外に売り出されるわけだ。売却価格は3月14日の終値などで決められる(3月15〜19日に分売予定)。
瀬戸社長は今回の売却で得た資金を昨年取得した新株予約権の行使にすべて回す。すでに自身の資産管理会社を通じた劣後ローンで、計100億円をライザップに融資。チョコザップの大量出店で資金が必要なライザップの財務安定化のために身銭を切っている。
ライザップの瀬戸社長。チョコザップ「1万店舗以上」を目標に掲げ、身銭を切って出店を加速させる(撮影:今井康一)
この立会外分売の発表文には、「東証プライム市場への新規上場申請に向けた準備に着手している」との文言があった。2006年に上場した札幌証券取引所アンビシャス市場からの「卒業」は、個人投資家が長年待望してきただけに公言した意味は大きい。
その成否はチョコザップにかかっている。「安かろう悪かろう」ではなく、会員が満足できるサービスとして定着しなければ「1万店舗以上」の目標もただの夢。瀬戸社長自身が述べたように、「登山に例えると今はやっと入り口」だ。
(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)