日経平均は「ほぼ4万円」に到達。だが過熱感もして中国の「不動産バブル崩壊」など不安要素も少なくない。今後はどうなるのだろうか(写真:ブルームバーグ)

日経平均株価が連日のように史上最高値を更新している。PER(株価収益率)など指標で見ると割高感も目立ち、短期的には調整がいつあっても不思議ではなくなりつつある。

今後は4月にかけて、アメリカの中央銀行であるFEDの利下げ観測が後退することによって、同国の長期金利上昇・米国株下落の展開となり、それに日本株が巻き込まれることが懸念される。

日本株は「もし下落でも4〜6月再上昇」の可能性が高い

だが、もしそのような事態に直面しても、4月下旬から5月の決算発表シーズンに入れば再び株価上昇が期待される。ここで思い出したいのは過去2年とも、4〜6月にかけて日本株の強さが目立ったことだ。

まず、2022年春については、日本株の指数水準はおおむね横ばいで、一見すると強く見えない。しかしながら、同時期に米国株が急落していたことを踏まえれば、その相対的な強さは目を見張るものがあった(2022年のS&P500種指数は年初の4796ポイントから同年10月12日の3577ポイントまで下落し、年間では22%の下落となった)。

また2023年はPBR(株価純資産倍率)1倍割れの解消が焦点となるなか、4月下旬以降の決算発表を契機に一段の株高が進んだ。仮に今年も去年と同じ現象が再現されるなら、日経平均株価のさらなる上昇が期待できる。

さらに、過去2年、5月に日本株が強かった一因として、自己株買いがある。2005年以降の自己株買い枠が設定された件数・金額を月別に集計し季節性を確認すると、5月の多さが際立つ。ここからは3月期決算企業が本決算で株主還元策(自己株買い・増配)を発表する慣行がうかがえる。

金額でみればまさに5月は圧倒的だ。特に2022年と2023年は3兆円を超える自己株買いが発表された(その他では2、8、11月が多い)。現在の企業業績を踏まえると、今年も高水準の自己株買い発表が期待でき、仮に5月単月で3兆円を上回る自己株買いが発表されるならば、それは投資家の要求を満たす可能性が高い。

また今年ならではの話題として、5月に名目GDP600兆円達成が明らかになる可能性に期待したい。2023年10〜12月期での達成はお預けとなったが、5月に発表されるGDP統計では、名目GDPの600兆円達成が明らかになる可能性がある。名目GDPと1株当たり利益が長期的に連動性を有することを踏まえれば、投資家が名目GDP成長率を前提に、中長期的なEPS(予想1株当たり利益)成長率に自信を深めると予想される。

名目GDPの600兆円達成は、日本経済がもはやデフレでないことを象徴し、株式市場への資金流入を促すだろう。なお、「“実質”GDP成長率が2四半期連続でマイナスなのに、なぜ株価は高いのか」という疑問に対しては「金額ベースの概念である“名目GDP”の拡大が続いているため」という模範解答があり、現在の株高もこれで説明が可能であろう。

中国の金融緩和姿勢も日本株の下支え要因

次に海外要因に目を向けると、インフレ退治の仕上げ段階にあるアメリカ経済の行方に安心感が広がる一方、中国経済に対する不安は依然として大きい。

中国当局は、不動産市場の調整に端を発する景気減速をいかにしてソフトランディングに持ち込むのだろうか。その点で注目されるのは金融緩和だ。2月20日に中国人民銀行は政策金利に位置づけている5年物ローンプライムレートを4.20%から3.95%へと0.25%ポイント引き下げた。

住宅ローン金利の基準となるこの金利の引き下げは、住宅市場を支援したい当局の意図が明確に伝わってくる。2月5日発効の預金準備率引き下げ(10.5%から10.0%)に続く措置で中国当局の金融緩和に前向きな姿勢が見て取れる。後述するように、こうした動きは日本株にとって重要な意味を持つ可能性がある。

昨年来、中国当局は人民元安に苦慮しつつも、不動産市場をテコ入れする目的もあって預金準備率と政策金利(中期貸出ファシリティ金利、5年物ローンプライムレート)を段階的に引き下げてきた。

そうした金融緩和が奏功したこともあり、地方政府によるインフラ投資は底堅さを維持し、M2(現金通貨+預金通貨+準通貨+譲渡性預金)や社会融資総量(銀行貸出+新規株式公開+社債等)といったお金の量を示す指標は底堅く推移している。

実のところ中国のクレジットインパルス(GDP比での新規貸出の変化を示す指標)と日本株には、「中国のクレジットインパルスが上昇すると、日本株が上昇する」という一定の関係が認めれられている。両者の関係はこの半年程度は安定しておらず、乖離が大きくなっているが、それでも方向感が顕著に相違しているわけではない。

両者の因果関係について、少なくともかつては、中国の実物投資が日本企業の輸出或いは現地法人の利益増加を誘発するという経路である程度の説明ができた。

「中国離れ」が加速しつつある現状、その傾向は弱まりつつあるようにも思えるが、(因果があるかは別として)日本株上昇の背景にクレジットインパルスのプラス圏推移があることは認識しておきたい。

日本の平成バブル崩壊時とは異なる中国経済の粘り強さ

中国経済を巡っては不動産市場の悪化に加え、デフレの色彩を帯びるなど1990年代の日本の平成バブル崩壊時と共通する点が多い。

しかしながら、中国の企業景況感を示すPMI(購買担当者景気指数)は過去10年程度安定しており、日本が1990年代前半に経験したような垂直的落下は免れている点は重要だろう。

平成バブル崩壊の過程では、日銀短観(大企業の業況判断DI)が1990年のプラス40近傍から1993年にかけてマイナス40近傍へと低下するなど「別世界」とも言うべき激変が起きた。だが現在の中国ではそこまでの事態までには至っておらず、それは中国経済の粘り強さを物語っている。

もちろん、中国経済を巡っては、不動産市場に火種を抱えている状況に変わりはない。だが、それが日本を含む世界の株式市場を下落に追いやる事態に発展する可能性は現時点で低いと判断される。こうした環境を踏まえると、日経平均株価は今の「4万円」が正当化されるのではないか。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(藤代 宏一 : 第一生命経済研究所 主席エコノミスト)