多くの外国人観光客が来日する中、彼らが見て感じる日本とはどんな姿なのだろうか(撮影:今井康一)

「最近の日本人は内向きな人が多いですね」

何度聞いたかわからないこの言葉を聞くたびに、私は違和感を持ちます。そして次のような疑問も感じます。

「はたして日本人だけが内向きなのか?」

「日本以外の他国の人たちは内向きではないのか?」

「日本人の内向き思考は最近のことなのか?」

「そもそも、内向きなのは悪いことなのか?」

考えてみてください。「日本人は……」と批判する人の中で、どれだけが他国の人々のことをよく知っているのでしょうか。世界には約200カ国もあるのに、何となくイメージで言っていませんか? 留学経験者や駐在経験者など、ある特定の国に詳しい人だって、決してその国のことを知っているとは限りません。

嘘をついてはいないけど・・・

たとえば、私がインドで事業を行っていたときに現地パートナーだったインド人は「インド人の70〜80%は英語を話せる」と言っていましたが、統計上はインド人の英語話者は約10%でしかありません。でもインド人から、インドのことをまことしやかに説明されたらそうだと信じてしまいますよね。

別にその人が、嘘をついていたわけでもありません。周りではおそらく70〜80%が英語を話せるのでしょう。あくまでその人の経験上では事実なのです。

実際、私はインドで7年間事業を行っていましたが、現地の言葉は一切使わずに英語だけで仕事をしてきました。私の経験上でもインド人の70〜80%は英語を話せました。ただ、あくまでそれは私が仕事をしてきたインド人という、限られた中の人たちということなのです。

私は長くアメリカ留学の専門家として仕事をしてきましたが、アメリカもまた多様性に富んだ国ですよね。だからこそ留学経験者や駐在経験者が語る「アメリカでは」という言葉はあまり信じていません。

なぜなら、それは「テキサスでは」とか「カリフォルニアでは」「ニューヨークでは」という、その人が住んでいたところの地域性にかなり影響されるからです。その経験で、アメリカ全体がそうであるとはまったく言えません。住んでいた時代にもよります。

たとえば、もし30年前に住んでいた人が「アメリカでは」と話したら、それは「当時のアメリカ(のあなたの住んでいた街)ではそうだったんですね」ということになると思うのです。

困るのは、誰も嘘をついているわけではないということです。自分の経験に基づいて知った事実を言っているから、知らない人にしてみたら「なるほど。その国はそうなんですね」と思ってしまいかねないのです。

インド人が初めて日本に訪れて起きた変化

だから今回のテーマである「内向き思考」に関しても、日本人全体がそうなのか、果たして本当にそうなのか、他国の人たちはそうではないのか、そもそも内向き思考は良くないことなのかなど、それぞれの主観がかなり影響するように思っています。

前述したインド人パートナーは、私に出会うまでインドの外に出たことがありませんでした。「インドが大好き、インドはとにかくすごい!」と語り、「日本は経済的にどんどん落ちつつある国だろ?」と言われました。それ自体は間違っていないかもしれませんが、すべて彼がネットで知った情報から判断したことです。

ネットの弊害は、自分が取りたい情報だけに偏ってしまうということです。実際、彼自身は「今は世界中のすべての情報がネットで取れるから、海外に行く必要はないんだ」とも言っていましたが、それが覆るような、ちょっと面白い出来事がありました。

彼は私と事業を組み、初めてインドの外に出て日本を訪問しました。そのとき、あまりにも整備されたインフラ、ゴミの落ちていないきれいな街並み、時間に正確な電車などを経験して、「日本は本当にすごい!日本、最高!日本、大好き!」となり、帰国してからもことあるごとに、周りのインド人たちに「日本はすごいぞ」と言い始めたのです。そして日本は落ちつつある国だなんて、一切言わなくなりました。

日本人としては嬉しいことですが、彼が数週間の日本滞在の中で見た「限られた日本」でしかありません。人は自分が得た限られた情報の中からだけで判断してしまうのです。そういう意味では、私も気をつけなければいけません。世界のあちこちに行きますが、自分が見ている世界はあくまで表面的な一部の世界なのだと肝に銘じなければと思っています。

日本人だけが内向きなのか

その視点で考えると内向き思考という批判も、どこかで「内向き思考はダメ」というその人の主観に影響されている気がします。

これは私の主観ですが、そもそも世界中の多くの人は内向きじゃないかと思ってもいるし、そもそも人々が内向きになってしまうのは、日本が居心地がよいからではないかというポジティブな見方だってできます。批判ではなく、内向き思考になる前提の環境自体は称賛すべきことではないかと思うくらいです。

そんな居心地のよい日本に対して、ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ・イスラエル戦争など、ニュースを見ていると世界は戦争や紛争、対立に溢れ、なかなかそれが終わりませんから、日本を飛び出すのがちょっと怖くなってしまう気持ちもわかります。

実際、どの国に行くにしても、いろんな方から「その国の治安は大丈夫ですか?」と聞かれることが多いのです。どこに行っても気をつけることはありますが、まったく治安が悪くない国・地域に行くときも聞かれるのは、それだけ日本の治安がよいからでしょう。

最近の円安傾向も、渡航を躊躇させる理由の1つになるし、この3〜4年間はコロナ禍も影響を与えていました。つまり、日本を出ない理由のほうが多いのです。そして、それだけ日本の居心地がよいのです。決して悪いことではありません。それだけ日本は素晴らしい国なのですから。

居心地がよすぎるとどうなる?

私が内向き思考と聞いて抱く違和感は、ネガティブに捉えられることが多いからです。むしろ、よい国に住んでいる結果という側面もあるから、ポジティブな事実に基づいていると考えています。

もちろん弊害はあるでしょう。居心地がよすぎることで外の世界に興味がなくなり、「世界に出て何かしてやろう!」という気概がなくなれば、言語やグローバルマインドセットなどの力が付きません。

居心地のよい日本にとどまっていては、おそらく世界から置いてきぼりを喰らいます。それはじわりとボディブローのように効いてきます。実際にそれは将来の話ではなく、すでにそんな状況は起こっています。

だから批判する気持ちも理解できないことはないのですが「内向き!内向き!」と嘆く人が何か嫌なのです。だって、そうなるのは理由があるのですから。嘆いたり批判する人たちに提案したいことは、多くの日本人が「外向きになりたい!」と思わせる環境や状況を作りましょうということです。

まずは自らが、楽しそうにチャレンジをするということではないでしょうか。誰だって苦しいことはしたくなくても、楽しそうなことはしてみたいですよね。「トム・ソーヤのペンキ塗り」のようなものです。嫌々やっていたら誰も手伝ってくれませんが、楽しそうにやっていたら、みんなが「僕にもやらせて」と言ったという話です。

日本人の内向き思考を嘆いている人たちの多くは、過去は知りませんが、今はそんな外向きなチャレンジをしていないように感じます。そうでない人もいるでしょうけど、「最近の若者は」と嘆く人の多くが、今は大したチャレンジをしてない年配者たちというのと同じです。

内向き批判の人こそチャレンジ

だからこそ老若男女にかかわらず、まずはできる人から、あるいはやりたい人から、外向きなチャレンジを楽しむことが少しずつ周りによい影響を与えるのではないでしょうか。

今週、私はインドネシアのジャカルタで仕事をしているのですが、サポートしてくれているのは日本の大学生2人です。彼らは大学を2年間休学して、こちらで事業を立ち上げるために来ているのですが、朝7時から夜11時まで働いて、そのたくましいことこといったら。彼らのどこにも「内向き」は感じません。

楽しそうにチャレンジする彼らと接していると、むしろ私自身が「俺ももっとがんばろう!」という刺激を受けます。そして、日本人もぜんぜん捨てたものではないと思うのです。

(豊田 圭一 : 株式会社スパイスアップ・ジャパン代表取締役)