日本テレビ系列の放送局の不正事案に伴い、チャリティー番組「24時間テレビ」の存続そのものを議論する声が広がっています(写真:khadoma/PIXTA)

山陰地方を地盤とする、日本テレビ系列の放送局「日本海テレビ」(鳥取県)での不正事案が話題になっている。元幹部社員が1000万円以上を着服。そのなかには、チャリティー番組「24時間テレビ」への寄付金も、200万円以上含まれていたという。

こうしたニュースが報じられたとき、ネットメディア編集者として、まず気になるのは「SNSの反応」だ。タイムラインを見てみると、日本海テレビへの批判のみならず、今回は被害者側になるであろう「24時間テレビ」への言及も珍しくなかった。

そのなかで、とくに目立ったのが、「そろそろ潮時だろう」「終えるべき時がきた」といった、番組の存続そのものを問う声だ。いやむしろ、募金着服以上に、「番組そのものが、もはや時代にそぐわない」と、「24時間テレビ」のあり方を疑問視する声のほうが多い印象すら受ける。

なぜ、ここまで「24時間テレビたたき」が盛んなのだろうか。原因を考えてみると、「すでに時代に合わず、アップデートする頃合いなのではないか」と感じた。その理由を説明しよう。

24時間テレビ」寄付金も着服されていた

日本海テレビは2023年11月28日、同社の元経営戦略局長が、売上金など1118万2575円を着服していたとして、前日の27日に元局長を懲戒解雇処分にしたと発表した。

着服金の内訳は、同社資金から853万6555円、「24時間テレビ」寄付金から264万6020円。元局長が同社への税務調査をおそれ、みずから11月初めに申告したことから発覚し、その後の社内調査で寄付金の着服もわかったという。

調査によると、元局長の着服は2014年に開始。寄付金からは2014〜20年の7年連続と、今年(2023年)に着服されていた。募金終了後に、本社内で保管していた募金の一部を、みずからの銀行口座に入れていたという。

会長が辞任、社長は報酬返上

今回の不正発覚を受けて、代表取締役会長の田口晃也氏は辞任、同社長の西嶌一泰氏は報酬返上する。着服された金については、すでに448万4200円が返還されており、元局長は残金も弁済すると話しているそうだ。なお寄付金については全額、日本海テレビが責任をもって、24時間テレビチャリティー委員会に届けるとしている。

発表を受けて、メディア各社の報道が相次ぎ、SNSでは「10年間も気づかないなんて」といった声から、鳥取・島根のローカル系列局である「日本海テレビ」と、在京キー局の「日本テレビ」を混同する反応まで。幅広い角度からの投稿が出ているが、いずれも「言語道断」と切り捨てる論調だ。

そもそも、今回の事案は「募金着服」のインパクトが強すぎるが、それを抜きにしても、不祥事としては大きい。とくに初めての着服から、10年間にわたり不正が見過ごされ、本人の申し出でようやく発覚したという経緯は、日頃から「真実をありのままに伝える」ことを期待されている報道機関としては、致命傷に近いのではとすら感じる。

発表文では着服した動機について、当初は「親族のために金を用立てる必要があった」としつつ、「後輩らを連れてよく飲み歩き、スロットも好きだったといい、こうした金に使った」との見解も示されている。あまり謝罪文では、このような記述を見ないが、それだけ「個人的な不正」と印象づけたいのだろうか。


(出所:日本海テレビジョンHPより)

元局長は約30年前に入社し、経理畑を歩みながら、経理部長や総務局長兼経営計画部長などを歴任した。「日本海テレビの番頭」とも言える立場だけに、社内の信頼も厚かったのかもしれないが、それは免罪符とはならないだろう。

しかし結果的には、日本海テレビ社内だけでなく、日本中の「24時間テレビ」に関わる人々を巻き込み、悪印象をつけてしまった。「資金の流れに疑いの目を向けなかった点(たとえ向けても追及しなかった点)」において、同社の責任は大きく、だからこそ実際、会長が辞任表明するほどの事態となっている。

番組の存続が話題になっている訳

とはいえ、この一件だけで、24時間テレビの存在価値を否定するのは、個人的にはちょっと一足飛びな印象も受ける。あくまで番組やチャリティー委員会は、個人の私腹を肥やすために利用された「被害者」であり、不正の片棒を担いだわけではないからだ。

ではなぜ、ここまで番組の存続が話題になっているのか。その根底には、ネットユーザーなどが、長年にわたって「24時間テレビに対するモヤモヤ」を秘めていたことがあるのだろう。そこへ募金着服という、想定しうる最悪の形が訪れたことで、「いまこそ言うべきタイミングだ」と、視聴者の不満が噴出したのではないか。

以前から、毎年8月の放送が近づくたび、SNS上では「偽善だ」といった声が増えていくのが風物詩だった。それは出演者のギャラ(出演料)しかり、芸能人が長時間にわたってマラソンを走る必要性しかり、あらゆる角度から「たたく材料」となる。

加えて近年は、いわゆる「感動ポルノ」の観点からも、批判の的になっている。健常者を「感動させるため」に、障害者をコンテンツとして消費する。24時間テレビに長年抱いていた違和感を、明快なフレーズで言語化してくれたと、胸がすく思いがした視聴者もそれなりにいるだろう。

24時間テレビの裏番組(放送時間が重なる他局番組)にあたる、NHK Eテレの「バリバラ」も、例年こうした角度から切り込んでいて、好評を博している。

そして、ここ数年で、エンタメ業界の構造も変化した。ここ30年近く、24時間テレビはパーソナリティー(司会)に、旧ジャニーズ事務所のタレントを起用してきた。ジャニー喜多川氏による性加害問題によって、公共性が重んじられるチャリティー活動への影響も、まったくゼロとは言えないはずだ。

加えて、スマートフォンなどの普及による「テレビ離れ」も叫ばれて久しい。今年で46回目となる24時間テレビだが、そろそろ今後について考え直すタイミングだったのではないか。

変わってきている「募金」に対する価値観

番組の根幹となる「募金」に対する価値観も、変わってきている。規模の大小を問わず、社会福祉団体みずからが公式サイトを持つようになり、これまで以上に「何に使われているか」が、よりリアルタイムでわかるようになった。

クラウドファンディングなどの普及も背景に、「貢献の可視化」が求められている風潮もある。なお日テレ系列局でも、毎週5分間の「チャリティー・リポート」が流れているが、週末の早朝や深夜など、あまり視聴者ファーストな時間帯ではない。

そこへ来て、今回の事案だ。潔白なはずである全国の日テレ系各局にも「ここでも寄付金が着服されているのではないか」といった疑惑の目がむけられた以上、その汚名を払拭するには、それなりの労力が必要になる。
今年は約8億2100万円だった「募金」は、どう使われているのか。

ちなみに日本海テレビの公表値では、山陰での募金額は例年400〜700万円程度。そのうち年によっては、1割近くの額が着服されていたとなれば、使途への疑念は募るに違いない。

すでにチャリティー委員会は、日本海テレビの公表直後に「当委員会を構成する民間放送31社では、皆様からお預かりする寄付金について、さらなる厳重な管理を行い、徹底して再発防止に努めて参ります」と発表し、初期消火にはげんでいる。しかし、具体的な防止策が提示されない限り、うがった見方は続くだろう。

すでに冷ややかに見ている人が、より離れるだけなら被害は少ない。今回の不正事案は、これまで長年にわたって、番組を信頼していた人こそ、「裏切られた」と嫌悪感を示すはずなのが問題だ。

心の奥底から「愛は地球を救う」と思っていた人たちを落胆させないよう、時代にあわせた形へのアップデートする、よきタイミングなのかもしれない。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)