20色に光る「推し壇」

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仏壇販売のはせがわが発売した「推し壇」(写真:編集部撮影)

仏壇販売のはせがわが今月発売した「推し」に祈りを捧げる「推し壇」が反響を呼んでいる。X(旧Twitter)公式アカウントの発売告知投稿は1万以上リポストされ、想定以上の売れ行きに同社は追加生産を決定した。

開発したのは入社3年目のオタク社員。はせがわに入社前する前から自分の「推し」を神棚に飾っていた彼女は、社内の新プロジェクト公募に応募して「Z世代にとっての尊い方=推し」を猛アピール。商品化を実現した。

20色の光で照らすことができる

「推し壇」は、好きなキャラクターやアイドルなど「推し」のアクリルスタンドやフィギュアを飾り、愛と祈りをささげることができる祭壇。本物の神棚と同じ素材・技法を用いた本格仕様で、LEDライトを使って20色の光で照らせるほか、高さも調整できる。


高さや色も調節が可能だ(写真:編集部撮影)

発売をXで告知したとき、はせがわアカウントのフォロワーは15人しかいなかったが、社員の予想を上回る反響を呼び、26日までに約1万1000リポスト、約8900の「いいね」が付いた。販売台数は非公表だそうだが在庫の1割ほどが初日に売れ、フォロワー数も念願の100に到達した。

推し壇を開発したのは入社3年目で商品開発部に所属する郡司茉采(まな)さん(24)。自他ともに認めるオタクで、「推しは所属でありアイデンティティ」と熱弁する。

郡司さんは美大に通っていた学生時代から、部屋に推しのための神棚を設置しており、「うちに来た友達は最初に推しを拝んで、遊び始めていた。私も精神的に救われた」。

卒業後は「祈り 就職」で検索して見つけたはせがわに入社し、昨年末に社内で行われたチャレンジ企画の公募で、推し壇を提案した。

「学生時代の友人に、はせがわの理念は『心の平和と生きる力』なのに、推しの力になることをしていないじゃないかと言われ、推し専用の祭壇を企画した」(郡司さん)

応募した企画を社長など取締役4人の前でプレゼンした際、事務方として同席した経営企画部の福田惇弥さんは「入社以来仏壇とお墓の営業をしてきた自分は、生きている方に祈りを捧げるための商品なんて考えたことがなかった」と衝撃を受けたという。


推し壇を提案した郡司さん(写真:編集部撮影)

はせがわの取締役は郡司さんの親世代。「推し活」という言葉を知ってはいたものの、その熱量までは知らず、「息子が持っている女性のフィギュアか」など質問を受けたという。

「私が生まれたのは神仏やご先祖様のおかげだけど、今生きているのは推しのおかげでもある。ミレニアル世代やZ世代にとって推しがいかに尊い存在かを伝え、尊い方に手を合わせたいという思いはすんなり理解してもらえた」

公募には25件の応募があった

推し壇企画はめでたく採用された。福田さんによると、公募には25件の応募があり、願い事を書いてお守りにできる「釈迦シャカカイロ」や久留米絣で作った仏壇打敷、他部署で一定期間働ける「社内インターン」など、約半数が実現した。


社内公募で採用された釈迦シャカカイロ(写真:編集部撮影)

推し壇の価格は1万3750円(税込)。国産ヒノキ材を使った本格仕様だ。安すぎるとありがたみに欠ける。かと言って10〜30代の手が届かない価格にはできない。推し活にかける平均費用なども調べて設定した。

釈迦シャカカイロが採用から1カ月ほどで商品化されたのに対し、推し壇は発売まで10カ月かかった。郡司さんは「通常業務と並行して商品開発をしていたこともあるが、仏壇製造で使うことのないLEDの調達に時間がかかったのが最大の理由」と説明する。


仏壇製造で使うことのないLEDライトを使用(写真:編集部撮影)

展示会を回り、品質に納得でき予算内で収まるものを探したという。

はせがわの祖業は仏壇製造販売。「おててのしわとしわを合わせて〜」のフレーズで知られるCMは1980年に始まり、2002年以降は3代目となる「ゆうかちゃん」バージョンが放映されている。

しかし住まいのコンパクト化やライフスタイルの変化で大きなお仏壇を置く家庭は減り、同社が販売する仏壇の平均単価は2012年3月期に34万円だったのがここ2年は29万円台に下がったという。

仏壇機能つきの家具も展開

はせがわは2017年に居間になじむ仏壇「リビング・コレクション」シリーズの販売を始め、カリモク家具や飛騨産業など著名家具メーカーと共同開発した「仏壇機能つきの家具」を展開する。最近はEC販売にも力を入れており、これらの取り組みの結果、2023年3月期の仏壇販売数は、過去十数年で最高の約3万3000基に達した。


リビング・コレクションシリーズ(写真:はせがわ提供)

昨年以降は法事向けのカタログギフトや専門家と提携した相続サポート、遺品整理サービスなど、顧客が手を合わせる機会と長期的に接点を持ち続ける事業に着手している。仏壇とは顧客層がまったく異なる推し壇の販売も、その延長にあると言える。

福田さんは「今年も近く公募企画を始める。前回の公募で採用された商品が話題になったので、より多くの社員が参加してくれるのではないか」と期待を語った。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)