【第2戦で黒星を喫した2つの理由】

 東京・国立代々木競技場で開催されているバレーボール男子の「FIVBパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023」。日本は初戦のフィンランドにフルセット勝利と苦戦し、2戦目のエジプトにはまさかの黒星を喫してしまった。五輪切符獲得へ暗雲が垂れ込める事態に陥ったが、続くチュニジアとトルコにはストレートで快勝して望みをつないでいる。

 勝負は、10月6日から始まるセルビア、スロベニア、アメリカという強豪と相まみえる3連戦。その前に、開幕からの2戦で日本に何が起こっていたのか、そして、そこからどうやって立て直したのかに迫ってみよう。


第2戦でまさかの黒星を喫するも、立て直して2連勝した男子バレー日本代表

 初戦のフィンランド戦、第1セットを25−17で取り、第2セットも25−15と連取。ネーションズリーグからのいい流れを維持したまま五輪予選を迎えたかに見えたが、第3セットに暗転した。フィンランドのサーブで日本の攻撃の選択肢が減らされる場面が増え、それまで通っていた攻撃が相手ブロックに引っかかり始める。デュースの末にこのセットを落とすと、続く第4セットも失う。10−6から10−12とされて窮地に陥った第5セットは、そこから小野寺太志(サントリー)のサーブを起点に、山内晶大(パナソニック)のブロックなども出て5連続得点。何とか白星をもぎ取った。

 続くエジプト戦も第2セットまでは相手を14点、10点と圧倒。しかし、そこから再び流れが一変し、フルセットに持ち込まれた。そして、この試合は踏ん張れずに第5セットも失って2戦目にして土がついた。予想外の結果、そして2戦連続で第3セットで流れが変わったことから、インターネット上では"魔の第3セット"とも呼ばれた。

 だが、これは魔物の降臨でも何でもない。日本が陥るべくして陥ったトラブルだった。

 ひとつ目の要因は、第3セットでエジプトが選手交代を行ない、日本がサーブでターゲットにしてきた22番のモハメドムスタファ・イッサが退いたこと。交代した選手が踏ん張り、それまでのように崩せなくなった。

 エジプトはなんとか耐えて自陣内にサーブレシーブをとどめ、2段トスを上げ、日本のブロックをはじき飛ばすスパイクで得点を重ねていった。今季、日本が躍進した武器のひとつであるブロックとレシーブの堅固な関係からなる切り返しの攻撃を封じられ、ブレイク得点が奪えなくなって日本はリズムを失った。

 今季、これまで対戦してきた国は、あそこまで徹底してブロックアウトを狙う攻撃をしてこなかった。だからこそ、日本のコートは混乱に陥った。

 リベロの山本智大(パナソニック)は、後日こう振り返っている。

「今までネーションズリーグなどで戦ってきた相手は、ブロック(の間)を抜いて(打って)きたので拾えたんですけど、エジプトはひたすら思いっきりブロックの指先を目がけて打ってきた。そこで、ブロックの手を引くとか、バックセンターの選手がコートの外で待ってワンタッチボールに備えるとか、そういう対策を試合中にできれば展開も変わったかなと、反省はありました」

 もうひとつの失速した要因は、攻撃での創造性を欠いたことだ。エジプト戦の第3セットから第5セットで、日本のミドルブロッカーのスパイク打数は6本だけ。石川祐希(ミラノ)や郄橋藍(日体大)のパイプ(中央からのバックアタック)も影を潜め、サイド偏重の単調なバレーになってサイドアウトを奪えなくなってしまった。

【チームを立て直した2人のキーマン】

 今季の躍進の原動力となった攻守のストロングポイントを発揮できずに喫した、大会序盤での黒星。ダメージを引きずりそうなところでチームを立て直したのは、ふたりの選手だった。

 ひとりはセッターの関田誠大(ジェイテクト)。エジプト戦後は目に涙を浮かべ「今日はちょっと......」と取材を受けずに引き上げるほどだったが、第3戦との間にあった休養日で気持ちを切り替えた。

「弱気になっていた部分はあると思う。結果にこだわりすぎると、自分のよさがなくなったり、単調になったりと、プレーに出てきてしまう。積極性をなかなか出せず、自分自身で自分を苦しめていた」

 だからこそ、1勝1敗の"崖っぷち"で迎えた第3戦のチュニジア戦では「勝ちにこだわって自分のよさが出ないんだったら、まず自分のよさを出していこう」と、持ち味である「積極的にクイックを使うトス回し」に立ち返った。

 第1セットの1点目を小野寺の速攻で奪うと、そこから「これでもか」と言わんばかりにクイック、パイプと中央エリアからの攻撃を徹底して使っていく。そうなると、必然的に両サイドへの相手ブロックのマークが薄くなり、レフトからは石川や郄橋、ライトからは西田有志(パナソニック)が楽に決められる場面が増えた。結果はストレートで完勝。この試合で、日本の攻撃は本来のリズムを取り戻した。

 そして、日本戦を前にセルビアに土をつけ、アメリカにも善戦したトルコとの一戦。ひとつ目のヤマ場とみられたその第4戦では、ミドルブロッカーの郄橋健太郎(東レ)や小野寺、リベロ山本智を中心とした堅守が戻った。

 エジプト戦では出場機会がなく、ベンチから戦況を分析していた郄橋健は言う。

「エジプト戦はディフェンスで"かけ違い"があった。ブロックでどこを止めたいか、どこを抜かせるか、というレシーブとの前後の関係ができてなかった。『自分はここに行くから、ここ抜けてくるよ』とか、そういうコミュニケーションが取れていれば、フルセットにいくまでにかけ違いは直っていたと思う」

 山内が肩を痛めたこともあって、チュニジア戦から先発になった高橋健は積極的な意思疎通を心がけ、ディフェンス面でチームを立て直すキーマンとなった。

「毎回、『ここ開けるよ』とか『ここ閉めるよ』とか『ここを拾ってね』とか、確認はしっかりするようにしていました。あとは、プレーが終わった後の答え合わせもジェスチャーでもらうようにしているので、コミュニケーションはしっかりできている」(郄橋健)

 身長211cmのアディス・ラグンジヤ、207cmのミルザ・ラグンジヤを筆頭に高い攻撃力を誇るトルコに、コミュニケーションによって再構築された日本の守備は完璧に対応した。ブロックではトルコより1点多い6点を奪い、スパイクを拾ったディグの本数はトルコの17本に対して日本は32本と圧倒。ブロックとレシーブの関係に血が通い、相手の攻撃を切り返してブレイクする強みがよみがえった。

 リベロの山本は言う。

「『俺がこっち抑えるから、お前こっち入って』とか『僕がここ入るから、絶対こっちだけ抑えて』とか、そういうコミュニケーションを取るようにしていました。健太郎もいいタッチやいいブロックがあったので、いい割り切りができていました。相手の対策をしながら、ブロックとフロアディフェンスの関係がよくできました」

 コート中央エリアからのスパイクを絡めた攻撃の創造性と、日本の強みである堅守からの切り返し。4戦目にして、ようやく歯車がかみ合い始めた。石川は「かみ合ってきたから、流れよく勝てている。僕のパフォーマンスも上がってきて、点を取りたいところで取れているので、うまく回っている」と力を込める。

 ここからが本当の勝負の3連戦。崖っぷちから這い上がり、本来の姿を取り戻した日本がパリ五輪出場切符に挑む正念場が始まる。