英語になった「ikigai」が話題に...世界中で「人生が変わった」人続出! なぜ海外で「生きがい」はブームなのか?(井津川倫子)

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海外で、「生きがい」を表す「ikigai」が話題になっています。

米国やスペインの学者らが執筆した「ikigai」本が世界的ベストセラーになったことがきっかけだとされていますが、その浸透ぶりは、「ikigai」が英語として定着しているほどです!

「ikigaiを知って人生が変わった」という人が続出(!)するなか、「ikigai」はクールジャパンの代名詞として国境を越えて広がっていくのでしょうか。世界を魅了する「ikigai」の背景を追ってみました。

ドイツ語やフランス語でも「ikigai」本!「生きがい」の勢いが止まらない!

日本語がそのまま英語になった例としては、「karaoke(カラオケ)」や「emoji(絵文字)」が有名ですが、「ikigai(生きがい)」が英語としてすっかり定着していることに、驚いた方も多いのではないでしょうか?

かくいう私も、「ikigaiが海外でブーム」だと聞いて、最初はピンときませんでした。ところが、試しにアマゾンで検索をしてみたら、「ikigai」がタイトルになっている本が次から次へと表示されるではありませんか!

しかも、英語だけでなく、ドイツ語やフランス語、スペイン語など、ありとあらゆる言語で、「ikigai」本が出版されているのです。

「ikigai」本の多くは、火付け役の一つである「IKIGAI(生き甲斐):The Japanese Secret to a Long and Happy Life」(長寿で幸せな人生を楽しむ日本の秘訣)という本が元になっているようです。

ところが、そこから広がりを見せ、「Ikigai:The Japanese Life Philosophy(生きがい:日本式人生哲学)」といったスタンダードものから、「The Ikigai Diet :The Secret Japanese Diet(生きがい食:日本式生きがい食の秘密)」といった応用編まで、バラエティ豊かなラインナップになっています。

共通しているのは、「ikigai」を構成する要素として、次の4つをあげていることです。

What you Love:あなたが好きなことWhat you are good at:あなたが得意なことWhat the world needs:世の中が求めていることWhat you can be paid for:あなたがお金を得られるもの

つまり、好きで得意なことをして、世の中の役に立って、少しでも報酬を得られることをすることが、幸せな人生を長く生きる秘訣だ、というのが「ikigai」の定義のようです。

「生きがい」という言葉を「普段使い」している私たちにとって、「ikigai」の定義はちょっと違和感を覚えますし、まるでビジネススクールで学ぶフレームワークのような分析には「よそゆき」の雰囲気が漂います。

それでも、日本人が「ikigai」的な人生を送っているかどうかはさておき、すっかり英語として定着した「ikigai」が、国境を越えて多くの人に影響を与えたことは事実の様子。「ikigai」本のレビューには、「guiding us to find purpose in life」(生きる目的を見つけられる)、「life changing!」(人生観が変わる)といった、喜びの声が世界中から寄せられています。

「ikigai」がこれほどまでに高く評価されていることに戸惑いつつも、今後、日本を代表するソフトパワーになる可能性も感じます。じわじわと確実に世界に広がっている「ikigai」。アニメに続く、新たなクールジャパンの戦力になり得るのかもしれません。

「日々の小さな幸せが生きがい」 日本人が長生きなのは「ikigai」のおかげって本当?!

それでは、なぜこれほどまでに「ikigai」が世界の人々を魅了するのでしょうか? 1番の理由は「圧倒的な事実」だと思います。

「ikigai」のベースになっているのは、沖縄県に住む人々の生き方です。沖縄は、人口に占める100歳以上の人の割合が世界最高水準で、世界有数の長寿エリアとして知られています。また、2023年にWHO(世界保健機関)が発表した世界保健統計では、世界で平均寿命が最も長い国は日本で84.3歳でした。

こうした、日本の長寿を裏付けるデータが、「圧倒的な事実」として「ikigai」コンセプトを支えています。「ikigai」が長寿の要因かどうかはわかりませんが、データの信ぴょう性とコンセプトをうまく結びつけたことが「信用」につながり、世界で支持されているのだと分析します。

2つ目の理由は、「ikigai」の手軽さです。実は、英語には「ikigai」に匹敵する言葉は存在しないそうです。「人生の目的」といった言葉よりも漠然としていて、臨機応変に使えることが「ikigai」の特徴です。

たとえば、「ikigai」の定義はあるものの、「ikigaiは必ずしも大金を稼ぐことではない」とか、「ikigaiは大きな目標でなくていい」、「ikigaiはコロコロ変わってもいい」といったカジュアルさが魅力なのだそう。

たしかに、「仕事が生きがい」という人もいれば、「ペットが生きがいだ」とか、「ガーデニングが生きがいだ」という人もいるでしょう。逆に、「仕事が人生の目的」とか、「ペットが人生の目的」というのは仰々しくて、口にするにも気合が必要です。

それぞれの人が、身の丈に合った「ikigai」を見つけて気軽に口に出せることが、たくさんの人に受け入れられる要因だと、専門家も指摘していました。

3つ目の理由は、海外の人々が日本に抱く「ミステリアス」なイメージでしょう。

日本食やアニメ、着物や富士山といった、いわゆるクールジャパンは知られていても、背景にある日本人の生き方や人生観はあまり知られていません。地理的にも遠い「極東」の国・日本が醸し出す「ミステリアス」なイメージが「ikigai」と重なって、人々を引きつけていると思われます。

実際、「ikigai」を紹介する時に、「The Secret of ikigai」(生きがいの秘密)など「Secret」(秘密)を使うケースが目立ちます。「これまで秘密のベールに包まれていた、日本式長寿の秘訣を明らかにする」といったコンセプトが世界で注目を集めることに、異論を唱える人はいないでしょう。

意外なことに、「ikigai」は瞬間的なブームに終わらず、今も世界中に広がり続けています。コロナ禍でそれまでの生き方を見直す人が増えるなか、日々の小さなことにも幸せを見つける「ikigai」は、生きづらい世の中を前向きに生き抜くための「支え」として、人々の心にじわじわと浸透していくのかもしれません。「ikigai」の行方に注目です。

それでは、「今週のニュースな英語」は、「life-changing」(人生が変わるような)を使った表現を紹介します。

Ikigai could be a ticket to life-changing experiences(生きがいは、人生が一変するような体験につながる)

This is life-changing reform(まさに、人生が変わるような改革だ)

It's a life-changing movie(人生を変えるような映画だ)

今回、海外から逆輸入するようなかたちで、「生きがい」の価値を再認識しました。

社会的に成功して大金を得る「アメリカンドリーム」のような高い目標を、みんながいっせいに目指す時代は終わったのかもしれません。「みんな違ってそれでいい」。「ikigai」にはそんな心の広さを感じます。

私たちも、「これが私の生きがいだ」ともっと気軽に口に出してみたら、長生きできるかもしれませんね。(井津川倫子)