J1自動昇格を争うジュビロ磐田と清水エスパルス

 J2のJ1昇格争いが熾烈だ。

 残り5節となるなか、首位のFC町田ゼルビアは2位のジュビロ磐田に勝ち点6差をつけているうえ、他チームよりも1試合多く残っているため(大雨の影響で中止となった第26節のブラウブリッツ秋田戦が未消化)、自動昇格(上位2チーム)をほぼ確定させているが、残り1枠を巡る争いは大激戦となっている。

 特に開幕前から昇格有力候補に挙げられていた清水エスパルスとジュビロ磐田による、昇格争いにおける"静岡ダービー"は激アツ。直接対決も間近に控えるなか、どちらが最後の1枠を手にするのか、大きな注目を集めている。

 そこで、Jリーグに精通する識者3人に、残りひとつの自動昇格枠をどちらが手にするのか、あるいは清水、磐田以外の可能性もあるのか、それぞれの見解を聞いた――。

【J2リーグ上位の順位(第37節終了時点)】
1位 勝ち点71 得失点差+35 FC町田ゼルビア
2位 勝ち点65 得失点差+22 ジュビロ磐田
3位 勝ち点64 得失点差+35 清水エスパルス
4位 勝ち点62 得失点差+21 東京ヴェルディ
5位 勝ち点60 得失点差+9 ジェフユナイテッド千葉
6位 勝ち点56 得失点差+7 ヴァンフォーレ甲府
7位 勝ち点55 得失点差+8 V・ファーレン長崎
※上位2チームがJ1へ自動昇格。3位〜6位のチームはJ1昇格プレーオフへ

超J2級の戦力を抱える清水が
熾烈なJ1自動昇格争いを制す可能性が高い

浅田真樹氏(スポーツライター)

 清水エスパルスとジュビロ磐田がそろって自動昇格する可能性は、FC町田ゼルビアの首位独走によってほとんどなくなり、それができるのは2位を確保できた一方のみ。それどころか、下を見ればわずかな勝ち点差で東京ヴェルディ、ジェフユナイテッド千葉も迫っており、共倒れの可能性もないわけではない。

 熾烈なJ1自動昇格争いの行方やいかに――。

 結論から言えば、争いを制する可能性が最も高いのは清水だろう。

 開幕直後こそ出遅れたが、その後、監督交代もあって状況は好転。最近2試合(1敗1分け)で勝利を逃して心配されてはいるが、そもそも超J2級の戦力を抱えているだけに、2位確保は十分可能なはずだ。得失点差のアドバンテージも大きなプラス材料である。

 対して磐田は、右肩上がりのチーム状態にあるとはいえ、戦力という点でも、勢いという点でも決定的な推し材料に欠け、総合的には清水に見劣るというのが、率直な印象だ。

 しかしだからこそ、両者の直接対決が残されている意味は大きい。勝ったほうがJ1自動昇格を手にする大一番――そう言いきってしまってもいいかもしれない。

 磐田はこれを制することで、残り4試合で清水との勝ち点差を4にまで広げることができ、自動昇格へ大きく前進。逆に清水が勝利すれば、磐田を抜いて2位に浮上することができ、そのまま逃げきる公算が高くなる。また、引き分けに終わった場合でも、両者の関係だけで言えば、清水有利と見る。

 ただし、両者痛み分けの場合には、東京V、千葉が漁夫の利を得る可能性が高まってくる。特に7連勝中の千葉は、奇跡の逆転自動昇格を視界にとらえ、さらに意気があがるに違いない。

 J1自動昇格へのラスト1枠を争う清水と磐田にとっては、引き分けすらも許されない必勝のダービーマッチになりそうだ。

J1自動昇格残り1枠は清水か磐田のどちらか
直接対決がその行方を占う試金石

小宮良之氏(スポーツライター)

 今シーズンのJ2において、静岡の"2強"であるジュビロ磐田、清水エスパルスがJ1自動昇格圏内まで浮上してきたのは、当然の流れと言えるだろう。

 どちらも長くJ1を主戦場として、J2の各クラブと比較し、資金や施設などで遥かに恵まれ、単純に戦力的に優れている。日本代表経験のある選手、もしくはJ1での試合出場経験が豊富な選手を多く擁し、個の力で凌駕できる。たとえば、清水のFWチアゴ・サンタナは昨シーズンのJ1得点王である。

 清水は、序盤戦の出来が悪すぎた。昨シーズン、勝ち筋が何ら見えないなかでチームを降格させたゼ・リカルド監督を留任させたことが、そもそも理解に苦しむ決定だった。

 秋葉忠宏監督への交代で急浮上したように、"まともにやれば"もっと簡単にJ1昇格の道筋を捉えることができていただろう。首位を走るFC町田ゼルビアと入れ替わっていても、不思議はなかった。乾貴士など、明らかにJ1を舞台にすべき選手だ。

 一方で横内昭展監督が率いる磐田も、FIFAから補強禁止処分を受けたとはいえ、現有戦力で十分に他のクラブを上回るチームと言える。リカルド・グラッサ、ドゥドゥなどはJ2では有力な外国人選手だし、山田大記、遠藤保仁のようなベテランたちは"チームのおもし"になっている。

 そして、ジャーメイン良、後藤啓介、松原后、松本昌也、金子翔太、上原力也などが複数得点を記録し、むしろ限られた戦力で、総力を挙げた戦いを見せる。

"2強"のいずれかがJ1自動昇格の座を手にする可能性が高い。ただ、どちらも戦い方の仕組みが固まっているわけではなく、個の出来が結果を左右することになるだろう。清水は第37節で藤枝MYFCに敗れ、14試合で無敗記録がストップし、勢いはやや弱まった感もあるが......。

 10月7日、両者の直接対決は、J1昇格を占う試金石になるはずだ。

戦力的には磐田を上回る清水
精神的にも追う立場の清水が有利か

杉山茂樹氏(スポーツライター)

 J2上位で競馬用語でいう最も脚色が悪いのは、首位のFC町田ゼルビアだ。現在2位のジュビロ磐田、3位の清水エスパルスが残り5試合を全勝すれば、町田は残り6試合を3勝1分け以上で乗りきる必要が生じる。磐田、清水に優勝のチャンスがないわけではない。

 そうした意味で、次節の静岡ダービー(清水vs磐田)はお互いに取って負けられない戦いになる。勝ったほうは町田に接近。2位以内(自動昇格)が見えてくる。一方、敗戦、あるいは引き分けでは、後続(東京ヴェルディ、ジェフユナイテッド千葉)に接近、あるいは逆転を許し、プレーオフに回る可能性がグッと増す。

 2位の勝ち点が伸び悩めば、後続チームの動機は上昇する。上位で今最も波に乗るのは、ここまで7連勝できている千葉。3節前(第35節)の栃木SC戦では、退場者を出し10人になりながら土壇場で決勝弾を決め、勢いに弾みをつけた。元日本代表の田口泰士を中心とした攻撃的サッカーでチームはカッチリまとまっている。東京Vは対照的に手堅くまとまっている印象。勢いはないが、ステディだ。

 第38節で直接対決する磐田と清水の関係で、戦力的に上回るのは清水。だが、J1時代からそうであるように間が悪い。ここ一番での弱い体質も変わらない。チアゴ・サンタナというJリーグを代表するFWを擁しているにもかかわらず。

 磐田ではジャーメイン良と元清水の松原后の2人が光る。後者は左SBながら今季6ゴールをマーク。代表でもいけそうなくらいの力を見せている。

 想起するのは、J1同士として対戦した昨季終盤のダービーだ。残り3試合(第31節)を迎えて磐田は最下位。敗れれば、降格が決まる一戦だった。

 試合は清水が終盤まで1−0でリード。残留へ前進したかに見えた。ところが、アディショナルタイムに同点弾を許す。結果的にJ2降格へと道連れにされた。

 今回はJ1昇格をかけた、その逆パターンである。引き分けはお互いがお互いの足を引っ張る、まさに泥仕合を意味する。

 前々節(第36節)まで2位清水、3位磐田だった順位は、前節(第37節)でひっくり返った。2位磐田、3位清水の立ち位置で決戦を迎える。体質的に甘い清水は受けて立つより、追うほうが戦いやすいとすれば、その精神的な分だけ清水有利か。地元民にとってはドラマ仕立ての展開である。