山田朝美 インタビュー後編(全2回)

 日本人女性で初めて「IFBBエリートプロ」というフィットネス選手のプロ資格(ボディフィットネスカテゴリー)を獲得した山田朝美さん。

 前編ではボディメイクコンテストにおけるプロとアマの違いなどについて聞いた。後編では山田さんがトレーニングに目覚めた経緯と、現在オーナーを務める静岡県菊川市のスポーツジムの経営術について話を伺う。


日本人女性で初めて「IFBBエリートプロ」となった山田朝美さん

【「細い=かわいい」と思っていた】

ーー現在、フィットネスのプロ選手として活動していますが、小さい頃から何か運動をしていたんですか?

山田朝美(以下同) まったくです。部活は中学生で吹奏楽部。高校では料理部で主に試食係でした(笑)。

 大学卒業後に就職で菊川市に引っ越したんですが、20代後半で転職しようと退職したんです。本格的に転職活動するまでに暇があったので、ジムに通うようになりました。

ーーそれが人生初のトレーニング?

 そんな感じですね。動機としては暇で何も動かなかったら太ってしまうんじゃないかって恐れがあったからです。

 当時の私の体重は40キロほどでした。あの頃は、女性はやせているのがかわいいと思っていました。ファッション雑誌のモデルはとても細い人ばかりで、彼女たちが着ているXSや5号サイズの服を自分も着たいという一心で体形をキープしていました。

 むしろ、もっとやせてもいいと思っていました。なので、ジムに通い始めた当時はランニングマシーンなどの有酸素運動が中心でした。多少筋肉をつけるとダイエット効果が上がると聞いて器具を使うようになりましたが、チェストプレス、ラットプルダウン、レッグエクステンションや腹筋などマシンを少し触る程度しかやっていませんでした。


トレーニングを始める前の20代の山田さん 写真/本人提供

【メリハリのある体こそが美しい】

ーー今では非常に仕上がった体になっています。間近で見ると迫力があります。

 当時はこんな筋肉がついた体型を目指していなかったので筋トレをすることに葛藤がありましたよ。特に脚は太くなりたくなかったのでわざと脚のトレーニングを適当にやったりしていました。

 そしたらジムのスタッフの方から「そんな簡単に筋肉はつかないから大丈夫」と言われたので、真面目にやったら予想外に筋肉がついてしまいました(笑)。

ーーだまされた気分ですね(笑)。

 でもそのおかげで今や「細い=かわいい」という感覚はすっかりなくなって、筋肉のメリハリがある体こそが美しいと思うようになりました。


現在は経営するジムの営業終了後にトレーニングに励んでいるという

ーーいつからコンテストへ出場するように?

 初めて出場したのはパワーリフティングの大会です。ジムに通うようになって1年くらい経った時ですね。当時の記録はベンチプレスが50キロ、スクワットとデッドリフトが90キロくらいだったと思います。

 JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)のコンテストに出場するようになったのは2013年から。「ミス21健康美大会」という全国大会で、当時はまだ「ビキニフィットネス」や「メンズフィジーク」などのカテゴリーはなく、その代わりに「健康美」という初心者向けのボディビルの登竜門的なカテゴリーが盛り上がっていました。

 そのカテゴリーで2013年と2014年に準優勝(いずれも158センチ以下級)、2015年にカテゴリー優勝とオーバーオールでの総合優勝もできました。

ーー早い段階から頭角を現わしていたんですね。その後、国内外の大会で活躍しプロになりました(詳しくは前編)。自信のある部位は?

 自分自身で自信があると思える部位はないのですが、苦手だと感じる部位もないことは強みなのかもしれません。均衡のとれたバランスのいい体だと思っています。

 トレーニングに関しては、脚より上半身のトレーニングのほうがどちらかというと好きです。私が出場しているボディフィットネスというカテゴリーは胸、肩、背中、腕の筋肉量も非常に重要になってきます。そういう意味では私に合っているカテゴリーかもしれません。


2019年にカナダで開催されたプロコンテストで3位になった山田さん(右) 写真/本人提供

【ジム経営者としての哲学】

ーー自身のトレーニング哲学は?

 まずはアップ。トレーニングをやる前の準備体操に1時間近く使います。トレーニングの前段階で、正しい姿勢や体の使い方、動かし方を反復して行ない、それぞれの動作を頭に叩き込みます。いわば、脳の教育です。

 これによって実際のトレーニング時に、あれこれ考えることなく自然にきれいなフォームでできるようにします。アップをおろそかにするとトレーニングの効果も半分になってしまいます。

 加えてアップは、ただのストレッチではなく、例えば、肩甲骨、骨盤を動かして歪みや前傾、後傾を整えたり、腹筋や背筋を使って体を動かして筋肉を温めたりするイメージです。


プロは海外のコンテストが主戦場だ 写真/本人提供

ーー実際のトレーニングでは?

 全身の筋肉を連動させて体を動かすことを意識しています。胸トレなら胸の筋肉だけ使うことがいいという考え方は、ウェイトトレーニングの"悪の洗脳"だと思っています。

 私の場合、ベンチプレスであれば足からしっかり踏ん張って、お尻、お腹の順に筋肉を連動させて拳に力を伝えるということを意識しています。

 そうすることで運動量が増え、筋肉の成長もしやすくなると思いますし、対象筋だけを使ってトレーニングするよりも関節、腱の負担がなくなることでケガの防止にもつながります。ケガをしたらトレーニングを中断しないといけなくなってしまいますからね。

 これは私がトレーナーとしてクライアントの方に教える時にも重要視しています。

ーー山田さんはジムのオーナーとしての顔も持っています。そのきっかけは?

 転職活動するまでの間、毎日ジムに会員として通っていましたが、気づけば、いつの間にかそこで自分が働くようになったんです。

 働いていると、ジムの設備面や環境面でもっとこうしたほうがいいんじゃないかと考えるようになり、それなら自分でやってみようと自分のジムをオープンしました。それが2016年ですね。


静岡・菊川でスポーツジム「F-Class」を経営

【コロナ禍の苦境から人気ジムへ】

ーートレーニングを始めてから6年で開業とはすごいですね。経営は順調でしょうか?

 コロナ禍の間は「ジムに行ったらコロナがうつる」と悪者扱いされる風潮もあって、かなり苦しかったですが、それを機に始めたパーソナルトレーニングコースが好調で、月に100レッスンほど教えています。

 ジムに通ってくださっている方は、ダイエット目的や健康増進目的の方が大半ですね。年齢層もバラバラ。若い方だと高校生もいますし上は70代の方もいらっしゃいます。

 パーソナルトレーニングを受けに県外や韓国などの国外からわざわざ来てくださる方もいらっしゃいます。


肩や背中の筋肉の重厚感が持ち味だ 写真/本人提供

ーー現在はどのようなライフスタイルでしょうか?

 ジムの休館日は月1回。レッスンや指導は自分がすべて見させていただいているので、基本的にほとんど休日はありません。夜10時に閉店してから週4日は2時間ほど自分のトレーニングをします。時には夜中1時を過ぎることもありますね(笑)。

 会員の皆さんの指導をさせていただく傍らで、自分自身もコーチに定期的にトレーニングを見てもらい指導していただいています。

ーー多忙な日々ですね。

 でも苦に思ったことはありません。それくらいトレーニングが好きなんだと思います。


カナダのプロコンテストにて 写真/本人提供

前編<筋肉の「プロ」と「アマ」、その違いとは? 世界3位になった山田朝美は「やめたほうがいい」と言われてもプロを選んだ>を読む

【プロフィール】
山田朝美 やまだ・あさみ 
日本人女性初の「IFBB エリートプロ」資格を持つボディフィットネスプロ。20代の時にダイエット目的でトレーニングを開始。2011年からパワーリフティングやベンチプレスの大会で頭角を現わし、2015年には「ミス21健康美大会」で総合優勝。2017年の「オールジャパン ミスボディフィットネス選手権」(158センチ以下級)で準優勝し、翌年の「アジア ボディビル&フィットネス選手権大会」ボディフィットネス部門オーバーオール(無差別級)3位。2018年にエリートプロカードを取得し、2019年にエリートプロが開催する「モントリオール プロショー」で3位。静岡県菊川市でスポーツジム「F-Class」を経営。