平野美宇か伊藤美誠か? 混戦の女子卓球パリ五輪選考争い サバイバル最終局面のカギは?
4年に1度のアジアの祭典「第19回アジア競技大会」(9月23日〜10月5日)。"アジア版オリンピック"とも称される同大会は、来年に迫ったパリ五輪へ向けた前哨戦として、各競技の選手たちが現在地を確かめる"試金石"の場となっている。
そんな中で注目を集めた競技のひとつが、熾烈を極める女子卓球のパリ五輪シングルス出場権2枠をかけた戦いだ。9月上旬に行なわれた「アジア選手権」が終了した時点で、2位の平野美宇が420ポイント、3位の伊藤美誠が409.5ポイントを獲得。両者の差はわずか「10.5」と縮まり、伊藤が不在の中でアジア大会に挑んだ平野が、いかにポイントを獲得して伊藤を引き離すことができるかが焦点となった。
パリ五輪の卓球・女子シングルスの2枠を争う(左から)平野、早田、伊藤
女子卓球の選考レースは、序盤から安定した成績を収め、日本の新たなエースとして君臨する早田ひなが独走(「アジア選手権」終了時点で640.5ポイント)。心身ともに充実の時を過ごす23歳は、自身初の五輪出場に向けて足場を固めている。
早田は今大会でも団体戦ではチームをけん引し、銀メダル獲得に貢献。さらにシングルスでも、準決勝で中国の王芸迪(ワンイーディ)を下して日本勢29年ぶりのファイナルに進んだ。決勝では世界女王の孫穎莎(スンイーシャ)に敗れたが銀メダルを獲得し、来年のパリ五輪に向けて貴重な経験を積んだ。発表された最新の選考ポイント700.5点と大台を突破し、パリ行き決定は時間の問題だ。
一方で、早田と同級生の平野と伊藤は、パリ五輪選考レースにおいて序盤は苦戦を強いられてきた。それでも平野は、今年6月の「Tリーグ NOJIMA CUP 2023」で優勝を飾り、7月の「WTTコンテンダーザグレブ」では世界女王・孫穎莎を撃破するサプライズを起こして、一気に2番手の有力候補に浮上した。
一時は臀部の故障に悩まされた伊藤も、5月の世界卓球やアジア選手権でベスト8入りするなど、地力の強さを見せて平野に追いすがってきた。早田の首位通過がほぼ決まりな状況で、4位以下とのポイント差や残りの選考会の数を考えても「伊藤vs平野」の一騎打ちが終盤戦の最大の見どころとなっている。【平野がまさかの敗戦で差は大きく広がらず】
伊藤がエントリーせず、早田とともにシングルスに出場した平野にとって、今回のアジア大会はライバル伊藤を引き離す絶好のチャンスとなった。
平野は、東京五輪時に石川佳純と繰り広げた出場権を巡るデッドヒートの経験を挙げながら、「自分は挑戦者として(新たに)向かっていく立場」と、ここまでは選考レースを強く意識することがない姿が印象的だった。しかし今大会前には、「(伊藤との)差をどれだけ離せるかがカギ」と語り、「絶対にシングルスに出たい」と明言するなど、悲願の五輪シングルスの出場権獲得に向けて覚悟を持って挑んだ。
シングルス前に行なわれた団体戦では中国との決勝に勝ち進み、そこで平野は東京五輪金メダリストの陳夢(チェンムン)相手に敗れたものの、フルゲームの激闘を演じた。シングルスに向けて調子を上げてきた......かに思えた。
しかし、シングルス初戦は順当にストレート勝ちを収めたものの、ベスト16での戦いとなった北朝鮮のピョン・ソンギョン相手にまさかの大苦戦。第1ゲームを奪われると、第3ゲームも10−12と接戦を落とすなど"伏兵"とも呼べる相手に、終始ペースを握られる展開になった。
その後、立て直すことができずに2−4で落とし、まさかの3回戦敗退。順当に勝ち進んだ場合、準々決勝で対戦する予定だった孫穎莎との対戦も幻に終わり、今大会での選考ポイント加算は10点。「どれだけ離せるかがカギ」と語っていた伊藤との差は「20.5」に広がったのみで、平野は依然として2位の座が安泰とは言えない状況だ。黄金世代の2人によるデッドヒートは今後の大会でも続くことになる。
そうして早田、平野、伊藤と黄金世代の争いが注目を集めるパリ五輪選考争いだが、今回のアジア大会で大きなインパクトを残したのが、男子のエース・張本智和の妹である張本美和だ。
準々決勝の台湾戦、準決勝の韓国戦と重要な2試合で、早田、平野に次ぐ3番手を任されていずれも勝利。決勝の中国戦では、東京五輪団体金メダルメンバーの王曼碰(ワンマンユ)相手に1ゲームを奪う、堂々たる戦いぶりを披露。また、木原美悠と組んだダブルスでも、準々決勝で孫穎莎と王曼碰という世界卓球連覇の"最強ペア"を撃破する金星を挙げ、銅メダルを獲得するなど存在感を示した。
日進月歩で成長を続ける15歳は、アジア大会という大舞台で中国のトップ相手にも戦える姿を証明した。シングルスの選考ポイントは6位で、2位の平野、3位の伊藤と差はあるが(アジア大会終了時点で、3位の伊藤と183ポイント差の226.5ポイント)、団体戦への抜擢の可能性など、今大会で残した鮮烈な印象がメンバー選考に影響するかもしれない。
今後のポイント対象大会は、11月に大阪で開催される第6回の選考会と、来年1月の全日本卓球選手権の2つ。加えて、シングルスの1勝で2ポイント、ビクトリーマッチの1勝で1ポイントが加算されるTリーグ(2023年12月末まで)と、国際大会の個人種目での「中国トップ3選手」相手の勝利(7ゲームマッチの1勝につき15ポイント、5ゲームマッチの1勝につき10ポイントが加算。期間は2023年1月30日〜2024年1月21日)もポイントに関わってくる。
平野と伊藤の差を考えると、残り2つとなった対象大会での上位進出はもちろん、Tリーグでの勝利や国際大会での中国勢相手のポイント奪取も最終的には重要になるだろう。アジア選手権、アジア大会で中断していたTリーグも再開され、その間に行なわれるWTT主催大会もポイント加算の可能性がある。切れ目がなく続いていくこの消耗戦をいかに戦っていくのか。特に11月の選考会と、来年1月の全日本選手権に向けたコンディションは最終結果に響いてくるだろう。
およそ2年という長丁場で続いてきたパリ五輪の選考レースも、来年1月に向けていよいよクライマックス。五輪初出場が濃厚なエース早田に続く存在として、平野と伊藤のどちらがシングルスの2番手に最終的に入るのか。ここからは同級生2人による抜きつ抜かれつの戦いが最大の注目となる。
果たして、ここからの数カ月でどのような展開が訪れ、最終メンバー決定へと向かっていくのか。パリ行きをかけたサバイバルが最終局面へと突入する。