今年のMotoGP日本グランプリで最も大きな注目を集めたひとりが、軽量クラスのMoto3に参戦する佐々木歩夢(Liqui Moly Husqvarna Intact GP)だ。

 佐々木は10月1日(日)の決勝レースで2位表彰台を獲得。チャンピオン争いでも首位と6ポイントの僅差で2番手につける結果を残し、モビリティリゾートもてぎに集まった4万人超のファンの歓喜を呼び起こした。


チャンピオン争いで現在2位の佐々木歩夢

 2000年10月4日生まれの佐々木は、2016年にレッドブル・ルーキーズカップで日本人初の年間総合優勝を達成し、翌2017年からMoto3のフル参戦を開始した。この年にはルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。クレバーでありながら気魄に充ちた走りで、"Crazy Boy"の愛称は一気に広く浸透した。

 2022年は優勝2回、2位4回、3位3回という成績で年間総合4位。今年はシーズン序盤から優勝争いの一角に加わって、第5戦フランスGPから6戦連続表彰台を獲得する高い安定感を発揮してきた。第13戦インドGPでも3位表彰台。同点首位の2名に1ポイント差のランキング3番手、という緊迫した状態でホームグランプリの第14戦を迎えた。

 土曜の予選を終えて、佐々木は3列目7番グリッドからのスタートになった。チャンピオンシップをリードしてきたスペイン人選手のダニエル・オルガド(Red Bull KTM Tech3)は佐々木よりひとつ前の2列目6番グリッド。オルガドと同点首位で並ぶイタリア人選手のジャウメ・マシア(Leopard Racing)がポールポジション、という位置取りになった。

 予選後の佐々木は、バイクの最終調整についてチームのスタッフとガレージで長いミーティングを行なっていたが、そんなところからも、まだ完璧に納得のいくセットアップを見いだせていない様子がうかがえた。

【佐々木が0.056秒差で2位表彰台を獲得】

「悪くはないんですが、まだちょっと何かが足りないな、という感じです」

 ガレージから出てきた佐々木は、現状の戦闘力についてそう説明し、課題はブレーキングポイントからバイクを倒しこんでいく部分だと話した。

「トップとの差は0.4秒でそんなに大きくないし、ちょっとした変更ですごく改善できるので、明日に向けてしっかりチームと集中して話し合います。コーナーを立ち上がってアクセルを開けてからはロスをしていないので、目標は最低でも表彰台。去年の日本GPでも2位だったので、今年は優勝を目指して頑張りたいと思います」

 4.8kmのコースを17周して争われる決勝レースは、日曜12時にスタート。Moto3のレースはコーナーごとに順位がめまぐるしく入れ替わる激しいトップ争いに定評があるが、その戦いは序盤周回で数名に絞り込まれ、やがてチャンピオンを争う佐々木、オルガド、マシア3名のバトルになった。そこからマシアが少しずつ抜け出し、最後はふたりを引き離して優勝。佐々木とオルガドの緊密な2位争いは、ファイナルラップの17周目まで続いた。

 佐々木は、最終コーナーを先に立ち上がったオルガドをゴールラインまでの直線で逆転し、0.056秒早くチェッカーフラッグを受けて2位を獲得。優勝したマシアが25ポイントを獲得。佐々木は2位で20ポイント、オルガドは3位の16ポイントという結果で、チャンピオンシップポイントはマシアが単独首位になった。佐々木は6ポイント差でランキング2番手、そこから3ポイント背後にオルガド、という接近した状態だ。

 マシアが逃げきる形になったレース展開について、佐々木は「昨日までマシアが一番速かったので、彼が引っ張るレースになることはわかっていました。バイクの課題をチームがうまく解決してくれてフィーリングよく走れたので、もう少し頑張れたのかもしれないけれど、そうするとリスクを負いすぎる可能性もありました。優勝したかったので少し悔しさもありますが、いい形の2位で終わることができたのでよかったと思います」と、納得した表情でレースを振り返った。

【来季はMoto2クラスへ昇格することを発表】

 一方、今回のレースで優勝を飾ったマシアはチャンピオン争いで首位に立ったものの、ごくわずかのポイント差で背後につける佐々木とオルガドに対して警戒感を緩めてはいない。

「歩夢は、去年もずっと力強い走りをしてきた選手なので、強力なライバル。ダニーも、皆を驚かせるような走りをずっと続けている。

 でも、ぼく自身にも強さはあると思っている。自分がクラス最強だとは思わないけれども、毎戦、力強く戦えているし、ずっといいフィーリングで走れているので、これからもこの調子を維持していきたい」

 次戦は2週間後に控える第15戦インドネシアGP。その後、オーストラリア、タイ、マレーシア、カタールとレースが続き、最終戦のスペイン・バレンシアまで6レースを争う。

 この6戦に向けて、佐々木は「注意しなければならないのは、マシアですね」と話す。

「彼の所属するLeopard Racingは、毎年、アジアラウンドに入るとメチャクチャ速くなるんですよ。過去のデータや結果を見直してみても、あのチームはアジアに入ると、なんでかわからないけどすごく生き生きしてきて、ホントに速くなる。

 でも、自分もアジアは得意なコースばかりなので、カタールまでにどれだけポイントを稼いで最終戦を迎えるか。そこが勝負になると思います」

 今回の日本GPの週末では、佐々木は決勝前日の土曜日に、翌年からMoto2クラスへ昇格することを発表した。そのステップアップを最高の形で飾りたいと考えるのは、佐々木自身とチームはもちろんとして、その活躍を応援するファン全員の願いでもあるだろう。

 かつての最軽量クラスでは、1990年代に多くの日本人ライダーが席捲した。しかし、チャンピオン獲得は1998年の坂田和人以降、長く途絶えている。それ以降は、宇井陽一が王座を近くまでたぐり寄せ、東雅雄が肉薄、2000年代には高い資質を備えた小山知良に期待がかかったが、誰もそこには到達できなかった。

 そして今、佐々木はその場所からもっとも近いところで、ライバルたちと激しい争いを繰り広げている。ここから先のシーズン終盤6戦は、彼らの戦いを見守る日本のファンにとっても、緊張感と興奮が1戦ごとにさらに高まってゆくことだろう。