久保建英を「神業の数々」と現地紙は絶賛 「うまい」選手から「怖い」選手へ
「特別なゴールパフォーマンスではないよ。『ゴールを決めたら、あのパフォーマンスをやる』って、エルス(アリツ・エルストンド)と約束していたんだ。チームメイトみんなのおかげで、あんなゴールを決められた。エルスのために、っていうダンスはこれで2度目だよ」
バスクダービーで今シーズン5得点目を叩き込み、5度目のゲームMVPに選ばれたレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英は、試合後のフラッシュインタビューに早口でこう言っている。
エルストンドはセンターバックだが、ケガに苦しんでいる。なかなかメンバーに入れず、もどかしそうな姿を間近で久保は見ているのだろう。満面の笑顔で約束を果たした。
大舞台でそれをやってのけてしまうところに、久保という日本人選手の凄みを感じずにはいられない。
アスレティック・ビルバオ戦で今季5ゴール目を決めた久保建英(レアル・ソシエダ)
9月30日、レアレ・アレーナ。ラ・レアルはアスレティック・ビルバオとのバスクダービーに挑んでいる。過去のスタジアム最多入場者の記録はバスクダービーで、ヨーロッパのカップ戦やレアル・マドリード戦、FCバルセロナ戦をもしのぐ注目カードだ。
昨シーズン。久保がラ・レアルファンの心をつかむことができたのも、アスレティック戦のゴールによる勝利が大きかった。
そしてこの日も、久保は右サイドで異彩を放っている。「アスレティック」というクラブ名からもわかるように、スペイン語ではなく、英語を冠し、英国的なプレースタイルを重んじる相手はタフで激しかったが、久保は少しも怯んでいない。前半5分には3人を手玉にとって引きつけ、ヒールでパスを流し、チャンスを演出した。
「今のチームは『いいプレーをしている』と言われるけど、戦う、ってところが加わらないと、現代フットボールではもう勝てないから」
久保自身がはっきりとそう言っている。確かに久保は「うまい」ではなく、「怖い」選手になった。戦闘力の高さが際立つ。
かつてラ・レアルやパリ・サンジェルマンにいたユーリ・ベルチチェが必死にマークしてくるが、久保は間合いに入らせない。常に3人に守備網を作られていたが、それを突き破る刃物の鋭さだった。
【シューターとしてトップレベルの判断】
18分には、味方がつなげたボールを、右サイドで、1対1では封じられながらもシュート。27分にも相手2人を引きつけ、味方のブライス・メンデスにアシスト。これは決まらなかったが、チームとの調和のなかで輝いていた。
そしてラ・レアルは29分、チームが押し込む展開から、FKをロビン・ル・ノルマンがボレーで叩き込み、先制に成功している。
久保のハイライトは後半開始直後だった。47分、長いボールが前線に入って、左サイドをブライスが持ち込むと、中央に走るウマル・サディクへクロスを流したが、ボールに触れずにスルーする形に。そこへファーからフリーで走り込んできたのが久保だった。左足にセットすると、GKと瞬間的に駆け引きし、ゴールのファーサイドに打ち込むフォームでニアに鋭く打ち込んだ。
シューターとしてトップレベルの判断だった。簡単なシーンにも映るが、やや時間があってGKの準備も間に合っていた。逆をとる必要があったが、焦らずに実行した。獲物を仕留めるハンターのメンタルで、少しも急所を外していない。
「久保は天才。またしても、その進撃で観客の心を射止め、(マーカーの)ユーリを混乱させていた。5得点目はスーパーだった。神業の数々で、本当にチームによく来てくれた」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、もう賛辞の言葉が尽きたかのように評している。
この2点目は重い一撃となった。そして交代出場のミケル・オヤルサバルがとどめの3点目。試合の行方は決した。
終盤、久保は苛立ったユーリとやり合う形になって、相手選手に詰め寄られるシーンがあった。アマリ・トラオレ、オヤルサバルが敵選手と久保の間に割って入っていった。久保は自ら仲間を助け、ゴールを決め、仲間を思うパフォーマンスをしたが、同時に仲間に助けられていたのだろう。お互いの絆で成り立っているラ・レアルらしい姿があった。
そして、バスクには独自の戦いの流儀がある。
【スポーツ紙では唯一の最高点】
「ユーリはずっと熱くなっていて、自分はそこに関わりたくなかったけど、2回も叩かれた。あそこで倒れていたらレッドカードだと思ったけど、(カードを要求するために)倒れなかった。でも、(ファウルだと)抗議はしたくて。相手のラウール・ガルシアには『削られても、リードしているんだから我慢しろよ』と言われて、まあ、自分が関わったのが間違いだったと思っているよ」
久保はそう振り返ったが、バスクの流儀を守ったということだ。バスクはスペインのなかでも、伝統的にフェアな精神が求められる土地だ。マリーシアという小細工は卑怯とされ、好かれない。通底しているのは、"男らしさ"のようなものであり、現代なら、不屈さ、と言い換えるべきか。歩けるなら黙々とプレーを続け、仲間とともに格闘し、最後は勝者の咆哮を上げる――。
久保はその渦の中心にいることをあらためて証明した。
「ベストゲームではなかったが、決定的な仕事をやってのけた」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の寸評だが、両チームでトップの選手として唯一、最高点となる三ツ星を与えている。
「次のチャンピオンズリーグは火曜日、ザルツブルク戦の11人をまた考えないとね」
イマノル・アルグアシル監督はそう語り、すでに次の戦いへ目を向けていた。これだけのレベルの連戦は簡単ではない。コンディションの見極めが重要だ。
しかし、久保は外せないだろう。
「タケがいればラ・レアルは勝てる!」
ファンのそんな期待を双肩に担えるほど、神がかった存在になりつつある。