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2次元(Digital)と3次元(Physical)の境界を越えて活動する、“だつりょく系アーティスト”の長瀬有花が、自身初となる有観客ワンマンライブ「長瀬有花 LIVE “Eureka”」を、8月25日に東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催した。バーチャルアーティストとして2次元の姿を用いた活動を行う一方で、(顔を隠した状態ではあるが)3次元の姿での配信や動画も積極的に展開している彼女。ハトを追いかけたり、公園の遊具で遊んでいるゆる〜い動画で和ませてくれたかと思えば、実在するスーパーマーケットや銭湯を舞台にしたちょっと実験的なコンセプトライブを届けてくれている。そんな長瀬の創意工夫とワクワク感に満ちた活動の、現時点での集大成であり、新しい姿を発見できたのが、今回の“Eureka(=ギリシャ語で発見・発明したことを喜ぶときに使われる感嘆詞)”というライブだった。

TEXT BY 北野 創

名うてのミュージシャンたちの生演奏が生んだ、新しい長瀬有花の姿



開演時間を何分か過ぎた頃、立ち見客で埋め尽くされた会場の照明が暗転し、ついにライブが開演。暗幕が開くとステージ上には、中央のLEDモニターに投影された2次元の姿の長瀬有花の姿が。1曲目は「fake news」。メロウなシンセサウンドとでたらめなニュースを読み上げる長瀬の録音音声が、ふわふわとした非現実的空間を作り上げるなか、そのリズムに乗って身を揺らせていた長瀬が、やがてマイクを手にしてオートチューンボイスを響き渡らせる。尺にして2分弱。いわばイントロダクション的な楽曲だが、その不思議な世界観が観る者を夢心地な長瀬ワールドへと一気に引き込む。



そして次曲「駆ける、止まる」へ。今回のライブはフルバンド編成で、ステージ上にはすでにバンドメンバーが揃っているのだが、いまだ楽器には触れずスタンバイ状態。長瀬は音源をバックに身を揺らせながら気持ち良さそうに歌を紡ぐ。だが、2番までを歌い終えて、ラップパートに入ったところで、2次元の姿の映像が乱れ始め、やがて消失。照明も落ちて「アクシデントか?」となったところで、長瀬の声で「長瀬有花 LIVE “Eureka”」とライブのタイトルコールが暗闇に響き渡り、バンドの演奏開始と共にステージが明るくなると、ステージ後方に置かれた巨大なロケットのドアが開いて、宇宙服のような白いレインコートっぽい衣装を着た生身の長瀬が登場。バイザー型のサングラスをかけているため目元はわからないが、フロアは3次元の姿の長瀬との初邂逅に大きく沸く。



そこから改めてバンドの生演奏で「駆ける、止まる」の続きが披露され、歌唱後、「こんばんわ〜、長瀬有花です。やっと皆様の前に立って歌うことができます。今日の時間を思いっきり刻み付けていきましょう」と挨拶すると、ディスコティックな「白昼避行」に雪崩れ込む。長瀬は「今日の楽しみ方は自由です」「他の人と違うことを恐れないで!」「あなただけの楽しみ方を長瀬に見せてくださーい」と呼び掛け、フロアの客は思い思いのスタイルで熱狂。さらにオリエンタルなメロディが印象的な「ライカ」、長瀬の低体温な歌い口とバンドのタイトかつ熱狂的な演奏の対比が鮮烈だった新曲「近くて、遠くて」と連続で畳みかける。特に後者では最後にドラムソロがフィーチャーされたのだが、奔放かつ正確無比な演奏にオーディエンスも大歓声で応えていた。



今回のライブで特に目立ったのがバンドの演奏力の高さ。それもそのはず、メンバーには、ソロやSANABAGUN.でも活躍する磯貝一樹(Gt)、モノンクルの角田隆太(Ba)をはじめ、宮脇翔平(Key)、工藤誠也(Dr)、Shoubun(Manipulator/Sax)といったジャズを素養に持つ実力派が勢ぞろい。よりグルーヴィーになった「アーティフィシャル・アイデンティティ」、ワウギターやコントラバスが新味を加えるなか途中でジャジーなインタープレイに発展した「とろける哲学」、間奏でサックスがソロを担ったラップ曲「ハイド・アンド・ダンス」など、どの楽曲も音源とは一味違ったアレンジになっていて、その意味でも新しい発見の連続だ。



そしてライブの9曲目「むじゃきなきもち」は、長瀬がかねてよりファンを公言しているチロルチョコとのタイアップで制作された新曲(チロルチョコ”きなこもち”20周年記念テーマソング)。ウィスパー交じりの柔らかな歌声、ユーモラスな歌詞、メルヘンチックなメロディ、愛らしい振り付け、そのどれもが彼女らしい“だつりょく”を体現している。続くウ山あまね提供曲「アフターユ」では、冒頭をアカペラで歌って、ロングトーンからまるで電池が切れるようなフレーズもそのまま再現。音源は基本打ち込みだったが、その独特のサウンドを生演奏で表現するにあたり、かなり大胆なアレンジが施されており、個人的にはネオソウル〜ファンク系のバンドのライブを観ているような気分になってしまった。

新鮮なアレンジの人気曲や新曲が織り成す後半戦



その後、バンドによるジャムセッション的な演奏を経て、mekakusheが作詞作曲をてがけた「やがてクラシック」を披露。サックスのフレーズがリードするなか、長瀬は可憐な手ぶりを交えてロマンチックな歌世界を広げていく。ハイライトとなったのは、ディープ&コズミックな間奏が明けてラスサビに入った瞬間。それまでロケットの中で歌っていた長瀬は、そこで初めてステージに降り立って、ファンとより近い場所で“いない いない いなくならないでね”と百万年先も一緒にいたい気持ちを伝える。そこから楽しくも切ない旋律が胸をギュッと締め付ける「異世界うぇあ」へ。黄昏色のライト演出、終盤のセカンドライン的なリズムアプローチとサックスが醸し出す賑やかな哀愁が素晴らしかった。



そして、とりわけセンチメンタルかつエモーショナルな光景を描き出したのが「微熱煙」。コントラバスの弓弾きによる優美な演奏にアコギのアルペジオやスペイシーな音色が加わり、まるで夜空のような景色を音で演出するなか、長瀬は最初の一節は後ろを向きながら、その後は振り返って前を向き、大切な何かを忘れないように、それまでになく感情たっぷりのニュアンスで歌を届ける。そして1サビの終わり“綺麗に泣かせて”のフレーズを上空に向けて手を伸ばしながら切ないロングトーンで聴かせると、そこからバンドメンバーがエレキギターとベースに持ち替えて熱のこもったロックサウンドに変貌。オーディエンスも一気に盛り上がり、クラップやハンズアップでそれぞれの想いをステージ上の長瀬に伝える。



ゆったり力強いテンポと浮遊感あるメロディが合わさった新曲「宇宙遊泳」では、星屑のような映像がステージ全体に投影されて、長瀬の優雅に泳ぐ歌声も相まって、本当に宇宙を遊泳しているような気分に。バンドメンバーの紹介を挿み、まったりしつつもどこかストレンジな雰囲気が長瀬らしい「みずいろのきみ」を歌うと、続く「今日とまだバイバイしたくないの」では横揺れのグルーヴに合わせてオーディエンスもクラップやワイパーで盛り上がる。ラストは長瀬の呼び掛けで“今日とまだバイバイしたくないの”というフレーズをみんなで大合唱。当の長瀬は「その調子、もっともっとー」と言い残してロケットの中に去っていったのだが、バンドの演奏とオーディエンスの合唱は止むことなく続き、今のこの時間がいつまでも続いてほしい気持ちを共有し合う。



その想いに応えるように、長瀬は再びステージへ。ポンチョタイプの衣装の袖を外してやや身軽な姿になった彼女は、ボカロPのいよわが提供した人気曲「オレンジスケール」をオレンジ色のライトに照らされながら披露。さらにアグレッシブなグルーヴとチカチカ光る照明やレーザーが昂揚感を生んだ「プラネタリネア」、キラキラしたシンセサウンドとノスタルジックなメロディがマッチしたテクノポップ風の新曲「ブランクルームは夢の中」と、ステージ映えする楽曲をラストスパートとばかりに畳みかけていく。そして最後は、今年6月に発表されたいよわ書き下ろし曲「ほんの感想」で締め。ポップでプログレッシブでせわしなくテンポチェンジする、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような音世界は、いつも予想外の楽しいことを届けてくれる彼女の存在そのものだった。

程良い“だつりょく”感がありながらも腕利きのミュージシャンたちによる超絶グルーヴをさらっと乗りこなしてしまう歌唱センス。生演奏により新たに引き出された楽曲のポテンシャル。これだけすごいライブを終えたあとにも関わらず、いつものゆるい口調で「気をつけて帰ってねー」と言い残して去っていくマイペースぶり。それら長瀬有花の色んな魅力を改めて見つけることのできたのが今回のライブだったように思う。まだ彼女を“発見”していない人は、今からでも遅くないのでぜひチェックしてほしい。

●ライブ情報

「長瀬有花 LIVE “Eureka”」

■ストリーミングチケット:

・受付期間

2023.08.05(土)18:00 〜 09.10(日)21:00

・アーカイブ視聴期間

〜2023.9.10 (日) 23:59

一般チケット:2,500円(税込)

<海外配信>通常チケット2,273円

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※通常チケットの金額差は日本国内の税抜き価格となります。国内にお住まいの方は購入されないようお気をつけくださいませ。

・[国内]配信チケットプレイガイド:https://eplus.jp/yuka-nagase/st/

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