Photo by Teppei Hori

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80年代から日本の古着シーンを牽引してきたヴィンテージショップ「DEPT」。そのオーナーを父に持ち、現在は新生DEPTのオーナーでもあるeriさんは、「きれいに着飾るファッションだけが自己表現ではなく、選択こそが自己表現」と話します。環境問題や気候危機、政治課題に真っ向から取り組むアクティビストでもあるeriさん。10代の頃から「立花ハジメとLow Powers」のボーカルなどの音楽活動や、ファッションブランドの立ち上げなど、その多岐にわたる活動は常に注目を浴びています。環境問題や気候危機に関心を持ちアクティビストとして活動するようになったきっかけ、表層のみ環境問題に取り組む企業への提言、毎日を心地よく暮らすための秘訣、古着とファストファッションに関する考え――。そこには、これから企業を担っていくビジネスパーソンにとって重要な観点がありました。(聞き手・編集:探求集団KUMAGUSU、構成・文:奥田由意)

古着を通して
環境問題を見つめ直した

――eriさんは、ファッションブランドのデザイナーやオーナーとしてビジネスを展開しながら、アクティビストとして環境問題に関するメッセージを発信し続けています。環境問題に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

eri氏(以下、eri) きっかけとして大きかったのは、2019年にIPCC(※)のレポートを読んだことです。※Intergovernmental Panel on Climate Change/国連気候変動に関する政府間パネル。本部はスイス・ジュネーヴ

 産業革命前に比べて地球の平均気温が1.5℃を超えてしまうと、連鎖的に異常気象が起こり気温上昇も抑えられなくなる、現在の温暖化対策では早ければ2030年にも1.5℃に到達してしまう、もはやタイムリミットが近づいている――。

 20代前半にアル・ゴアの著書『不都合な真実』を読んだりと、それまでは漠然と「人間によって環境に負荷がかかっている、地球の温暖化が進んでいる」という認識でした。

 それが、レポートを読んで自分たちの置かれている危機的な状況を知り、「これまで通りの生活を送っている場合ではない、すぐに何らかのアクションを起こさなければ」と強い危機感を抱きました。

――2015年には、eriさんの父親が設立した、日本のヴィンテージショップ(古着屋)の先駆けともいえるDEPTを再始動しています(※)。古着を通して環境問題を見つめ直した部分もあるのでしょうか? ※コロナ禍以降、オンラインショップのみの営業

eri その通りです。両親が古着屋だったので、私も小さい頃から、古い物、それこそ30年前、40年前、50年前の服を着ることが当たり前でした。

 一方で、2000年代後半ぐらいから、日本、そして世界でファストファッションが台頭し、ファッション業界がめまぐるしく変わっていきました。トレンドを追って安価に服が売られ、使い捨てられていく。このことはとてもショックでした。

 海外で古着を買い付ける際、倉庫の中に眠るたくさんの古着の中からピックアップするのですが、今はそこにファストファッションの服が大量に流入していて、質もぐんと下がっている。以前のような、数十年もつような服ではなく、1年前につくられた服が瞬く間にゴミになってしまう。

 この状況はおかしいのではないか、本当にこのままでいいのだろうか、人々の価値観を以前のように服を大事にしていた頃に戻すことはもはやできないだろうか、そう考え始めたことも、サスティナブルについて関心を持つきっかけになったのだろうと思います。

「服は長く着続けられるものであり、そのように作られるべきである」――。古着の価値を通して、このことを社会に広く伝えたいという想いがあります。

――日本には海外から良い古着が集まっていると聞いたことがあります。

 不思議なことに、海外の古着好きの人たちもわざわざ買いに来るほど、日本の古着マーケットは充実していると思います。

 持論ですが、日本人からすると海外の古着というのはどれも貴重なので、集めたくなりますし、大切に扱いますし、きれいに陳列します。日本というのは、海外の文化を取り入れて咀嚼(そしゃく)し、独自の文化をつくり上げることに長けていますよね。音楽やグラフィックもそうですし、古着のカルチャーも、すごくハングリーにピックアップして、かっこよく陳列する。それが外から見ると新鮮に見えるのではないでしょうか。

 量だけ見るともちろんアメリカにはかないませんが、欧米の古着屋はもっと雑多に陳列されているので、日本の古着屋さんのようなクオリティーで陳列しているお店を見つけるのはかなり難しい。バイヤーがこだわりを持って服をそろえて、それを見栄え良く陳列し、ひとつの世界観が完成している。たしかにそうしたショップというのはなかなか海外にはないかもしれません。日本は稀有な古着カルチャーを持っているのだと思います。

――今、再び古着の人気が高まっていますが、古着にはどのような可能性があると考えていますか?

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