ソーシャルメディアが広く普及している現在では、すべてとは言わないまでもほとんどのブランドが、そこでのプレゼンスと戦略を持っている。だが、ソーシャルメディアの有料化が進み、オーガニックなリーチは得難くなった。一方でブランドがエンゲージメント獲得に注力するなかで生まれたトレンドが、面白おかしい表現でブランドをアピールするやり方である。10人のエージェンシー幹部に米DIGIDAYが取材したところ、「ブランドは、いわゆるZ世代が使う言葉や社会的関心事などのトレンドのフレーズを使って目立とうとするが、かえってどれも同じ代わり映えのしないものになってしまっている」と語ってくれた。マーケティングエージェンシーのR/GAは、Xへの投稿のなかで、面白おかしい表現の投稿とは「同じ語彙を使い、同じミームに適用される、ひとつのつぶやきである」と述べている。

類似するブランドの投稿

「ここしばらくのあいだ、ソーシャルメディア上、特にXのブランドアカウントで投稿スタイルが特定の形式に集中したり、ジョークのフォーマットがどれも同じ話し方を採用していたりするのを見てきた」と、R/GAでエグゼクティブクリエイティブディレクターを務めるチャピン・クラーク氏は、前述のXへの投稿を引用したうえで話す。つまりブランドは、Z世代とミレニアル世代の言葉を利用して、人間同士の交流をマネているのだという。エージェンシー幹部やストラテジストが考える限りでは、たとえばXやメタ(Meta)のThreads(スレッズ)のようなテキストベースのソーシャルメディアプラットフォーム上では、ブランドは似たようなオンラインペルソナを使っているようだ。それはインターネット上のスナーク(皮肉)やネットで好まれるジョークであり、ネットに書き込む人の口調をマネたり、TikTokでバズっている食べものの話題や問題提起するエンゲージメント投稿に集まったり、IYKYK(if you know, you know:わかる人にはわかる)といったネットスラングを使用したり、あるいはユーザーのことを「親友(bestie)」と呼んだりもする。詰まるところ、たくさんのブランドの投稿が同じに聞こえてしまう状況がソーシャルメディア上に作られたために、個々のブランドのオンラインエンゲージメントを高めようとする投稿が犠牲になっているのだ。「すべてはKPIとメトリクスをめぐるゲームだ。私の考えだが、オンライン上での人々の交流の仕方が大きく変わったと思う」と、ロサンゼルスに拠点を置く広告エージェンシーのソーシャルメディアマネージャーであるアレックス・グリーン氏は述べている(同氏はプライバシーの観点から、所属するエージェンシーの名前を出さないよう求めた)。

ソーシャルメディアを変化させた主な原因

ストラテジストやエージェンシー幹部によれば、この変化にはいくつかの原因があるという。第1に、ソーシャルメディアの上位層は大部分が有料化されており、オーガニックトラフィックやエンゲージメントを得ることが難しくなっているということだ。とはいえ、ブランドはミレニアル世代やZ世代に親近感を与えるようなユーモアを使うことでほかとの差別化を図り、オーガニックトラフィックを獲得する方法を模索している。第2に、ソーシャルメディアがほとんどのデジタルマーケティング戦略の定番アイテムになるにつれて、そこに携わる関係者の数も多くなり、ソーシャルメディア上で使用されるコピーの承認プロセスにより多くの形式的な手続きが発生するということだ。Spotifyやエッセンス(Essence)誌のような大手ブランドと仕事をしてきたフリーランスのソーシャルメディアマネージャーであるダンテ・ニコラス氏は、「投稿が実際にプラットフォーム上に載るまでには、再三にわたり承認や編集の手続きを経ることになる。そうして出来上がったものは、いろいろなブランドを混ぜ合わせたようにしか見えない」と指摘している。その結果、Z世代のいうところの「チューギー(cheugy)な」、すなわちトレンドから外れた投稿になり、その効果も薄まってしまうことがある。3つ目は、「猿真似」、あるいは流行りに乗って周囲の真似をするようなケースである。これは、かつてブランドが最初にTwitterに群がったときに発生した傾向で、ステイカム(Steak-umm)、ウェンディーズ(Wendy’s)、ムーンパイ(Moon Pie)などのブランドが最終的には「ぶっ飛んだ」ソーシャルメディア戦略へと進んでいった(「ぶっ飛んだ」ソーシャルメディア・マネージャーへの賛否についてはこちらの記事を参照)。この戦略は、ソーシャルメディアのエンゲージメントだけでなく、時にはマスコミ報道やアーンドメディアも獲得し、効果があったようだ。たとえば、ウェンディーズのナショナルローストデーのツイートは、メディアプラットフォームのスリリスト(Thrillist)やNBCテレビの公式サイトToday.comなどいくつかのYouTubeクリエイターチャンネルに取り上げられ、現在はウェンディーズのブログ内のロングフォームコンテンツとして残っている。ゲーム開発会社ライアットゲームズ(Riot Games)のリーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)担当グローバルソーシャルリードであるアマンダ・ドムラツキ氏は、「業界にとって、自らの成功がかえって弊害となってしまった」と話している。つまり、バイラルエンゲージメントを産み出す公式が業界全体のソーシャルメディア戦略の定番となってしまったらしい。最後に、イーロン・マスクによる買収以来続くXのドタバタ劇と、このプラットフォームへの終わりのない変更に対する答えとしてメタが打ち出した、Threadsの立ち上げである。最近ローンチされたばかりのこのプラットフォームには、いまだに大きな動きはなく、ユーザーもブランドも慣れるのに時間を要している状況だ。これまでのところ、各ブランドはThreadsに対して皮肉っぽい姿勢でいくか、あるいはいわゆる「ぶっ飛んだ」とされるアプローチをとるかのいずれかである。「人々はインプレッションやビューの獲得に躍起になるが、なぜそれが重要なのか、結局のところよくわからない」と、公衆衛生関係やハイテク関連のクライアントを担当するフリーランスのソーシャルメディアストラテジスト、コディ・ジョンソン氏は言う。「Threadsを利用する人たちはみな、ある種のバイラリティ(急激な拡散)を追い求めているように見えた」。

過去を参考にするのか、躊躇なく突き進むのか

現状、Threadsはまだ広告ユニットを立ち上げておらず、ユーザーがThreadsの方向性、すなわちニュースやリアルタイムの会話や文化社会的な出来事を映し出すうえで本当にXの代替になり得るのか、それとも政治やハードニュースとは対照的なポジティブなエンゲージメントを中心に扱うプラットフォームなのかを決定づけるまでは、ほぼエンゲージメント指標を重視した利用形態になっている(Threads自身は軽いトーンを保つことを目指しているというが、パブリッシャーからは、今後オーディエンスはニュースを求めるようになるだろうとの声が出ている)。たいていの場合ブランドは、Threadsでは安全策をとって主流の文化的ニュースやトレンドミームを追い求めており、世間の反発を買わないよう、かつてウェンディーズやデュオリンゴ(Duolingo)がTwitter上で負ったようなリスクは回避しているようだ。マーケティングエージェンシーであるクリエイティブセオリーエージェンシー(Creative Theory Agency)の幹部たちによれば、「ブランドはThreadsに乗り込んできて状況を変えるつもりはない」のだという。「ソーシャルメディアは成熟期に入っており、参考にすべきさまざまな出来事がすでに存在している。私たちは成功事例のデータを豊富に持っており、それを活用して再現できる」と、クリエイティブセオリーエージェンシーのソーシャルメディア担当ディレクターであるキャンディス・キャリントン氏は言う。しかしながらそれは、チャンスを逃すことへの恐怖のせいだ、と考える人もいる。クリエイティブスタジオであるRKA社(RKA Ink)のクリエイティブ・ディレクター兼ブランドストラテジストであるレイチェル・ケイ・アルバース氏によると、ソーシャルメディアが最初に盛り上がりをみせたとき、広告ユニットがなかったブランド各社はこれらのプラットフォームへの参加をぐずぐずと先延ばしにし、その結果、真のオーディエンスを獲得してコンテンツを拡散させる機会を逃したという。だから多くのブランドがTikTokへの参入を熱望し、バズる瞬間を作り出そうとしたのだ、と話す。

ソーシャルメディアの利用として考えられる2つの結末

「最近では、これらのプラットフォームが見せ場を作りニュースの話題になれる場所であることを、ブランドはよくわかっている」と、レイチェル氏は言う。だがストラテジストやエージェンシー幹部たちは、この業界はやがて2つの結末のいずれかに向かう変曲点に差し掛かるかもしれないと予測する。ソーシャルメディア上でオーガニックなリーチを得るためには、誰よりも面白く、「ぶっ飛んで」いることが生き残りを左右するポイントになるか、それともブランドのコメディ的要素は先細りになって、教育、情報、あるいはブランドごとの目的を中心とした投稿に道を譲るか、のいずれかになるというのだ。彼らに、ソーシャルメディアにおけるよいテキストベースの投稿にはどんな要素が必要かと尋ねたところ、10人が同じ意見を示した。それは「親近感」「独創性」「タイムリーであること」だった。オムニコムグループのTBWA\シャイアット\デイ(TBWA\Chiat\Day)のロサンゼルス支社でアーンドメディアとソーシャルのクリエイティブディレクターを務めるヤンニ・ワイダーホルム氏はこう話す。「コンテンツは、ジョークや皮肉ばかりではなくなり、より問題提起型が増えてきた。これまでブランドはこれをあまりよしとしてこなかったが、ここにきてその価値を理解し始めたようだ」。[原文:Why brands are still trying to be funny and chronically online - even in ‘late stage social media’]Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)