FIFA女子ワールドカップが開催されたオーストラリアでは、女子代表が男子代表の人気を上回る盛り上がりを見せている。一方でなでしこジャパンがベスト8進出の日本は、WEリーグが苦戦中だ。長年女子サッカーを取材してきたライターに、ブームに乗る強豪国と日本の差をレポートしてもらった。

前編「W杯優勝のスペイン女子国内リーグが盛り上がる理由」>>


W杯5得点で得点王の宮澤ひなたは、WEリーグのマイナビ仙台レディース所属

【注目度で男子を超えたオーストラリア女子代表】

 マチルダズ(オーストラリア女子代表の愛称)は今回のW杯でベスト4と躍進した。準決勝の入場者数は75,784人。欧州王者のイングランド女子代表に真っ向勝負を挑み、ファン・サポーターを最後まで沸かせた。

 オーストラリア国内で、女子サッカーは「プレーするスポーツ」として人気があった。女性の登録選手数が10万人を超えている国は世界中に9カ国しかない(アメリカ、カナダ、ドイツ、スウェーデン、オランダ、フランス、イングランド、オーストラリア、ノルウェー/2019年FIFA発表)。

 ところが、女性の人口が日本の1/5でしかないオーストラリアには、日本の約2倍にあたる11.3万人の女子選手がいる。そのベースがなぜ生まれ、なぜ今大会で「見るスポーツ」としての魅力まで急上昇したのだろうか。

 オーストラリアでは街クラブからトップクラスのクラブまで、ほとんどが男女チームを有し、平等に施設を使用できる。福岡J・アンクラス(なでしこリーグ)で猶本光(現・三菱重工浦和レッズレディース)と6年間プレーした花田亜衣子は、現在、FQPL1ウィメン (Aリーグ・ウィメンから数えて3部に相当)のロビーナ・シティ・サッカークラブでプレーしている。

 彼女によると、オーストラリアでは小さな街クラブでも芝生のグラウンドが4面くらいあるのは当たり前。U−6から大人の年代まで、そして、あらゆる人種のあらゆる層が男女それぞれのチームでプレーできるという。

 大会招致の際に謳われたテーマ「As One」(ひとつになって)を目指し、オーストラリアの女子サッカーは歩んできた。オーストラリアは移民国家。1950年代、第二次世界大戦で荒廃した欧州から移住してきた人々が民族別コミュニティを作り、各地でフットボール(サッカー)クラブが誕生した。

 そして、Jリーグの誕生から遅れること11年、2004年にAリーグが誕生。先住民族も含め、多民族を融和した、地域に密着する新たなクラブを育てた。そして、そこに男女平等が加わるのだ。

 2021年に女子のトップリーグだったWリーグが組織改変しAリーグ・ウィメンと改称。同時に男子もAリーグ・メンとなり、プロリーグは男女が横並びとなった。

 オーストラリア女子代表は早くから男女賃金の平等を実現(男女チーム全体のシーズンにおける総収入の24%ずつを男女チームでシェアする契約)。さらに、今大会開幕直前には、FIFAに対し男女代表チームの賞金格差是正を求める動画を公開している。こうした動きについて、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)渉外担当の辻翔子氏は自らの経験からこう話す。

「問題意識の強い国というのもあると思いますが、オーストラリアPFA(プロ選手会)が人権問題や社会問題に対してかなり積極的に働きかけており、それに選手たちが賛同しているのではないかと思います」

 FIFPROは女子サッカー選手の待遇改善のためにFIFAにレター(要望書)を提出する際、早い段階でオーストラリアPFA(プロ選手会)の署名協力を得ている。

 Aリーグ・ウィメンでのプレー経験があり、現在はNPLヴィクトリア・ウィメン(Aリーグ・ウィメンから数えて2部リーグに相当)のハイデルベルク・ユナイテッドFCに所属する大宮玲央奈は、2020年からオーストラリアでプレーしている。その大宮は、女子サッカーの置かれた環境をこのように話す。

「男子も女子も同じAリーグになると聞いた時はすごいと思いました。なぜなら、男女のリーグを管轄するところが一つになるということだから。日本では考えられないです。例えば、男女のダブルヘッダーはメンが第1試合の時もウィメンが第1試合の時もあります」

 女子サッカー界が強く主張し続けた上にマチルダズの快進撃が加わり、今や男女の代表チームの注目度が逆転。オーストラリアのサッカー界はスピーディに変化し続け、これからも変わるだろう。

【変わるきっかけは「グローバル化」と「外圧」】

 そこで気になるのが日本の状況だ。上野千鶴子氏(ジェンダー研究の第一人者・社会学者)をはじめ多くの学者や識者らが以前から指摘する「日本の女子の自己肯定感の低さ問題」が重たい。

 この問題はWEリーグが開催するWE ACTION MEETINGでも取り上げられている。日本の女子選手はオーストラリアやスペインとは全く逆の発想に陥りがちで、「男子の施設を使わせてもらっています」と言葉を発することもある。

 ただ、2つの国の女子サッカー事情を知ると、これを「日本の女子特有の問題」と片づけてしまうのはあまりに酷だ。WEリーグの郄田春奈チェアはヨコハマ・フットボール映画祭2023のトークステージで問題提起した。

「なぜJリーグのチームは『トップチーム』と呼ばれ、同じクラブ内のWEリーグのチームは『女子チーム』と呼ばれるのだろう」

 スペインの「『2つのトップチームを持つ』意識」、オーストラリアの「Aリーグ・ウィメンとAリーグ・メン」とはあまりに違う。プロであっても「アカデミー(育成組織)と同じ一群に見られてしまう」というWEリーグでプレーするプロ選手からの声もあるそうだ。

 勝てなければ2011年の世界一と比較され、試合のレベルが男子よりも低いと揶揄される。声を挙げれば「勝ってから言え」と反発を受ける。批判と隣り合わせで閉塞感から抜け出すことができなかった。

 プロ選手であることに、絶対的な自信を持ちにくい環境だったのだ。それでは選手の魅力やストーリーはファンに伝わらない。根深い「日本の女子の自己肯定感が低すぎる問題」を解決しなければ、日本の女子サッカーに明るい未来は拓けない。

 WEリーグ開幕以前に行なった「2014プレナスなでしこリーグスタジアム調査」によると、観戦者の男女比は男性約70%、女性約30%。年齢は40歳以上が約75%を占めており、Jリーグよりも若年層の来場が少ないことが特徴となっていた。

 そのため、プロ化から2年を費やし各チームが新規来場者の開拓に努力。女性やファミリーが思う存分に一日を過ごせる工夫を凝らしてきた。ちふれASエルフェン埼玉の昨シーズンのホーム最終戦の来場者の約6割が親子観戦となったように、多くのスタジアムでファミリー層や女性が増加傾向にある。

 選手が自信に満ちたプレーを続け、発言し、プロサッカー選手としての輝きを増せば増すほど、その姿を見に行きたいファン・サポーターは増えるに違いない。それは、選手の自己肯定につながっていく。

 前後編を通してスペインとオーストラリアの女子サッカー事情を紹介したが、共通項があったことにお気づきだろうか。いずれも自力だけで発展したわけではない。そこには「グローバル化」と「外圧」があった。スペインはEU加盟が、オーストラリアは女子ワールドカップが大きく影響したのだ。

 日本の女子サッカーは「グローバル化」と「外圧」で変わる絶好の機会を逸したのではないだろうか。多くの人は忘れているが、日本は今回の女子ワールドカップの招致を目指していた。最終の票読み段階で辞退したのだ。

 日本はできるだけ早いタイミングで、再びFIFA女子ワールドカップの招致に挑戦すべきではないだろうか。これも忘れられがちだが、東京五輪の女子サッカーの前売り券は国立競技場も横浜国際競技場も完売していた。

 招致に成功すれば、多くの観客が生き生きとして希望に満ち溢れた世界の女子サッカー選手たちを目の当たりにする。その時日本が、女子のフットボールカルチャーでも世界に追いつく新たなスタートを切れるはずだ。