札幌記念は有力馬に乗る騎手の駆け引きに注目も、間隙を突く人気薄馬の大駆けに注意
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――夏競馬の大一番、GII札幌記念(札幌・芝2000m)が8月20日に行なわれます。今年もGI馬3頭をはじめ、好メンバーが集結。見どころは多いと思いますが、大西さんはどの辺りに注目していますか。
大西直宏(以下、大西)やはり(有力馬に騎乗する)ジョッキーの駆け引きですね。昨年もパンサラッサとジャックドールの逃げ争いに注目が集まりましたが、今年も各ジョッキーの攻防に関心が向きます。
脚質的に見て、おそらくレースをコントロールするのは武豊騎手騎乗のジャックドール(牡5歳)だと思いますが、この馬を負かしにいく人気馬に騎乗する、ジョッキーたちの手綱さばきが見ものです。
――上位人気が予想される面々、シャフリヤール(牡5歳)には横山武史騎手が初騎乗。プログノーシス(牡5歳)は、同馬とのコンビでは無敗(5戦5勝)の川田将雅騎手が鞍上を務めます。そして、ダノンベルーガ(牡4歳)には「マジックマン」の異名を持つジョアン・モレイラ騎手が乗りますから、確かにトップジョッキーたちの競演からは目が離せません。
大西 それらは、いずれも直線の長いコースで差し脚を生かしたい馬たち。それだけに、直線が短いこの舞台では上手な立ち回りが求められます。「僕が騎乗するなら......」と、それぞれの騎手に成り代わってレースのシミュレーションをしていますが、どの馬に乗ったとしてもなかなか戦い甲斐がありますね。
いろんなシミュレーションをするなかで、とくにダノンベルーガの手綱をとるモレイラ騎手がこの馬をどう乗りこなすのか、気になりました。初めてコンビを組んだ前走の海外GIドバイターフ(3月25日/UAE・芝1800m)では、後方から運んで直線勝負にかけるも、ややさばき遅れて脚を余した形で2着。能力の高さを感じつつも、器用さがないことを感じ取ったかもしれません。
そういった馬を、この小回りコースでどう乗るのか。とても興味深いです。
外国人騎手はスタートで(好位に)出していって、その位置で折り合わせる技術が高いです。もし今回、モレイラ騎手によって、ダノンベルーガがそういう競馬を実践。それで結果を出して、新たなスタイルを確立したら、この秋のGI戦線が俄然面白くなりそうです。
――各人気馬にトップジョッキーが騎乗することを考えると、固い決着となる可能性が高そうです。
大西 必ずしもそうとは限りません。人気馬とはいえ、いつもと違う競馬で勝ちにいけば、馬が戸惑って能力を発揮できないこともあり得ます。
もちろん、うまくいく場合もありますが、各ジョッキーの勝ちにいく気持ちが強くなればなるほど、ゴール前はもつれやすくなります。馬券圏内(3着以内)のひと枠ぐらいなら、穴馬が台頭する余地はあると思います。
――その穴馬候補として、すでに考えている馬はいますか。
大西 気になっている馬が2頭います。まずは、トップナイフ(牡3歳)です。春のクラシック2戦ではともにスタートが決まらず、持ち味を生かせる競馬に持ち込めませんでしたが、この馬本来の先行策が取れた場合は、まだまだ見限れません。
3歳馬は斤量55kgと有利。出足はつきやすいでしょうし、スタート上手な横山和生騎手に手替わりすることもプラスに働くのではないでしょうか。
逃げ候補はユニコーンライオン(牡7歳)か、ジャックドールになりそうですが、それらを見ながらのポジションを取って、淡々と流れに乗ることができれば、なだれ込みのチャンスは十分にあると思います。
札幌記念での大駆けが期待されるイズジョーノキセキ
もう1頭、大穴候補を挙げるとすれば、イズジョーノキセキ(牝6歳)です。血統や実績的には地味な存在ですが、昨年のGI有馬記念(12月25日/中山・芝2500m)では豪華メンバーがそろうなか、4着と好走しています。
この馬は、とにかく岩田康誠騎手が乗り方を熟知していて、好走時には必ずと言っていいほど、内ラチ沿いをピッタリと追走。脚をタメて、最後はインから抜け出してきます。重賞初制覇となった昨秋のGII府中牝馬S(東京・芝1800m)の際も最内から伸びて、断然人気のソダシを差しきりました。
前走のGIIIクイーンS(5着。7月30日/札幌・芝1800m)も、いつものようにイン差しを狙う乗り方をしましたが、(直線で)ずらっと前が壁になってしまって自慢の末脚が不発。それでも、転厩初戦で57kgという酷量を背負って、馬場の中央から追い込む競馬ができたのは収穫でしょう。
周りの騎手がどう動こうと、この馬のやることはラチ沿いで徹底して脚をタメ、一発を狙うのみ。岩田康騎手は今回も、腹をくくってその騎乗に徹するはずで、それがうまくハマッた時には大駆けがあっても驚けません。
ということで、トップナイフも魅力的ですが、今回はより大穴への期待を込めて、イズジョーノキセキを「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。