勉強や仕事ができる人は、独特な“頭の使い方”をしているといいます(写真:zon/PIXTA)

世の中には間違いなく、運を引き寄せられる人とそうでない人がいます。いったい、どこで道が分かれてしまったのでしょうか。

実は、運を引き寄せる力がある人たちというのは、単に運に恵まれているというだけではなく、運を強く引き寄せる行動をしているのです。運を引き寄せられる体質、つまり「強運脳」に変わる方法とは――。脳科学者の茂木健一郎氏がこれまで数十年かけて、さまざまな分野で仕事をしながら出会ってきた強運の持ち主や、自分の能力以上の成果や成功を収めてきた人たちの考え方・行動パターンを最新の脳科学の知見をもとにわかりやすく紹介していきます。

本稿は、茂木氏の新著『強運脳 偶然を必然に変える脳の習慣』より一部抜粋・編集のうえ、お届けします。

自分のやっていることを別の視点から客観視してみる

先日、私が長らくナビゲーターを務めていたNHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』の番組スタッフと話をする機会がありました。

『プロフェッショナル 仕事の流儀』とは、超一流のプロフェッショナルに密着し、その仕事を徹底的に掘り下げるドキュメンタリー番組なのですが、最近の視聴率にある変化が見られるようです。

そのスタッフが言っていたのが、「最近は、誰もが知る超一流のスターを扱う回よりも、普段あまりスポットライトが当たらない仕事をしているプロフェッショナルを扱った回のほうが意外と視聴率を取れるんですよ」ということでした。

少し意外な話でしたが、よくよく考えてみると「自分が当たり前と思ってやっている仕事」にしても、「具体的にどういうことをやっているのかということを明らかにする」ことで、他人からの思わぬ推しが生まれるということがあるのでしょう。

実は、私にもそのような経験があります。『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)という本が誕生したときのエピソードです。

私は学生時代、学年でダントツに勉強ができました。それこそ、受験で苦労したことなど一度もありません。たとえば、誰もが苦労する「暗記」があります。でも、私にはとっておきの暗記法があったのです。

それは、「鶴の恩返し勉強法」というものです。

「決して私が機はたを織っているところを見ないでください」と姿を隠し、自分を助けてくれた老爺のために、鶴の姿になって機織りをするあれです。あの鶴のように部屋にこもって集中して勉強するのです。

その勉強法とは、声に出しながら、ひたすら書いて覚えます。さらに一度覚えたテキストから目を離し、思い出しながらまた声に出して書き出していく。目で読みながら、声に出しながら、手で書きながら、まさに五感を使って暗記していくのです。

なりふり構わないこの勉強法は、とてもではありませんが恥ずかしくて人には見せられません。なので、そんな様子が鶴の恩返しに似ていることから、「鶴の恩返し勉強法」と名づけました。

後々わかったことですが、この勉強法は脳科学的にも理にかなっていました。

記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があり、短期と長期いずれの記憶も最終的に脳の大脳皮質にある側頭葉の側頭連合野に蓄えられます。

暗記ができるようになる秘訣は、いかに覚えたことを長期記憶にできるかどうかですが、私はこの勉強法で覚えたことをうまく長期記憶に移行することができていたのです。

「鶴の恩返し勉強法」はなぜ有効なのか

たとえば英単語を覚えるとき、ただ目だけで単語を見て覚えていくのは難しい。でも、五感を使って勉強すると、うんと覚えやすくなります。

そのメカニズムをお伝えしましょう。

私たちが覚えたことは「海馬」という脳の部位に保存されますが、海馬は短期記憶を長期記憶に移行すべきか否かの判断を行っています。

そのため鶴の恩返し勉強法では目で読みながら、声に出しながら、手で書きながら勉強することで、視覚に加えて聴覚や触覚への刺激が直接脳へ伝わり、記憶を司る部位である海馬が刺激されて記憶が定着しやすくなるというわけです。

最終的に、何度も反復して海馬にアクセスされた記憶は「重要である」と脳が判断し、側頭連合野に送られて長期記憶として保存されるのです。

この勉強法、私にとってはごく当たり前の方法だったわけですが、あるときこの話を知り合いの編集者にしたところ、「茂木さん! それおもしろいですよ! ぜひ本にしましょう」ということになったのです。

私としては「こんな当たり前のことが本になるのかな……」と半信半疑でしたが、ふたを開けてみたらその本は50万部を超えるベストセラーとなりました。

運気アップ:自分では当たり前と思っていることでも客観視してみる

「ゆるいTo Doリスト」を脳の中に用意する

仕事の優先順位を決めるとき、多くの人はしっかりした「To Doリスト」をつくって粛々とこなしていけばよいと、考えるのではないでしょうか。

私が意識していることはちょっと違っていて、いつも脳の中に「ゆるいTo Doリスト」を用意しておくということを実践しています。

独自のやり方ですが、紙やパソコンなどにTo Doリストを書き出したりせず、脳の中につねに変更可能なTo Doリストを用意して臨機応変にやるべきことをやるように心がけているのです。

いくらTo Doリストをきっちりつくっても、膨大な仕事を処理しなければならないので、なかなか予定通りにはいかないからです。そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

短期的なものから長期的なものまで実に多種多様な仕事があって、優先的にやらなければいけないことはひとつではなく、むしろ複雑に入り組んでいるものです。

私の場合、原稿執筆から取材や講演、学会のための論文の読み込みなど、やるべき仕事は実に多種多様です。そのうえちょっと油断すれば、また新しい仕事の依頼が舞い込んできます。

そんなときに必要なのは、現状を踏まえながらも、瞬時に「もっとも重要なこと」に目を向けること。そこで、つねに頭の中でTo Doリストのイメージを変化させていくことが肝心だと気づき、いつも脳の中にゆるいTo Doリストを用意しておくという方法を取り入れたのです。

「頭の中にTo Doリスト? 自分にはとてもムリ!」と思った人もいるかもしれません。けれども私は、これを単なる「慣れ」の問題だと考えています。

そこで、こんな習慣を身につける努力をしてみてください。

朝の就業前に、何にどれくらい時間を振り分けるか、その日の仕事を見通すトレーニングとして「あの仕事は本当にすぐやるべきか」などと脳内で段取りのイメージをつかんでおくのです。このとき、脳内To Doリストは固定したものにしないということを心がけてください。

そして、頭の中のリストを臨機応変に、ダイナミックに変えるためのトレーニングを重ねていくと、脳の中にゆるいTo Doリストを持てるようになっていくはずです。

「何と何をやるべきか」ということを、ちょっとだけ深く考える思考癖を持つことが何よりも重要です。

脳の中にゆるいTo Doリストを用意していると、未来の行動にいろいろな可能性が広がってゆき、運を引き寄せる原動力にもなり得るのです。

一度やってみるとわかると思うのですが、いつも脳内To Doリストを整理していると、朝起きてから夜寝るまで、いかに自分のスケジュールがスキマだらけかということに気がつくはずです。

つまり、時間活用の可能性が大きく広がっていくという観点からもメリットが生まれるのです。いってしまえば、「一石二鳥」の思考法というわけです。

脳の中に「ゆるいTo Doリスト」をつくる秘訣

ここで、簡単に脳の中にゆるいTo Doリストをつくる秘訣をお教えしましょう。


私たちは普段、「自分が今やっているのは○○○」と意識していることが多いと思います。まずはこのイメージを変化させることが肝要で、処理すべきさまざまな案件が無意識下で湧き出ているイメージを持ってみてください。

脳の仕組みからいえば、意識は多重構造であると考えられています。今まさにあなたは目の前でやっている作業と並行して、意識の奥で別のことに注目しています。これがいわゆる無意識の部分というものです。

今やっていることに100パーセント集中しながらも、同時にやっていない他の案件も無意識の中で見えている。そしてタイミングに応じて、無意識下にあった他の案件を拾い上げてみる。

これが脳の中にゆるいTo Doリストをつくる理想の状態だということを覚えておいてください。

運気アップ:脳の中にゆるいTo Doリストを用意して未来の行動の可能性を広げる

(茂木 健一郎 : 脳科学者)