積極的な値下げ戦略でEVの販売台数を伸ばすテスラ。儲からないといわれるEVで既存の自動車メーカーの利益率を凌駕している(写真:テスラ)

「粗利益と収益性の変動は長期的に見れば小さいものだ」。営業利益率の低下について問われたイーロン・マスクCEOは、強気の姿勢を崩さなかった。

テスラが7月19日に開示した2023年第2四半期(4月〜6月)は、売上高が前年同期比47.2%増の249億2700万ドルと大幅に伸びた反面、営業利益は同2.6%減の23億9900万ドルと小幅減益となった。売上高営業利益率は9.6%と、前年同期比の14.6%から5ポイント低下。2023年第1四半期(1〜3月)の11.4%からも落ち込んだ。


利益率が悪化した最大の原因は車両価格の引き下げである。テスラは2023年の初頭から中国とアメリカで複数回の値下げを実施した。結果、第2四半期の販売台数(出荷台数)は46.6万台と前年同期比83%増となった。

一方で収益性が犠牲になった。第2四半期の自動車事業のグロスマージン(粗利益率)は19.2%で、前年同期の27.9%から8.7ポイント低下した。営業利益を販売台数で割った1台当たり営業利益は5146ドルと、1年前の9674ドルからほぼ半減となった。

低下してもなお高いテスラの利益率

もっとも、このことがテスラの苦境を表しているかというと、そんなことはない。

たとえば、大手自動車メーカーの営業利益率を見ると、トヨタ自動車が7.3%(2023年3月期)、フォルクスワーゲン(VW)は7.9%、ゼネラルモーターズ(GM)は6.6%(ともに2022年12月期)。いずれもテスラより劣っている。

一般にEV(電気自動車)は車載電池のコストが重いため、収益を確保することが難しいとされている。実際、フォードは2023年のEV事業の赤字が30億ドルに達する見通しと公言している。既存の大手自動車メーカーでEV事業が黒字化しているところはおそらくないはずだ。だが、EV専業であるテスラの営業利益率は低下してもなお高い。

テスラは他の自動車メーカーと違ってオンラインでの直接販売を基本とするためディーラーへの利ザヤが発生しない。また、テレビCMのような広告宣伝を行っておらず広告宣伝費もかからない。加えて、年間160万台超の販売台数をわずか4車種でたたき出す。フルセルフドライブ(FSD)という自動運転のソフトウェアを約1万ドルで販売していることなどがEVでも高い利益率を維持できる要因となっている。

テスラの超高速充電器が「業界標準」に

さらにテスラは次世代車両向けの新しいプラットホームや新たな車載リチウムイオン電池「4680」などの開発を進めており、経営効率の一段の引き上げに余念がない。ザカリー・カークホーンCFOは、「材料費、商品の製造コスト、物流など、ほぼすべてのカテゴリーで台当たりのコスト改善をはかり、オースティンの工場とベルリンの工場での生産率を急速に向上する」と自信を示す。

2023年上半期(1〜6月)のEV販売台数は88.9万台、年間200万台も見えてきたテスラが値下げで攻勢をかければ、ライバルは追随を余儀なくされている。より苦しいのがどちらかは言うまでもない。

しかも、北米ではテスラの超高速充電器「スーパーチャージャー」が事実上の業界標準になりつつある。これまでにフォード、GM、アメリカのEVベンチャーのリヴィアン オートモーティブなどが、欧州メーカーではボルボ、メルセデス・ベンツ、日本メーカーでは日産自動車が北米でのテスラの充電規格NACSの採用を決めている。

ただし、圧倒的な強さを見せるテスラだが、このまま独走できるかはわからない。猛追しているメーカーがあるからだ。

テスラを猛追するBYDの勢い

その筆頭といえるのが中国のBYDだ。バッテリーメーカーとして深圳で創業したのは1995年のこと。携帯電話向け電池事業で経営基盤を固めると、2003年には中国の国営自動車を買収し自動車事業を開始した。近年はEVとPHV(プラグインハイブリッド車)を強化しており、自社製の「ブレードバッテリー」というリチウムイオン電池を搭載したEVとPHVの販売が急伸している。今年1月には日本でもEVの販売を開始した。


1995年に創業した中国のBYDはテスラ追撃の一番手。今年1月には日本でもEVの販売を開始した(記者撮影)

BYDのEV販売台数は2022年が91.1万台、2023年第2四半期は前年同期比95.3%増の35.2万台と伸び率ではテスラを凌駕する。第2四半期にはPHVも34.8万台(同101%増)販売しており、中国のZEV(ゼロエミッションビークル=EVと、一定以上を電池のみで走行可能なPHV)市場でトップを走る。


2023年第1四半期(1〜3月)の売上高(電池事業なども含む)は1201億7360万元と前年同期比79.8%増と、同じ期間に24.4%増だったテスラを増収率で凌駕する。純利益は41.3億元(前年同期比約5倍)で、純利益率も3.4%。EVやPHVを大量に販売しながら、黒字を維持しているのはテスラと同じだ。BYDの時価総額は約14.8兆円。自動車業界ではテスラ(約119兆円)、トヨタ(約38兆円)に次ぐ3位。VW(約11兆円)を上回っている。

テスラ、BYDともにEV事業は損益分岐点を超えた世界で戦っている。まともにEVをラインナップできていない日本勢が巻き返すことはできるだろうか。


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(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)