【西田宗千佳連載】「大ヒットしなくても良い」? ソニーが「Project Q」を作る理由とは
Vol.128-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはASUSから発売された小型ゲーミングPC「ROG Ally」。ニッチながら市場を構築している中、もうひとつの市場である「リモートプレイ関連機器」にも目を向けていく。
ゲームをいろいろな場所で遊ぶには、「ゲームやPC自体をいろいろな場所に持ち運ぶ」以外にもやりようがある。そのひとつが、俗に「リモートプレイ」と呼ばれるやり方だ。PCやゲーム機本体でプレイした映像と音をネット経由で別の機器に送り、操作は逆に、遠隔地にある機器からゲームを実行している本体に送る。
PlayStationでは3以降「リモートプレイ」として実装され、現在のPlayStation 5でも使われている。Xboxでも同様に「Xbox リモートプレイ機能」があり、利用可能だ。PCの場合、Steamに「Steam Remote Play(Steam Link)」という同様の機能がある。
これらは、家庭内LANや外出先のネットワークを経由してゲームをプレイするものなので、動作に遅延などがあることが課題とされてきた。現在もその問題が100%解消されたわけではないものの、Wi-Fiの技術が進化したこと、光回線や5Gなどが普及したことなどから、以前に比べるとプレイの質が高くなっている。
なによりもメリットは、「本体ほど性能が高い機器を求めない」こと。スマホでもプレイできるが、それはスマホ側がゲームを動かしているのではなく、あくまで映像を表示しているからでもある。
結果として、小型ゲーミングPCのような高価な機器を買わなくても、手持ちのスマホやPCでゲームが遊べる場所が増えることになる。ただ、コントローラーを使ったプレイの快適さを求め、「リモートプレイ用のコントローラー」などの製品も登場している。ニッチだが、利用者が増えてくればそれも無視できない量、ということなのだ。
そういう意味で驚きのニュースもあった。ソニー・インタラクティブエンタテインメントが、年内にリモートプレイ専用端末「Project Q」を発売すると発表したことだ。
リモートプレイ端末は携帯ゲーム機そのものではない。その機器だけを買ってもゲームができるわけではないので、専用機器を作っても、ゲーム機ほどたくさん売れることはないだろう。そんなニッチな端末をわざわざ作って勝算はあるのだろうか……? と考えるゲーム業界関係者は少なくない。
筆者も「大ヒットはしない」と考える。だが、ソニーは「それでも良い」と思っているのではないか。前述のように、リモートプレイを使う人の数はじわじわ増えている。大画面で快適に遊べるものを作れば、「リモートプレイ専用コントローラー」よりは売れるかもしれない。そんなニッチな需要を埋めに行くだけでも、もはやビジネスとしてはバカにできない数量になりつつあるのかもしれない。
小型ゲーミングPCがニッチだと思われながらも市場を構築してきたように、リモートプレイ関連機器も、同じようにじわじわと市場価値を上げてきている、と考えると、いまのさまざまな現象の辻褄が合うのである。
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