今、世界的に大流行している「糖尿病の薬」として開発された薬を使った「GLP-1ダイエット」。日本では批判も多いが、薬によるダイエットは本当に“科学的見地からみて悪い方法”なのでしょうか(筆者撮影)

ダイエットの経験のある方は少なくないだろう。だが、成功する人はごく僅かだ。一時的に体重が減っても、たいていはリバウンドし(ストレスでヤケ食いする人は多い)、そこで諦めるか、次々にダイエットのハシゴをすることになる。ダイエットに王道はないのだろうか?

今、世界的に大流行しているのが、薬を使った「GLP-1ダイエット」だ。だが日本では、批判も多い。薬によるダイエットは本当に“科学的見地からみて悪い方法”なのか? 世界の流れを踏まえ、解説する。

「糖尿病の薬」として開発されたGLP-1作動薬

「GLP-1ダイエット」は、医師の処方するGLP-1作動薬によって食欲をコントロールする減量法だ。

GLP-1作動薬は、もともとは糖尿病の薬として開発された。使用するうちに強い体重減少効果がわかってきて、今では肥満治療薬としての有効性が認められ、世界で広く使われている。

この薬で治療している方によると、「我慢しなくても、食べすぎない」「お腹が満たされるまで食べているのに、1人前が食べられなくなった」「あまりお酒を飲みたいと思わなくなった」という。無理せずに食事量、つまり摂取エネルギー量が減り、自然と体重が減っていく。

もうすこし医学的な説明をしておこう。GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)はもともと食事を摂取したときに十二指腸や小腸から分泌されるホルモンの一種で、すい臓や脳にあるGLP-1受容体に結合して、血糖値を下げる働きがある。

ただ、GLP-1は体内で3分ほどで分解されてしまう。もっと持続するように、GLP-1のアミノ酸配列をちょっとだけ変更して作られたのが、GLP-1作動薬やGLP-1受容体刺激薬だ。

血糖値を下げるほかにも、血圧とコレステロールの両方を低下させる。また心血管の保護作用があり、心筋梗塞などの心血管病の全リスクを低下させることがわかっている。筋肉へのブドウ糖の取り込みを増やしたり、肝臓でのブドウ糖産生を減らす作用もあり、これが血糖値の低下に結びついている。さらには、神経を保護し、脳の視床下部という部位に直接作用して満腹感を増加させる。

私も実際、これまでさんざんダイエットに失敗してきた患者さんが、GLP-1作動薬を使って減量に成功したケースを数々見てきた。

ある患者さんは、「久住先生、『これくらいの量しか食べなければ、ちゃんと体重が減るんだ』ということがわかりました」と喜びを伝えてくれた。この言葉には、含蓄がある。「これまでもダイエットしているつもりだったけれど、食事の量を十分減らせていなかった」ということを、自身で認識されたのだ。つまり、体重をコントロールするのに大切な知識を身につけたといえる。

GLP-1作動薬が「悪者扱い」されがちなワケ

というわけで、「GLP-1作動薬によるダイエットは、体にいい」というのが科学的見解であり、医師としての実感だ。

ではなぜ、批判が高まるのだろう?

もちろん副作用もなくはない。例えば、胃腸の動きがゆっくりになるので、胆石や、胃酸の逆流(逆流性食道炎)、便秘などが知られている。また使い始めの1週間ほどはムカムカ吐き気がしたり、だるさを感じることがある。

だから慎重に使うべきは当然だ。とはいえこうした副作用は、医師としっかり相談して対処すれば、多くの場合しだいに問題なくなる。また、週1回注射をしたり、起床時すぐに飲んで30分禁飲食の必要があるなど、投薬方法が面倒だが、それも批判につながるとは思えない。

問題はそれ以外に、2つほど考えられる。

まず、GLP-1作動薬が高価な薬であることだ。ペプチドという物質でできており、製造が難しく高コストになるので、価格に反映せざるをえない。

低所得国では肥満は社会問題なのだが、日本でも、肥満は低所得者に多いことが厚労省調査でわかっている。「お金持ちだけがラクしてやせられる薬」というイメージが、批判を生んでいるのかもしれない。

ただし価格の問題については、ペプチドではなく化合物で同様の効果が得られる薬が開発されつつある。化合物なら大量生産できるのでコストは低下し、保管や流通も容易になる。この新薬の効果や安全性が確認されれば、現在のGLP-1作動薬と置き換わっていくだろう。

もう1つの問題が、添付文書に記載されている「適応」だ。

実は、もともと減量効果が注目されたGLP-1作動薬「オゼンピック」(週1回の皮下注射)や「リベルサス」(1日1回の錠剤)は、2型糖尿病薬としてしか国内承認されていない。そこから、「やせる必要のない人が美容を目的としたダイエットに使っている」という批判が生まれてしまった。

しかも日本医師会も、糖尿病治療以外の適応外使用は厳に慎むべき、そんな薬を処方する行為は「医の倫理に反する」との見解を発表している。

ところが、「オゼンピック」「リベルサス」と同じ成分の「ウゴービ」という薬が、肥満治療薬として今年3月に薬事承認されている。要するに、医師が責任を持って用法や用量を管理・指導し、正しく使えば、ラベルはなんであれオゼンピックもリベルサスも、有効な減量薬そのものに違いないのだ。

厚労省他の声明は、ともすると「違法な薬を投与して患者を害しかねない」といった誤った印象を人々に与えるものだ。だが実際、同一成分を「減量薬」として承認したのは、ほかならない厚労省である。いったいあの声明は誰のためのものなのだろう?

肥満を治療すれば「生活習慣病」も治る!

さて、私が医師として、GLP-1作動薬を使ってまで患者さんの減量を推すのは、当然、高価な薬を売りつけたいからでも何でもない(ヤブヘビか? 苦笑)。

肥満は立派な病気であり、なおかつ万病の元だからだ。

一般に肥満とは、BMI(体格指数)が、25以上の場合を言う。25を超えると脂質異常症や糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクが2倍以上になり、30を超えると高度な肥満としてより積極的な減量治療を要するとされている。身長が160センチの人だったら、64キロ以上が肥満だが、積極的な減量が必要とされるのは76.8キロ以上となる。

といっても実際には、筋肉量が多く内臓脂肪が少ない人は、体重が重くても病的ではない。一方で、体重は軽いけれど筋肉が全然なく、お腹がぽっこり出ている人は、肥満ではないが病的だ。

このように、体重で十把一絡げに区切ることはナンセンス、というのが今や常識だ。近年は、BMIが25以上で、なおかつ脂肪肝や高血圧、高血糖値、悪玉コレステロール値が高いなど、いくつかの健康障害を伴う場合に「肥満症」と診断し、治療対象とするようになってきている。


肥満症自体は、エネルギーの過剰摂取によって体に脂肪が蓄積したものなので、脂肪を減らすことが根本的な治療だ。

他方、上記リストの大半を占める生活習慣病の治療は、これまでは高血圧に対して降圧薬、脂質異常にはコレステロールを下げる薬、糖尿病には血糖を下げる薬と、疾病ごとに治療がなされてきた。結果として、何種類もの薬を飲むことが必要とされ、「ポリファーマシー」が問題にもなっている。

だがこれまでの経験上、肥満そのものを解消することで、それらの生活習慣病まで根本的に改善されることが非常に多い。現に、私が治療してきた患者さんたちで、体重減少に成功した結果、脂肪肝や高コレステロールの治療薬、ほかの糖尿病の薬までも要らなくなった方が大勢いる。

つまりGLP-1作動薬を医師が吟味して適切に用いることで、肥満と同時に生活習慣病の根本的な治癒が望める、ということだ。

自力で減量できる人は極めて少ない

もう1つ、私がGLP-1作動薬の導入に積極的な理由がある。こうして医師として多くの患者さんにダイエット(減量)を勧めてきたものの、成功例は極端に少なかったからだ。

生活習慣病健診で引っかかった人には、特定保健指導がなされる。だが、厚労省の公表データを見ると、指導を受けても平均たった1キロ程度しか体重は減少しない。結局、健診では毎年のように異常を指摘されるが、「どうせ去年と同じでやせろという話になるだけだから、もう受診しない」ということになる。

ナビタスクリニック川崎でも、特定保健指導の範囲内で管理栄養士による栄養指導を行っているが、効果は芳しくない。診察で私が「体重はどうですか?」と問うと、ほとんどの患者さんが「先生すいません、減っていません」と謝られる。

私は責めているつもりはないのだが、医師の指導を守れない自分を、患者さんはどうしても責めてしまうようだ。毎回ギルティーマインドを抱いて受診するのは、さぞ苦痛なのであろう。通院が途切れる人も少なくない。

そもそもダイエットの「指導」といっても方法が決まっているわけではない。そこでさまざまなダイエット方法が試される。昔ながらの置き換えダイエットはもちろん、近頃だと低糖質ダイエット、間欠的絶食法あたりが話題を集めてきた。

「低糖質ダイエット」はローカーボダイエットとも呼ばれ、米やパン、イモ類など炭水化物は極力摂らないようにしよう、というダイエット方法だ。ほかの食品、つまり野菜や肉などのタンパク質類は好きなだけ食べていい、とされている。今でも指導に取り入れているトレーナーやジムも珍しくない。

ただ、低糖質ダイエットは、動脈硬化、つまり血管の老化を促進することがわかっている。また、ボディービルダーの間でさえ、過度な糖質制限が逆効果であることは常識になりつつある。筋肉まで減らしてしまうのだ。足りない糖質を補おうと、筋肉中に貯蔵されていた糖質が消費され、さらには筋肉や脂肪を分解して糖を生成しようとするからだ。

やせて見栄えはよくなるし、食事制限の苦痛も少ないが、明らかに健康には結びついていない。医師としては推奨できない誤ったダイエット法と言える。

「間欠的絶食法」は、1日のうち8時間だけ食事を摂っていい(次の16時間は何も食べない)というシンプルなものだ。結局のところエネルギー摂取量が減ることがダイエット効果をもたらす。だが、慣れるまでにはそうとうの時間と覚悟が必要だ。空腹が続いて仕事に集中できなかったり、飲み会などが断れなかったり、現代人の生活では中断理由や誘惑が多すぎて、8時間ルールを守るのは至難の業だ。

要するに間欠的絶食法は、今ある生活スタイルの中で誰もが取り組めるものとは言いがたい。

GLP-1作動薬が患者さんにもたらした「気づき」

その点、「GLP-1ダイエット」は、医師の指導に基づいて正しく行えば、食事を我慢するストレスがなく、心血管や血糖値、脂質などすべての面において健康に結びつく。最も効果的かつ健康的なダイエット方法の1つと言っていいだろう。

何より、GLP-1作動薬が多くの患者さんに「気づき」をもたらしたことは、衝撃的だった。これまで私が医師としてお説教してみたり、優しく促したりしても、患者さんの行動変容にはほとんどつながらなかった。無力感と自省にさいなまれたが、GLP-1作動薬はいとも簡単にそれをやってのけたのだ。

薬をきっかけに患者さんの健康意識を高められる可能性がある──。今後の医療や医師の役割・あり方を考えるうえでも、おおいに示唆に富んでいる。

(久住 英二 : ナビタスクリニック川崎院長、内科医師)