今後高い伸び率で普及が進んでいくことが予想される電気自動車(EV)。EVに欠かせないEV充電設備をマンションに導入するとなると、戸建て住宅のように簡単にはいかない事情を紹介します(写真:yu_photo/PIXTA)

最近、国産から輸入車までさまざまな電気自動車(EV)を見かけることが増えた。カーボンニュートラルの実現に向け、世界各国が積極的な普及を進めている今、国産メーカーも軽EV、SUVタイプを発売、ラインアップも充実しつつある。

日本自動車販売協会連合会の統計資料「燃料別販売台数(乗用車)」によると、2020年のEVと外部から充電が可能なPHV(プラグインハイブリッド)の燃料別販売台数は2万9345台となっている。そして翌2021年の同統計では4万3916台に増え、約1.5倍のアップとなった。さらに2022年には6万9364台と1.5倍強の伸びとなり、普及が進む様子が見て取れる。

販売台数全体に占める割合は2022年時点で約3.1%に過ぎないが、今後も高い伸び率で普及が進んでいくことが予想される。


(出所)一般社団法人日本自動車販売協会連合会「燃料別販売台数(乗用車)」に筆者が色づけ

ガソリン車と比べ、走行音や振動が少なく、環境に優しいなどメリットの多いEV。ただし無給油・無給電で走れる航続距離が短く、長距離移動には充電スポットでの充電が不可欠となる。

ただし高速道路SAなど街中のEV充電スポットは台数も限られており、行楽シーズンともなれば充電渋滞も発生するだろう。また自宅に充電設備がなければ、近隣の充電スタンドに充電に行かなければならない。「充電」の課題から、EV導入を踏みとどまる声が多く聞かれる。

新築当初から充電施設のあるマンションも増加

マンションの駐車場においても、EV車を目にする機会が多くなったように思う。最近の分譲マンションでは、新築当初から駐車場に充電施設が設置されるケースも出てきている。マンション居住者でもEVに乗りたいと考える人が増えてきている証しだろう。

また、当社とお付き合いのあるマンション管理組合の方々から、充電設備の設置計画について聞く機会も増えている。マンションの敷地内に充電設備が設置されれば、EV普及の弾みともなるはずだ。

しかしながら、実際にマンションにEV充電設備を導入するとなると、戸建て住宅のように簡単にはいかない。EVの導入やメンテナンスコストを含め、さまざまな部分で合意形成を図る必要があるためだ。まずはマンション居住者のうち、どのくらいの人が充電設備設置を希望しているのかを割り出すところからのスタートとなる。

そして手続き上の問題をクリアし、実際にEV充電設備を設置できることになりようやく自宅であるマンションの駐車場でEVに充電できることとなった。

ところが、これまで利用してきた駐車場に新たな愛車であるEVが駐車できない……このような思いもよらない落とし穴が生じるケースがある。いったいどういうことなのか。

EVが重すぎて自宅マンションに駐車できない?

大型バッテリーを搭載するEVは、ガソリン車などに比べ車体重量がかさむ。重いのだ。マンションに設置されている機械式駐車場や自走式駐車場には重量制限が設けられている。自走式の駐車場の場合、車両総重量2000kgまたは2500kgと規定されている。

パレットに車を載せ上下させ、複数の階層にわけて立体的に駐車する機械式駐車場では、メーカーにより制限方法が異なる。まずは自宅マンションの駐車場メーカーに確認が必要だが、車両重量または車両総重量によって制限されることが多い。

ちなみに車両重量とは、車本体の重さに加え、満タン時の燃料と規定量のオイル、冷却水、バッテリーなどを加えた車重となる。車両総重量は、車両総重量乗車定員分の人の重さがプラスされた重さを指す。乗用車では、車両重量+乗員1名55kg×乗車定員数で計算される。

重いと言われるEVでは、車両の総重量2tを超えるものも少なくない。せっかく時間をかけて居住者の合意形成を得たものの、駐車場の規格に合わないという本末転倒な結果となってしまう。

また機械式駐車場では、横行昇降式や垂直昇降ピット式、タワー式、循環式などではEV充電器をそれぞれのパレットに設置可能となっているものもあるが、例えばピット式では地下パレットには水没など安全性への対策が不可欠だ。このような観点からも、駐車装置の製造メーカーやメンテナンス会社に確認を取ることが先決となる。

もう1つ、駐車場のうちのどれぐらいの区画を充電設備対応にするかについても慎重に判断することをおすすめしたい。充電設備の設置台数、設置比率については、駐車場の形式などマンション固有の事情が大きく関わってくる。加えて、今後EVを検討する居住者の有無などのアンケートも設置台数を決める際の参考にすべきだろう。

一方、マンションの立体駐車場へのEV充電設備設置については、国や自治体からの補助金の活用も期待できる。国は2035年までに新車販売をすべて電動車<電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)>にすると宣言しており、普及に向け充電インフラ導入補助金の支給を行っている。地方自治体も同様に、充電設備設置への補助金などさまざまな支援制度を整備している。

中でも東京都は、2025年4月より、駐車台数の2割以上の充電設備の設置を義務化するなど踏み込んだ施策が話題となったばかりだ。既存マンションで充電設備設置をお考えなら、補助金の利用は大きな好機と言っていい。

機械式駐車場は今後、計画的な対応が求められる

とはいえ先ほどお伝えしたとおり、EV、PHVの乗用車販売台数全体に占める割合は2022年の段階で約3.1%にとどまっている。まだまだ普及途上にある中、「充電設備のあるマンション」にそれほど大きな付加価値が及ぶとは考えにくい。

しかし将来的に高い伸び率が今後も継続する可能性は高く、EVやPHVの普及が進んでいくと共に、そのマンションの資産価値に与える影響は大きくなっていくはずだ。

マンションの駐車場といえば昨今、機械式駐車場のあり方が大きな問題となってきている。過剰に建築された過去と今では、車に対するニーズに大きな差異があるためだ。車の大きさ、高さが制限されるため、駐車できる車が限られること、そもそも車を所持しない世帯も増加している。駐車場の空きが増えているのも、当然のことかもしれない。

そのうえ、維持管理に伴う赤字、老朽化に伴う更新費用不足などが多くのマンションで発生し、今や社会問題といってもいいほどだ。つい先日も総戸数500戸規模のマンションで機械式駐車場の10年間の修繕費試算が5億円を超えてしまうとの相談を受けたばかりだ。

このような現状を鑑みても、マンションの駐車場は今後も減少、縮小の方向へと向かっていることは間違いない。何かと疎まれる機械式駐車場ではあるが、都心部においてはまだまだ駐車場の価値は高いと考える声も聞かれる。

例えば駐車場が複数台利用可能な分譲マンションは売り主にとって好条件で売買契約が成立したという事例もある。そもそもマンションの駐車場は、マンションの規模(延べ床面積)に見合った台数を設置することが附置義務として条例などで定められてきた。

しかし、駐車場の利用率が低下する中、附置率の緩和を進める自治体も出てきた。充電設備の設置を含め、マンションと駐車場のあり方について、あらためて考える時期が来ている。自分たちのマンションの立地や周辺事情、居住者の意見やニーズなども取り入れ、修繕計画について早めの準備が必要になるだろう。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))