知らない間に、家族にうつしていませんか? そう、水虫の話です(写真:Graphs/PIXTA)

明確な基準はないだろうが、「国民病」と呼ばれる病気がいくつか思い浮かぶ。例えば、岸田文雄首相が国として対策を打ち出した花粉症、推計患者数が4300万人の高血圧などだ。

水虫(足白癬=あしはくせん)も、身近で誰もがかかり得るという意味で国民病といっていいだろう。一方、この病気に詳しい埼玉医科大学総合医療センター皮膚科教授の福田知雄医師に話を聞くと、意外な側面が見えてきた。

水虫は、カビの仲間の白癬(はくせん)菌が足の皮膚に感染して発症する。中年男性の病気、ジクジクしてかゆい、薬局で薬を買って塗ればすぐ治る――。そんなイメージがあるかもしれないが、当たっている部分もあれば、そうでない部分もある。

これまで行われた複数の調査によると、わが国で水虫にかかっていると推定されるのは、5人に1人。3人に1人がかかっているという高血圧ほどではないにしても、比較的頻度は高い。

男女比6:4で女性にも多い

有病率は年齢とともに上昇し、50〜60代がピーク。「靴を履いている時間の長い人ほど水虫になりやすく、社会人になり年数を積むに従い、感染者数も積み上げられてきたのではないかと考えられます」(福田医師)。

男女比(爪水虫を含む)は、おおむね半々、あるいは6対4。女性も男性に近い程度に罹患していることになる。女性の割合が意外と高い理由は後で述べる。

一口に水虫と言っても3つのタイプがある。趾間(しかん)型、小水疱型、角質増殖型(角化型とも呼ばれる)だ。タイプによって見た目や症状が異なり、次のような特徴がある(写真はいずれも福田医師提供)。


■趾間型

趾は足の指のこと。足の指の間が赤くなる。ふやけて、ジクジクする。かゆみが強いことも


■小水疱型

土踏まず、または足裏全体に小さな水ぶくれが多発する。かゆみを伴う


■角質増殖型(角化型)

足裏からかかとにかけて、皮膚が厚く、乾燥する。かゆみはほとんどない

このように、「水虫」の名のごとく、湿ってジクジクした病変もある一方で、角質増殖型は真逆ともいえる状態だ。

多くは趾間型か小水疱型から始まり、適切な治療を受けなかったことで時間が経つにつれ皮膚が厚くなり、角質増殖型に進むパターン。症状はかゆみが多いと思われるが、「かゆみを訴える患者さんは半分もいない。特に角質増殖型ではかゆみはほとんどありません」と福田医師は言う。

タイムリミットは24時間

水虫は、家庭では共有のバスマットやスリッパなどを介して患者から家族に広がる。温泉やサウナ、スポーツジムといった施設では、素足で歩く場所にある床やバスマットなどで、ほかの利用者から感染する。

特に、水虫患者の足の皮膚からポロポロと落ちた鱗屑(りんせつ)には注意が必要だ。そこには無数の水虫菌が潜んでいるため、水虫菌をまき散らして、家族や他人に感染させるリスクがある。

もちろん、菌が付着したら即、感染ではない。

「一般的には、水虫菌が皮膚に24時間以上付着していると、感染が成立する可能性が高まります。皮膚に傷がある場合は、皮膚内に侵入するまで12時間程度です」と福田医師は話す。その間に対処すれば感染は防げる、というわけだ(対処法について記事の後半で紹介)。


福田医師への取材を基に東洋経済作成

水虫かも……と思ったら、「まずは皮膚科へ」と福田医師。見た目や症状が水虫と似て異なる皮膚病は数多く、水虫と確定診断するには、顕微鏡による検査が欠かせないからだ。「検査を省略して治療を始めると、適切でない治療が行われ、症状を悪化させてしまう恐れがあります」。

受診先は、病院の皮膚科でもよいし、皮膚科医院・クリニックでもいい。クリニック(医院)では診療科目に“皮膚科のみ”を掲げていることが目安となる。日本皮膚科学会認定の皮膚科専門医は、同学会ウェブサイトから検索できる(ウェブサイトはこちら)。

水虫と確定すれば、治療は塗り薬が基本。系統の異なるいくつかの薬剤が承認されている(表)。「足の水虫だけなら塗り薬で治ります。薬剤による効果の差はないと考えられています」(福田医師)。


治療がうまくいくかどうかを分けるのは、「薬を塗る範囲」と「薬を塗り続ける期間」だという。

範囲については、病変部だけではなく、正常に見えるところにも塗る。「水虫菌がその部位以外に広がっているからです」と福田医師は説明する。指や指の間、足裏、足の縁、かかと、アキレス腱まで、広範囲に塗ることがしっかり治すコツだ。


福田医師への取材を元に東洋経済作成(イラスト:ろじ/PIXTA)

治ったように見えて治っていない

期間については、福田医師によると、通常、塗り薬を始めると2週間程度で症状は改善するが、よくなってもしばらくは治療を継続することが重要だという。

「理由は、水虫菌がすみ着いていた皮膚が、新しい健康な皮膚に入れ替わるまで約1カ月かかること。症状がない別の部位に水虫菌が潜んでいる可能性があることです」

薬を続ける期間は、水虫のタイプによって異なる。趾間型で1〜2カ月、小水疱型では3カ月が目安。角質増殖型では6カ月以上続ける必要がある。水虫のタイプによっては、秋から冬に症状が自然と治まるケースもあるが、根気よく治療を続けたい。

症状や見た目がよくなったにもかかわらず、治療を続けるのはハードルが高そうだ。だが、福田医師は「だまされてはいけません。水虫菌は頑固です。治ったと思っても、元気な菌が足の皮膚のどこかに潜んでいて、再発の原因となります。それを防ぐためにも、残った菌を最後まで叩くことが必要です」という。

水虫の塗り薬は、一般用医薬品として薬局やドラッグストアで購入できる。医療用と同じ成分の製品もあるので有効に利用したいが、水虫とは別の病気の可能性も念頭に置いておきたい。「2週間程度使用しても症状がよくならないときや、逆に赤みやかゆみが強くなったときは、皮膚科を受診しましょう」と福田医師はアドバイスする。

最後に、水虫にかからないため、あるいは他の人にうつさないための日常生活の注意をまとめておこう。ポイントは、“水虫菌の感染が成立するまでに半日〜1日かかる”という点だ。

「感染が成立しかけていても、よく洗えば菌は落ちます。石けんなどをよく泡立て、皮膚の表面をていねいに洗います。指の間もしっかりと。洗った後は、特に指の間に拭き残しがないように、水気をタオルでしっかり拭き取ります」(福田医師)

温泉、サウナ、スポーツジムを利用した後は、水虫菌が付着しているものと考え、帰宅したら足をていねいに洗う習慣をつけておきたい。

感染リスクを高める皮膚の傷については、深爪などに気を付ける。足のひび割れも厳密には傷ではないが感染のリスクを高めてしまう。予防するために保湿ケアも大切だ。

靴やブーツを水虫から守る方法

また、感染に影響する温度と湿度にも注意を。特に湿度が重要で、靴は見過ごせない問題だ。

「日本人が靴を履くようになって以降、水虫は増えたといわれます。女性の水虫患者が増えたのも、社会進出によって革の靴を履いている時間が増えたことが要因の1つ。水虫菌にとっては『感染機会が男女均等になった』と考えられます」(福田医師)

そのほか、日常的な注意点、洗濯の仕方などについては以下の通りだ。



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「靴の対策は、まず靴の中に鱗屑を残さないこと。1日履いたら、陰干しして、水分を飛ばします。靴の中側が乾燥するまでに2日間かかるので、少なくとも3足をローテーションするとよいでしょう」(福田医師)

特にブーツは内部の湿度が高く、「水虫菌に最高の環境」。その構造からしても、乾燥させるのに時間がかかる。だからこそ、使う機会がない今のタイミングで、しっかりと乾燥させておきたい。

(取材・文/佐賀 健)


埼玉医科大学総合医療センター皮膚科教授
福田知雄医師

1987年、慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部皮膚科入局。国立東京第二病院皮膚科、杏林大学医学部皮膚科講師、東京医療センター皮膚科医長を経て2016年より現職。専門は皮膚真菌症、皮膚腫瘍。

(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)