今のサウナは「熱さ」ばかりを追い求めている施設も多い(写真:maroke/PIXTA)

テクノロジー、政治、経済、社会、ライフスタイルなど幅広い分野の情報を発信し、日本のインターネット論壇で注目を集める佐々木俊尚氏。

「ノマドワーキング」「キュレーション」などの言葉を広めたことでも知られ、2006年には国内の著名なブロガーを選出する「アルファブロガー・アワード」も受賞し、著書『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』は4万部を超えるベストセラーになっている。

その佐々木氏は、じつは毎日のようにサウナに通う「コアなサウナファン」としても知られている。

「読む力のプロ」である佐々木氏は、いま話題のベストセラー『「最新医学のエビデンス」と「最高の入浴法」がいっきにわかる! 究極の「サウナフルネス」世界最高の教科書』をどう読み解いたのか。

気鋭のジャーナリストでありコアなサウナファンである佐々木氏が「『日本のサウナ』のあり方、問題点」を解説する。

2010年代後半から始まった「第3次サウナブーム」

いまの「サウナブーム」は「第3次サウナブーム」と言われている。

日本で最初にサウナが盛り上がったのは、1960年代。1990年代には「スーパー銭湯」と呼ばれる大型の温浴施設があちこちにできて、「第2次サウナブーム」とされた。


そして2010年代後半になって、なぜか起業家の界隈から突如としてサウナが盛り上がるようになる。2019年に放送されたテレビドラマ「サ道」で一般社会にも火がついて、都心を中心に新しいサウナが続々とオープンしている。

空前のサウナブームは喜ばしいことなのだが、ひとつ物足りなさを感じている点があった。

ひとことで言ってしまうと、それは「達成快感としてのサウナだけでなく、状態快感のサウナも楽しみたい」ということである。

『「最新医学のエビデンス」と「最高の入浴法」がいっきにわかる! 究極の「サウナフルネス」世界最高の教科書』は、その点をズバリと指摘していて、まさに「我が意を得たり」である。

本書には、こう書いてある。

「熱すぎるサウナは、ロウリュの刺激が強くなりすぎたり、空気が乾燥したりしてしまい、長い時間リラックスして楽しめなくなってしまいます。体感温度をしっかり高めたいなら、部屋を熱くするのでなく石をしっかりと熱して、ロウリュをより頻繁に楽しめばいいのです」

「ロウリュ」というのは、「熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させ、熱い蒸気を楽しむ」というものだ。


いまのサウナブームがいままでと異なるのは、「ロウリュ」が主体になっていること。「ロウリュ」というのは、「熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させ、熱い蒸気を楽しむ」というもの(写真提供:こばやし あやなさん)

いまの日本は「熱さ」を追い求めすぎている施設が多い

第3次が以前のサウナブームと異なるのは、「ロウリュ」が主体になっていることだ。ロウリュの蒸気が身体に降りてくる感覚はとても新鮮で気持ち良く、従来の乾燥したサウナとはまったく違う楽しさがある。

しかし、新しいロウリュサウナを各地に訪ねてみると、ひとつ気になることがある。それは、あまりにも「熱さ」を追い求めすぎている施設が多いということである。

サ室(サウナ室)の温度がすでに十分に熱すぎるほど熱く、90度前後もあるところが多い。この熱さでロウリュすると、熱波に襲われて耐えられないほどになる。

最近はこれに加えて「爆風ロウリュ」と呼ばれる、排気ダクトのようなものをストーブの上に設置して蒸気を爆風のように吹き付けるサウナも現れてきている。

最初に話題になったのは千葉県流山市の「南柏天然温泉すみれ」で、これを同じ流山市の「スパメッツァおおたか 竜泉寺の湯」のドラゴンサウナが追随して話題になった。

ドラゴンサウナは一定の時間が来ると突然「燃えよドラゴン」のテーマなどの威勢のいいBGMが流れ、赤い回転灯が派手に点き、5基のサウナストーブの上にずらりと並んだ送風口から、凶悪な熱風が押し寄せてくる。

これはこれで「熱さへのチャレンジ」としてはおもしろい。必死で耐えて「よし! 今日は最後まで耐え抜いた」と、走って水風呂に飛び込みに行くのも楽しい。

猛烈に熱いのを我慢してきたので、その後の水風呂や外気浴は当然気持ちよいのだが、しかし爆風ロウリュのおもしろさの主軸は、テレビで昔やっていた「熱闘風呂」みたいなもので、我慢して耐え抜くエンターテインメントではないか。

フィンランド式は「長時間室内にいても楽しめる場所」

もともと第1次〜2次サウナブームにはロウリュ設備はほとんど存在せず、ひたすら温度を上げて熱さを我慢するタイプの施設が多かった。

サウナ用語で言う「昭和ストロングスタイル」である。昭和ストロングなサウナは、とにかくひたすら「我慢」の世界である。

日本の伝統的なサウナにはテレビが設置してあるのが一般的で、なぜサウナでわざわざテレビを観るのかといえば、気をまぎらわせて熱さを耐えるためである。「12分計」などの時計があるのも同じで、時間の経過をひたすら我慢するためだ。

こういう文化が、現代のサウナにもかなり引き継がれていて、せっかくロウリュの設備があるのにサ室が熱すぎるところが多い

これは、テントサウナや小屋サウナ、バレルサウナなどのアウトドア系にも共通していて、狭いサ室にストーブをガンガン焚いて非常に熱い施設が多い。熱すぎて、せっかく水桶があってもロウリュする気が起きなかったりする

そう考えているときに、書籍『究極の「サウナフルネス」』が刊行された。本書によると、「フィンランドのサ室の温度は平均60〜80度」だという。かなり低い。

「サウナ室が熱すぎると、サウナのいちばんの醍醐味であるロウリュの対流熱を楽しむ余裕がなくなる」という。

つまり、「サ室」を「我慢の場」としてではなく、「長時間室内にいても楽しめる場所」として捉えているのだ。

そのため、フィンランド人はサ室での呼吸のしやすさもとても重視しており、たとえば入り口のドアは必ず下が数センチ空いており、つねに外の新鮮な空気を取り込めるようになっているという。


フィンランドのサ室の温度は平均60〜80度とかなり低い。サ室は「我慢の場」ではなく「長時間室内にいても楽しめる場所」として捉えている(写真提供:こばやし あやなさん)

わたしは、非常に熱い日本のサウナ体験を否定しているわけではない。それはそれで素晴らしい。でも、高温に偏ったサウナが多すぎるようにも思う。

もう少し低めの80度ぐらいの温度設定で、ロウリュを堪能できる施設もたくさんあればいいのにと個人的には考えている。

冒頭に書いたように、熱さを乗り越えて我慢する「達成快感」だけでなく、サ室で気持ちよく蒸気を浴び続けるという「状態快感」も楽しみたいのだ。

「状態快感」のサウナが、日本にももっと増えてほしい

日本国内でも新しめで評価の高いサウナは、そういう方向性に進んでいるところも増えていると感じる。

超有名なところでいえば、長野の野尻湖畔にある「The Sauna」はまさにそうだ。サ室の温度は80度ぐらいで、湿度がたっぷり。薄暗くて静かでじっくりと「状態快感」を楽しめ、外に出れば川から引いた最高の冷水風呂が待っている。


長野の浅間山の麓に、「菱野温泉 薬師館」という温泉旅館がある。風呂に行くのに登山電車に乗るという趣向で、「トロッコ温泉」という異名もある。

このトロッコ温泉に今年初め、「TOJIBA」という小屋サウナができた。

ここは湿度のバランスに力を傾けていて、サ室に入るとまるで全身がしめり気をまとっているように感じる。

それほどまでに湿度が高い。とても優しい。いつまでも入っていられるように感じられる。

2時間コースの最後には、大きなジョウロにたっぷりの水をロウリュしてくれるサービスがあり、これもいい。

出れば冬には温度9度ぐらいにまで下がる大きな水風呂があり、その向こうには浅間山がそびえている。最高だ。

こういう「状態快感」のサウナが、日本にももっと増えてほしいと思う。

(佐々木 俊尚 : 作家・ジャーナリスト)