7月15日に営業運転を開始したスペーシアX(写真:石(@ishi_ae86)/PIXTA)

浅草と日光・鬼怒川を結ぶ東武鉄道の新しい顔、新型特急「スペーシアX」が誕生した。筆者は1年前の発表会の席で報道陣に配布されたスペーシアXのファクトブック(プレスリリースへの理解を深めるための資料)の制作に携わっており、今回の誕生はひときわ感慨深い。

2種類の個室、4種類の座席、カフェなどの車内設備については、本サイトや他メディアでも紹介されているので、詳しい方も多いだろう。だが、このような特急電車が誕生するまでの「道のり」に関してはあまり触れられることはない。そこで今回はスペーシアX誕生のプロジェクトに営業部という立場から関わった東武鉄道の岩出透さんにあれこれと聞いてみた。

JRや近鉄に話を聞いた

ーー2017年に「リバティ」の運行が開始されましたが、カフェのある特急、移動を楽しむ電車という意味では、1990年にデビューした「スペーシア」以来の新型車両といえます。スペーシア開発当時のスタッフがほぼいない中での開発は大変だったのでは?

「33年前のスタッフはほぼおりませんでしたので、カフェのある車両、車内販売を行う列車を運行するJRさんや近鉄さんなどに、たくさんお話をうかがいました」


東武鉄道の岩出透さん。インタビューはスペーシアXのボックスシートで行った(筆者撮影)

ーー同業他社の方に聞くというのは、ご法度なイメージがあるのですが。

「確かに業界によっては、ライバル企業の情報を収集するのはNGという風潮もあるかも知れません。ですが、鉄道業界は『みんなでいいものを作っていこう』という考えがあって、新型車両の試乗会に同業他社の方を招待したり、情報を交換したりするのが一般的なんです」

ーー製造途中のスペーシアXを見学したとき、以前の工場内の見学では製造中の他社の車両は絶対撮影しないよう厳しく注意されたことがあったので、もっとピリピリした感じがあると思いましたが、そんなことはないのですね。

「車両メーカーさんの事情もあると思います」

ーー確かに、海外の車両も造りますから、メーカーもいろいろ気を使うことがありそうですね。でも、鉄道会社レベルでは情報が結構オープンに。

「乗っただけではわからないところ、カフェのスタッフのオペレーションや、揺れる電車の中でどう商品を提供するかといった内側の話もいろいろうかがいました」

ーー特に参考になった車両や会社は?

「近鉄さんには特にお世話になりました。近鉄さんは、ウチと同じ2時間程度走る特急が多くて『しまかぜ』はカフェ付きの観光特急として、『ひのとり』もプレミアムシートの参考になりました」

清掃はどうする?

ーーほかにはどんな車両を?

「JR九州さんの『ふたつ星4047』も乗車させていただきました。私は日程が合わずに試乗できず、くやしい思いをしたのですが(笑)」

ーーさまざまな鉄道会社の観光特急のノウハウが込められた特急車両なのですね。

「そうですね。いろんな会社の方の協力があってできあがった車両です。だから私たちも試乗会に同業他社の方をたくさんお呼びしていますし、他社さんで観光特急を造ることがあったら、今回私たちが得たノウハウをお伝えしようと思います」


スペーシアXの清掃員を募集するポスター(筆者撮影)

ーー先日、新栃木の駅でスペーシアXの清掃員を募集するポスターを見たのですが、清掃員は専属なのですか?

「乗務員は専属となりますが、清掃員はスペーシアやリバティなどの特急車両のほか、駅構内も清掃します」

ーー発表されている時刻表を見たらスペーシアX4号の浅草到着時刻が13時45分。折り返しのスペーシアX7号の浅草出発時刻は14時ちょうど。15分しか時間がありませんが、大丈夫ですか?

「カフェカウンターのあるコックピットラウンジ、最大7人で利用できる個室のコックピットスイート、4人個室のコンパートメントなど、多彩なシートバリエーションがありますが、春頃からデビューへ向けて清掃スタッフは限られた時間内で車内整備を終えることを目指し、実車での訓練を重ね、動きを体に覚えさせてきました。今後もより短時間でお客さまをお迎えできるよう継続してブラッシュアップしていきます」

ーー浅草駅は、以前快速電車の乗降ホームだった5番線をスペーシアX専用のホームにするそうですね。

「はい。スペーシアXに乗車される方だけが利用できる特別なホームとなっています」


ホームとドアの隙間を埋める渡り板(筆者撮影)

ーー浅草駅は、駅の先端部、日光寄りのところがカーブになっていて、ホームとドアの間に隙間ができるので、1号車や2号車から特急電車乗車の際は渡り板をかけるのがおなじみの光景です。鉄道ファンには「この光景が東武浅草名物」と思う人が多数いますが、スペーシアXも渡り板を使う予定ですか。

「ホームと電車の間が空いてしまう箇所は、ほかの特急同様、渡り板を使います」

休日は1日4往復運行

最先端の観光特急スペーシアXは、7月15日より、月〜水曜日は1日2往復(浅草―東武日光1往復、浅草―鬼怒川温泉1往復)、木〜日曜日と休日は1日4往復(浅草―東武日光3往復、浅草―鬼怒川温泉1往復)運行する。


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新型観光特急を使って日光や鬼怒川温泉といった観光地だけでなく、その道のりもぜひ楽しんでいただきたい。

(渡辺 雅史 : 時刻表探検家)