どんなことを伝えれば、Z世代の彼らがシェアしてくれるのでしょうか(写真:takeuchi masato/PIXTA)

マーケティングの最⼤の⽬的は、商品やサービスを広く知ってもらうことです。今、そのカギになるのが、「Z世代」。注目すべきいちばんの理由は、その拡散⼒です。

Z世代は⽇常的にSNSを使うことが当たり前の環境で育っています。彼らが商品やサービスについてシェアする。それを知った⼈たちが、また周囲にシェアする。そうして世代を超えて拡散していきます。

では、どんなことを伝えれば彼らがシェアしてくれるのか。『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』の著者、今瀧健登氏は、「商品の魅力を伝えても、Z世代には刺さらない」と話します。彼らが求めているのは、商品やサービスを通して得ることのできる世界観。「エモ」=「ハッピーな共感」を訴求することで、共感の輪が広がっていきます。

いま、マーケティングの上で企業が求めているものを突き詰めていくと、多くの場合UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ。ここでは報酬やインセンティブが発生しない口コミやレビューを指す)をどう生み出すかに行き着きます。

なぜSNSにアップされないのか

1人が2人に伝えてくれれば、理論上は無限に広がります。だからたくさんの企業が「どうやったらバズるか」「SNSにアップしてくれるか」を模索しているわけです。しかし、なかなか消費者はSNSに上げてくれません。

そうして企業は「なんで拡散されないんだろう」と「商品」に理由を求めます。もちろん、商品に問題がある場合もあるとは思いますが、ほとんどの場合、そうではありません。その商品に、あるいは商品が消費される過程に、UGCが生まれる設計をしていないからです。

UGCの設計で最も有名なのが、Clubhouseです。以前、Clubhouseのアカウントを持つためには、すでに登録した人から紹介してもらう必要がありました(現在では招待制は終了)。そうした特別感もあって、爆発的にユーザーが増えました。その過程で多くのコミュニケーションが生まれ、Clubhouseのよさも広がっているわけです。

こうした視点で、「紹介」を設計に入れることもできます。例えば「友達紹介キャンペーン」というのがあります。「紹介してくれたら1000円オフ」。顧客を広げる意味では効果があると思いますが、もう少し工夫したらさらによくなると思います。

「同じ誕生月の友達に紹介したら」「家族で一緒に来店されたら」などとすれば、顧客が誰かに紹介する時点で、より多くのコミュニケーションが生まれます。単純に割引をするより、UGCが生まれる効果は高いでしょう。

ただ、同じことができる業種は限られています。UGCを生むためのカギはコミュニケーションです。商品を通してコミュニケーションが生まれるようにしておけば、自然とUGCが生まれます。そのきっかけを「エモ」を使って設計します。

コミュニケーションを生むための設計の1つが、商品そのものに仕掛けを加える方法です。

お菓子のパッケージに「○○さんへ」というように、名前を書き込めるものがあります。これはとても上手な方法だと思います。「誰かにあげるもの」という訴求をすることで、商品を通した多くのコミュニケーションが生まれます。あるいは、フタがネコのデザインになっているカップ麺も、買った人は誰かに伝えたくなるのではないでしょうか。

商品とコミュニケーションの仕掛けがセットになっていることもあります。商品が届いたときに、誰かに送るためのサンクスカードが入っている。飲み物と一緒に「誰と飲みますか?」とメッセージカードが届く。

新聞広告やチラシであれば、見た人が誰かに伝えたくなる内容を考えます。この点では、豆知識系が考えやすいと思います。

・スーパーのチラシで「キャベツは○○すると長持ちする」

・家電量販店の広告で「実は○○に節電効果はない」

・マンションの広告で「本当にお勧めな引越しのタイミングは〇月」

商品の説明だけであれば、それを魅力的に受け取ったとしても、人に伝えようという気持ちにはなりません。どんなチラシであれば、それを見た人がほかの人と会話をするのか。特別なことではなく、チラシを見る人の日常を想像しながら考えてみましょう。

プレゼントしたくなる商品を

エモの最上級はプレゼントです。誰かにプレゼントをするうえでは、必ずコミュニケーションが発生します。

それに、現在、ギフト・プレゼント市場が伸びています。2020年の市場規模は9兆8905億円、そこから2021年に前年比102.3%、2022年に前年比104.1%と推移し、2023年は前年比101.3%で10兆6670億円となっています(矢野経済研究所調べ、小売り金額ベース、2022年は見込み値、2023年は予測値)。

また、プレゼントの場合は一般的に高単価のものが売れる傾向があるといえます。プレゼントを買うときに2000円と1000円のものがあったとして、「安いから1000円のものを」と選ぶことは少ないと思います。「自分の払える範囲内で、なるべくいいものを買ってあげよう」と考えるのではないでしょうか。

それに、プレゼント商品を扱うお店では、リピートを狙いやすいともいえます。誰かへのプレゼントを買うとき、以前ほかの誰かへのプレゼントを買ったお店で選ぶ人は多いのではないでしょうか。

これからのBtoCのビジネスでは、プレゼントできるものかどうかが、重要視されるようになると思います。

プレゼントとして買ってもらえる商品としては、まず単純に、ギフトにできるようなパッケージかということがあります。値札がはがせるようになっているなど、シンプルなところも大事です。

加えて「どういう意味で誰にお勧めできるのか」の理由をつくることです。

例えばノンカフェインのコーヒーを売るときに、ただ「ノンカフェイン」と訴求するのではなく、「コーヒー好きだけど、妊娠中でカフェインを摂れない方へのプレゼントに」とメッセージングする。あるいは、「髪がまとまるシャンプー」ではなく、「毎日忙しくてヘアケアの時間が取れないあの人へ」と伝える。そうして「これをあの人にあげたら喜んでもらえるだろうな」と訴求することができます。

それに、プレゼントはあげる人、もらう人の外にも広がります。

例えば、電車の中で花束を持っている人を見て、「誰かにもらったのかな」「誰かにプレゼントするのかな」「送別会かな」と、前後のストーリーを想像することがあるのではないでしょうか。また、誰かにプレゼントをもらったエピソードや、その画像をSNSにアップすることも多いと思います。

プレゼントをあげる、もらうということに対して生まれる喜びだけではなく、プレゼントを渡している姿を見て、 また別の共感が生まれるのです。

コミュニケーションという視点では、企業と消費者間のやり取りも大切になります。

SNSの企業アカウントとして有名なのが、SHARP社のTwitterアカウントです。まだTwitterがそれほどビジネスに利用されない時期から運用に注力していたことで、抜きん出た存在になっています。いわゆる先行者利益であり、いまからほかの企業が超えるのはまず無理といっていいでしょう。市場の特性上、後発者は圧倒的に不利です。

ただ、このように、企業が公式アカウントを通して消費者とつながるという構図が、これから一気に変わる可能性があると考えています。ひと言でいえば、「コミュニケーションアカウントをつくる」という発想です。

これから企業に必要なのは、公式アカウントや広告運用のためのアカウントではなく、消費者とコミュニケーションを取るためのアカウントです。

ユーザーからリアルな情報が集まる

例えばお茶のメーカーがInstagramのストーリーズで「次に欲しいフレーバーは何ですか?」と質問する。それにユーザーが「桜の香りが欲しい」と回答します。簡易にリアルな情報を集めると同時に、ファンコミュニケーションができます。

ただ、企業が直接消費者とつながろうとすると、どうしても宣伝や広告の雰囲気が出てしまいます。そこで必要なのが、企業と消費者の間をつなぐ存在です。


企業の言いたいことを適切に翻訳し、消費者へ伝える。また、消費者の考えていることを理解して、企業に伝える役割です。

企業と消費者の両方とやり取りできるのが、インフルエンサーと呼ばれる人たちです。彼らは商品やサービスを使った感想をハッピーな表現に置き換えて発信し、共感を呼び込むスキルを持っています。消費者にとっては、自分の好きなインフルエンサーによるUGCが、購入の強い動機になるわけです。

企業が自分たちでインフルエンサーを生み出すのでもいいですが、それでは難易度が高くなります。そのため、企業がインフルエンサーに発注する。インフルエンサーを介して消費者と企業が繋がる。そうした構図になっていくように思います。

(今瀧 健登 : 僕と私と株式会社CEO、一般社団法人Z世代代表、Z世代の企画屋)