観葉植物の設置環境を考えるとき、最も見落とされがちなのが通気です(写真:片桐圭<リンガフランカ>)

慌ただしい生活でも鉢を置くだけで彩りがうまれ、癒しアイテムとして人気の高い観葉植物。100円ショップでも購入できる手軽さがある一方で、しばらくすると弱ってくることも多いのではないでしょうか。長く育てるほど枯れたときのショックも大きくなります。

観葉植物は本来、正しく「ケア」すれば人よりも長生きする「生きもの」です。お気入りの植物と、生涯をともにすることだって可能です。枯らすのはその生態を知らないだけ。植物をよみがえらせる園芸家、川原伸晃氏の初著書『プランツケア』の内容を一部抜粋、再構成してお届けします。

トイレでも観葉植物は育てられる?

僕が運営する植物専門店「REN」が手がける植物ケアサービス「プランツケア」の現場にはさまざまな質問が寄せられます。

ときどきトイレやお風呂でも育てられるか質問いただくことがありますが、推奨はできません。まず窓がない場合は難しいです。窓があったとしても個室は空気が滞りやすく植物育成には不向きです。また、浴室は過剰な湿度、冬場の低温、熱湯のリスクなど不向きな理由ばかりです。

設置場所に関して、他にもよくご質問いただくのは「部屋の中で植物が必ず不調になる場所がある」というものです。これは、通気が原因の可能性が高いです。設置環境を考えるとき、最も見落とされがちなのが通気です。

今、室内で植物を育てている方は部屋のどんな場所に置いていますか? 

壁で囲まれた隅や、棚の中に飾っていませんか?

植物の育成にとって「風」は非常に重要です。自然界では風によって植物に新鮮な空気が運ばれ、光合成に必要な二酸化炭素が供給されます。自然界に完全な無風状態はほぼありませんよね。それが全てを物語っているように、通気が悪いと植物の健康にも悪影響を及ぼします。

植物が病気になる原因の約9割はカビと言われます。

通気が悪いとよどんだ空気が溜たまり、カビも発生しやすくなります。そして、いずれは光合成も阻害されます。

適切な換気によって息苦しさが解消されるのは人間も植物も同じです。風の流れは目に見えないため判断が難しいのですが、より良い通気を心掛けるといいでしょう。

窓が開けられない部屋ではサーキュレーターが活躍します。扇風機とは異なり、直線的な風が遠くまで届くことが特徴です。換気扇とも併用すれば部屋中の空気が循環し、湿度や温度まで均一に整います。

人間にとっても、エアコンの補助や感染症対策に有効です。注意したいのは植物に風が強く当たること。強過ぎる風は葉から水分を過剰に奪い、水枯れを引き起こします。葉がそよそよと快適そうにそよぐくらいのイメージです。


(イラスト:山田聖貴、澤ひかり)

空腹だから食事もおいしい「水やりの秘訣」

今まで植物の診断を行ってきた中で、不調を招いた原因の圧倒的な1位は水の与え過ぎです。「良かれと思ってつい水を与え過ぎてしまう」気持ちは非常によく分かります。

しかし、人間も常に満腹だと不調になりますし、空腹で食事をするからおいしく感じるものです。

植物の根には「水分屈性」という、乾燥を察知することで水を求めて根が伸びる特性があります。常に湿潤状態だと、根は伸びる努力を怠ります。

また用土の中では植物の根も呼吸しているので、湿潤状態が続くと、根が窒息し根腐れを引き起こします。人間と同じように、植物も空腹(乾燥)と満腹(湿潤)を交互に繰り返すことで健康に育ちます。


(イラスト:山田聖貴、澤ひかり)

水やりのタイミングは、用土の乾燥を確認したとき。鉢の容積の4分の1程度を与えるのが望ましいです。そんなに少ないの? と感じるかもしれません。一般的には「鉢底穴から水が流れ出るまで」と言われます。これは保水性の低い用土には有効な目安ですが、腐植が豊富な用土は保水性が高いので4分の1程度が適正量になります。

この分量で水を与えると、用土にしっかり行き渡って空気も循環し、鉢底穴からも水が流れ出ません(鉢皿に水が溜まると根の呼吸が阻害されますのでご注意ください)。根から吸い上げた水分を使って日中に光合成を行います。そのため水やりは午前中に行うのが理想的です。

水やりの失敗で多いのが、用土の内部はまだ湿っているのに、表面が乾いただけで水を与えてしまうことです。鉢の重みで乾き具合を判断する手法もありますが、初心者にはハードルが高いのも事実です。

そこで、水やりの適切なタイミングに悩む方におすすめしたいのが植物専用の水分計です。鉢に挿しておくだけで簡単に使用でき、水を与える適切なタイミングを「色の変化」で知らせてくれます。慣れてくれば用土内部が乾く周期も感覚的に分かるようになってきます。水やりに慣れるまでの「補助輪」としてうまく活用するといいでしょう。


(写真:サスティー)

長期間水やりを忘れて植物がしなびてしまったときは、ソーキングで復活する可能性があります。別名「腰水(こしみず)」とも呼ばれる技術です。霧吹きで葉水(はみず)をたっぷり行ったら新聞紙などで株全体を包みます。そして深めの器に水を張り、鉢ごと数時間漬け込みます。このとき水位は鉢の腰の高さくらいを目安にします。これでも改善しない場合は、残念ながら復活は難しいです。

葉が黄色くなってきたときは…

枯れについての相談で最も多いのは、葉の黄変を心配するものです。


実は多くの場合、生理的な自然現象が原因で植物の不調ではありません。新芽が出ると下葉(根元に近い古い葉)が黄変し、いずれポロッと落ちます。これは新陳代謝によるもので、むしろ健康な育成の証しと言えます。また枯葉や枯枝を放置しておくと、ホコリと同様に病害虫の発生原因となります。枯葉や枯枝は躊躇なく切り落としましょう(下記イラスト参照)。

注意して欲しいのは新芽や比較的新しい葉の黄変です。ハダニの可能性が高いです。ハダニは非常に小さく肉眼ではほぼ見えません。主に葉の裏について栄養を吸収し、葉面が粉っぽくなります。群れになるとクモの巣のようなものを張ります。被害が進むと葉の色がカスリ状に薄くなり、白や黄色になります。対処法は、濡れティッシュで葉裏を拭き取り捕殺します。

また、葉が茶色くなっているときは、葉焼けの可能性が高いです。強過ぎる日光や照明器具が植物に直射していませんか? その場合は設置環境を見直すのが鉄則です。


(イラスト:山田聖貴、澤ひかり)

(川原 伸晃 : 園芸家、いけばな花材専門店四代目)