ガソリンに遅れること約4カ月。ようやくe-POWERモデルが発売となった(写真:日産自動車)

2023年4月に発売された日産「セレナ」のe-POWERモデルに試乗した。

このクルマの特徴は、新開発の1.4リッターエンジンを使ったe-POWERシステムだけでなく、先代e-POWERになかった8人乗り仕様の設定、ハンズオフ走行の「プロパイロット2.0」採用と多岐にわたる。

今の世の中、売れ線といえば軽自動車とSUV、そしてミニバンだ。高速道路のサービスエリアに行くと、ミニバンの多いこと多いこと。当然、メーカーとしては力が入る。

「技術の日産」というキャッチコピーを覚えている人も、多いと思う。今でもセレナを特徴づけているのは、シリーズハイブリッド技術をはじめ、数々の技術(デジタルが多くなったが)なのだ。


ひと目で「デジタルが多い」インテリア。ティッシュも収まるドアポケットなど使い勝手も考えられている(写真:日産自動車)

シャシーは、2005年発売の3代目セレナから連綿と使われているものとはいえ(やや驚き)、ボディの剛性アップをはじめ、サスペンションやステアリングのアップデートが奏功していて、古さは感じない。

端的に言うと6代目になった今回のセレナ、走りが気持ちよい。特に最も売れ線というハイウェイスターVは、「ドライバーも楽しめるように」という開発担当者の言葉を裏付ける性能ぶりだ。

今回、乗ったのは「e-POWERハイウェイスターV」と「同LUXION(ルキシオン)」。ともに、はっきりいって期待以上だった。

排気量アップ(1.2→1.4)と出力向上の恩恵

モーターのみで走行するe-POWERやプロパイロット2.0に象徴される運転支援システムなど、セレナのデジタライゼーションは、トヨタ「ノア」「ヴォクシー」、ホンダ「ステップワゴン」など競合に対して、このクルマを特徴づけている。

エンジンを駆動用バッテリーへの充電のためだけに使うシリーズハイブリッドのe-POWERは、エンジンの排気量を従来の1.2リッターから1.4リッターへと拡大して出力を向上。各部品の設計を見直して静粛性も向上させたというモーターを組み合わせる。


先代はノート e-POWERのシステムを流用したが、今回はセレナ向けのパワフルなシステムを搭載(写真:日産自動車)

シリーズハイブリッドでは、比較的高速で巡航が続くとバッテリー容量が低下してエンジンが回ることになるから、従来の1.2リッターはけっこう存在感を主張したし、そのわりにパワー感がもう少しほしかった。それに対して、今回のエンジンはいい。パワフルになるとともに、静粛性が上がった。

同時に「先読み充放電制御」なるカーナビゲーションと、バッテリーの充放電の協調制御がおみごとだ。どういうことかというと、ナチュラルなドライブ感覚を第1に考えてくれるから。

回生ブレーキのついたハイブリッド車では、下り坂でバッテリーが満充電状態になるとブレーキの効きが甘くなる。

それを防ぐため、ナビで目的地を設定している際、ルート上にある上りと下りの勾配をシステムが事前に地図データでチェック。長い下り坂では前もってバッテリーを放電しておいて制動力を確保するとともに、目的地付近でEV走行ができるよう、バッテリーの充電容量を増やしておく。たいしたエネルギーマネジメント技術だと、感心した。


ヘッドライトと一体となるグリルが特徴的。黒い部分の面積をどれだけ残すかが悩みどころだったとか
(写真:日産自動車)

「後席に家族が乗っていることを想定して運転してみてください」

試乗会会場で、このセグメントを統括する日産自動車の安徳光郎常務執行役員に、そう言われた。乗り心地、騒音、それにクルマ酔いの原因になる乗員の頭の揺れを極力抑えるサスペンションの設定と、今回のセレナは乗員の快適性の改善に力を注いだという。

たしかに、アクセルペダルのオンオフなどを意図的に激しくやってみても、クルマのフロント部分の浮き沈みは抑えられているのがわかった。

試しに後席にも乗ってみたが、突き上げはかなり少ない。それに、サイドウインドウから頭が離れている着座位置の恩恵もあるのだろう。窓を叩く風切り音は少ないし、床からの音の侵入も抑えられているようだった。

ヨレの少ないタイヤのおかげ

デジタライゼーションといえば、今回、新設定されたルキシオンなるグレードに搭載されたプロパイロット2.0も注目の技術だ。

同一車線内なら、全車速域でハンズオフ走行を可能にするもので、ミニバン初搭載がうたわれる。私は東名高速で試してみた。


ルキシオンのエクステリア。デザインはモデルを通じて上品さを大事にしたという(写真:日産自動車)

「ハンズオフ走行のプロパイロット2.0は、行楽帰りなど安全で快適なドライブを約束するものですが、実際の開発がかなり難しかったのは事実です」

日産自動車で開発を担当するテクニカルマイスターの渡辺大介氏は、そう教えてくれた。

「直進安定性、操縦安定性、乗り心地といったミニバンに求められる案件との両立はかなり気を遣うところでした」

そこで、ルキシオンでは、ややサイドウォールが硬めのタイヤを採用。コーナリングや自動車線変更時のスムーズさは、「ヨレの少ないタイヤのおかげ」(渡辺氏)と説明された。

でも、硬いタイヤのネガも多少あって、高速で路面が荒れていたところでは、ゴツゴツ感がハンドルから手のひらへ、それに床下から足裏へ伝わってきた。それを感じていたのはドライバーだけだけど。

セレナを買うとしたら、e-POWERを選ぶのは前提として、ハイウェイスターVかルキシオンかが悩ましいところ。少なくとも私は、「ドライバーも退屈させない」という安徳氏の言葉どおり、ハイウェイスターVが楽しめた。

乗車定員は、ルキシオンのみ7名。それ以外のグレードは8名だ。この8名用シートにも、工夫がある。


スマートマルチセンターシートを前に倒し、前席アームレストとした状態(筆者撮影)

「スマートマルチセンターシート」というそれは、2列目のセンターシートが個別に折り畳めるうえ、スライドさせると運転席/助手席のセンターアームレストとして使えるのだ。センターシートを前にスライドさせれば、2列目の左右席間に空間が生まれるので、3列目シートへのウォークスルーが容易になる。

7人乗りのルキシオンでは、2列目シートは両側にアームレストを持つキャプテンシートだけれど、左右にスライドする機能があるので、くっつけることもできるし、あいだに空間をつくることもできる。


2列目が2名乗車となるルキシオンのインテリア(写真:日産自動車)

デジタル技術としてもう1つ。実生活でありがたい場面がありそうなのが、「プロパイロットパーキング」だ。カメラとソナーが駐車場所と周囲の障害物を検知し、ボタン1つで車庫入れが行われる。

これには日産初のメモリー機能が搭載され、自宅の駐車場など白線がない場所や、いわゆる旗竿地のように道路から奥まった場所への駐車も、一度メモリーしてしまえばボタン1つだ。

私にとって興味深かったのは、メモリーが5つ登録できること。自宅以外の“よく行く場所”も、メモリーできるというわけだ。止めるときの誤差は左右でだいたい10cm、前後だと30〜40cmの範囲というから、使い勝手が良さそうではないか。


プロパイロットパーキングは5つのスペース(白線なしでも)を登録できる(筆者撮影)

少なくとも、白い枠線だけが引かれた公共駐車場では、スムーズな駐車ができた。狭いところでは、車外から「インテリジェントキー」で車両の出し入れが可能だそう。

「技術の日産」を、再び

燃費は、e-POWERハイウェイスターVで19.3km/L。2リッターガソリン車の最良は13.4km/L(Xグレード)なので、e-POWERの恩恵にはあずかれそうだ。


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価格は、「e-POWERハイウェイスターV」が368万6100円で、「e-POWERルキシオン」が479万8200円。価格で車種を選びたい人には、「e-POWER X」(319万8800円)もあるし、2リッターガソリン車(276万8700円〜)という手も。

日産には、ゴーン時代の頸木(くびき)から早く脱して、「技術の日産」全盛期のように開発力をフルに発揮したラインナップを展開する時代が来てほしい。セレナに乗って、そう願うのである。

<日産 セレナ e-POWER LUXION>
全長×全幅×全高:4765mm×1715mm×1885mm
車重:1850kg
パワートレイン:1433cc 直列3気筒+モーター
最高出力/最大トルク(エンジン):72kW/123Nm
最高出力/最大トルク(モーター):120kW/315Nm
燃費:18.4km/L(WLTC)
価格:479万8200円

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)