マンション住民からマナー違反の人に困っているという声や、多種多様な法人の拠点になっているという声が寄せられている。一般的なマンションの管理規約と事例を紹介します(写真:たっきー/PIXTA)

全国で約1500棟、東京だけでも約470棟もあるタワーマンション。タワマンといえば、豪華なエントランス、ゲストルームやスポーツジムなど充実した共用施設、綺麗な夜景が魅力とされ、良くも悪くも羨望の眼差しを向けられている。

そのタワマンを巡りマナー違反で困っているという声や、多種多様な法人の拠点になっているという声が筆者の元に寄せられた。知らず知らずのうちにルール違反をしている人もいるかもしれない。一般的なマンションの管理規約を紹介しつつ、事例を見ていこう。

豪華なエントランスでペットアレルギー発症

都内のタワマンに住む前田賢太さん(仮名、42歳)は、住民のマナー違反に困っているという。

前田さんは、外資系投資銀行に勤務する年収3000万円プレーヤーだ。職場へのアクセスもいい都心の一等地に立つタワマンを購入した。さすが億ションを優に超える高級マンションだけに、「スポーツジム」「プール」「ゲストルーム」など共用施設も豪華である。

前田さんはとくにエントランスに設置されている豪華なソファセットが気に入り、頻繁に利用している。

ところがある日、ソファでいつものようにテレワークをしていると、くしゃみが止まらず鼻水も出てきた。最近多忙だったこともあり、風邪かと思いその日は早めに部屋に引き上げた。

翌日には体調も良くなり、またソファで作業をしていると、くしゃみと今度は目のかゆみまで出てきた。目にゴミでも入ったのかと思い鏡を見たら、目が真っ赤であった。

そのまた翌日、ソファに行くと同じ症状が出た。これはさすがにおかしい。すぐに使用をやめ、コンシェルジュに掃除をお願いした。最近暑くなってきたのでソファにダニでも発生しているのだろうか……。

そんなある日、前田さんは、いつも座っているソファセットで衝撃的な光景を見てしまう。数匹の小型犬を座らせて、飼い主たちがトリミングしていたのだ。

原因はこれか……!と納得してしまった。前田さんは重症ではないもののペットアレルギーである。

マンションルールの雛形とされる標準管理規約では、

■マンション標準管理規約第18条、及びコメント

(使用細則)
第18条 対象物件の使用については、別に使用細則を定めるものとする。

(第18条関係コメント)
犬、猫等のペットの飼育に関しては、それを認める、認めない等の規定は規約で定めるべき事項である。基本的な事項を規約で定め、手続き等の細部の規定を使用細則等に委ねることは可能である。

と記載されている。

つまり、飼育の可否は管理規約で定め、詳細なルールは細則で定めることになる。そして「ペット飼育細則」では、次のようなことが決められていることが多い。

(1)飼育できる動物の種類や数
・飼育できる動物の頭羽数は、一の専有部分につき2頭羽を限度とする。
・観賞用の小鳥、観賞用魚類及び小動物の飼育については別途定める。
・小動物は、うさぎ、リス、ハムスターなどとする。
・犬及び猫の場合、体長50cm以内、体重がおおよそ10kg以内のもの。
※介護犬、盲導犬を除く

(2)管理組合への届出等により飼育動物を把握
・ 動物の飼育を開始しようとする住戸の区分所有者は、事前に申請書を理事長に届出し、許可を得なければならない。
・理事長は、承認又は不承認を決定した場合は、遅滞なく書面により通知しなければならない。

(3)飼育方法を定める(専有部分・共用部分における注意事項)
・ペットの飼育及び生活範囲は専有部分のみとする。また、ペットが共用部分等に逃げ出さないよう、脱出防止に努めること。
・法令等によって定められた予防注射、登録等を確実に行い、登録を受けた標識を玄関扉付近等の見やすい箇所に明示すること。
・ペットを廊下、エレベーター、エントランス、バルコニー、ポーチ・専用庭等の共用部分等に放さないこと。
・共用部分等で餌や水を与えたり、排泄をさせたりしないこと。万一、排泄行為のあった場合は、速やかに処置すること。
・専有部分よりペットを外へ連れ出す際、共用部分等では籠等の容器に入れるか抱きかかえるものとし、ペットを共用部分等において歩行させないこと。

前田さんのマンションでの出来事はまさにマナー違反であり、ペット飼育細則違反である。

さらに、夜遅くタクシーで帰ってきたときに、酔っ払いがソファで寝ていたのも見かけてしまった。当然ながらコンシェルジュも勤務時間外は、注意できない。

その後、コンシェルジュに伝え理事会で検討し注意喚起の貼り紙もしてもらったが、また症状が出たらと思うと怖くて利用できていない。せっかく気に入っていたマンションの共用施設の1つだが、残念で仕方ない思いだ。

居住用タワマンなのに法人の拠点に

山田正義さん(仮名、38歳)が8年程前から住む大規模タワマンに至っては、さまざまな法人の拠点になっていることがネットの検索でわかった。

山田さんは独身のため、住宅ローン控除がギリギリ使える広さの2LDKの間取りを選んだ。はじめてのマンション購入で不安もあったが、賃貸マンションとは違う分譲ならではの設備やセキュリティーの高さに感銘を受けた。何より、いずれ自分の資産になると思うと、購入してよかったと感じていた。

しかし、数年前からこのタワマンにまつわる良からぬ噂を耳にすることになる。

このマンションの住所で、商業登記をした法人が、事務所として使用しているというのだ。実際にマンション名や住所でネット検索をすると、ネットショップの住所になっていたり、プライベートサロンだったり、ホームページ制作などのWEB業者、そして悪評高い法人の住所として使用されていた。

なぜ居住専用のタワマンでこんなことが起こるのか。

実態はこうだ。

・所有者が自宅マンションに商業登記をしているケース

→SOHOや自宅兼事務所として使用、そもそも法人名義での購入も考えられる。

多くのマンションの管理規約では、

■マンション標準管理規約第12条、及びコメント

(専有部分の用途)
第12条 区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。

(第12条関係コメント)
住宅としての使用は、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断する。したがって利用方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要する。

とされていることが多い。

つまり、居住専用として使用すると管理規約で決まっており、ルール違反である。

しかし、コロナ禍によるテレワークの普及によって若干寛容の状況が見られるのと、自己所有の部屋なので、悪質とまでは言いにくいともいえる。

分譲マンションを賃貸して登記

・分譲マンションを賃貸して商業登記するケース

→最近多く、明らかな確信犯といえるのが、分譲タワマンの1室を所有者から賃貸で借り、その部屋に登記をするケースだ。

所有者(オーナー)から借りている部屋は、賃貸借契約で

「賃貸住宅標準契約書」より

(使用目的)
第3条 乙は、居住のみを目的として本物件を使用しなければならない。

と居住用として使用することが条項にあり、契約締結していることが多い。

しかし、オーナーに無断で、借りた部屋を利用して、マンション名と部屋番号を省略して登記。その住所を使い事業を行う。万が一、人が訪ねてきてもタワマンはセキュリティーが強くたどり着くのは難しい。

そもそも大規模物件で部屋番号も登記されていなければ特定するのも困難である。また、東京都港区や中央区などアドレスがよいタワマンも多く、どれも業者にとっては好都合というわけだ。そして、賃貸借契約は2年間が過ぎたら更新せずに退去する。

退去後に貸してない法人名義の郵便物などが届き、発覚するということもある。そもそも大規模物件では誤配達も多く、何度か同じ名義で届きようやく異変に気がつく。その際に元賃借人の携帯に電話するも時すでに遅しでつながらない。もっと悲惨なのは人気物件の場合だ。人気物件だとすぐに次の入居者が決まり商業登記されたことを気がつかないケースもある。

オーナーとしては、賃貸借契約の禁止事項や特約事項などで条項に盛り込むこと。管理組合としては、管理規約などでルールを強化することが抑止力につながる。とはいえ不動産登記とは違い、商業登記は把握しきれないというのが実情だろう。

コロナ禍でマンション内でテレワークする人も増え、館内で打ち合わせをしていても違和感がないのも後押ししている。まさに抜け道となっている。


どれだけ慎重に検討しても、住んでみないとわからないことはたくさんある。タワマンを含むマンションの購入を考えている方は、きらびやかなところだけでなく、維持管理などもしっかり確認してから、慎重に選んでいただきたい。

(日下部 理絵 : 住宅ジャーナリスト、マンショントレンド評論家)