海沿いを走る東海道線の電車。「青春18きっぷ」1回分は東京―熱海間往復でも元が取れる(写真:tarousite/PIXTA)

夏休みは遠方への旅行に限らず、お住まいの都市圏内でのお出かけをされる方も多いのではないだろうか。

そんな方々は、首都圏ならJR東日本の「のんびりホリデーSuicaパス」(2670円)、中京圏ならJR東海の「青空フリーパス」(2620円)、関西圏ならJR西日本の「関西1デイパス」(3600円)といった切符の利用を思い浮かべるかもしれないが、ここでJR線内に限ってはほぼ同じ効力があって安い、意外な切符の活用を提案したい。「青春18きっぷ」の活用である。

18きっぷはJRの普通・快速列車のみ乗り放題の5回分綴りの切符で、同一行程で5人で使うこともできる。5回分でお値段1万2050円。1回あたり2410円である。そのため「学生の長距離貧乏旅行向け」「乗り鉄が使うもの」というイメージが強いのではないか。

だが、「日程が連続しなくてもいい5日間有効のJR都市圏パス」と思えば、旅行はしない、私は乗り鉄でもない、という方にとってもなかなかいい切符ではないだろうか。複数人でも同時に使えるので、家族での近郊へのお出かけにも便利だ。

片道約70km以上なら18きっぷが安い

実際、18きっぷは都市圏内での日帰り単純往復でも片道営業キロが70.1km以上の区間なら元が取れる。幹線運賃で片道71〜80kmは1340円、往復で2680円だが、18きっぷ1日分なら2410円。1割ほど安くなる。

また、幹線運賃で1170円(61〜70km)の区間の場合、単純往復なら2340円で18きっぷ1日分のほうが高くなるが、往復に加えて1駅分以上乗れば2340円+150円=2490円で、少なくとも80円以上は安くなる。複数の場所を回るなら確実におトクだ。

18きっぷはもともと学休期の通学需要減少補填を目的につくられた切符なので、夏の発売期間は7月1日〜8月31日で、利用期間は7月20日〜9月10日となっている。特急列車は特急券を別途購入しても利用できないが、普通列車のグリーン車や座席指定制の臨時快速列車の指定席は、グリーン券や指定席券との併用で利用が可能だ。

■首都圏編

以前、首都圏の「のんびりホリデーSuicaパス」は少しエリア外にはみ出しても通常の往復利用よりおトクになり、Suicaの乗越精算機能によってワンストップで乗越利用ができるという記事(2022年4月20日付「利用エリア外でもお得、『Suicaパス』上手い使い方」)を公開したが、18きっぷの活用ならさらに安くできそうだ。

例えば大月―東京間は往復3036円のところが18きっぷなら2410円。実に626円もおトクである。このほか、熱海―東京間、宇都宮―東京間、高崎―東京間(いずれも往復3960円)なら1550円安だ。房総方面は君津―東京間、上総一ノ宮―東京間(往復3036円)なら626円安。成田空港―東京間、成東―東京間(いずれも往復2684円)なら274円安と、おトクな区間が目白押しだ!

<東京駅との単純往復でおトクになるのは……>
(片道営業キロ70.1km以上の区間)

中央線:四方津(74.0km)
中央線・青梅線:鳩ノ巣(71.3km・往復2560円)
東海道線:二宮(73.1km)
宇都宮線:間々田(73.3km)
高崎線:籠原(71.3km)
常磐線:神立(75.7km)
総武線・内房線:巌根(70.5km)
総武線・外房線:新茂原(70.6km)
総武線・成田空港方面:空港第2ビル(78.2km)
総武線・成田線:久住(75.3km)
総武線:日向(71.7km)

東京駅までの単純往復に加えてもう1駅分利用すれば、上記より東京寄りのエリアからでも18きっぷのほうが割安になる。通常、東京駅までの往復は、平塚・古河・熊谷・土浦・成田などからだと2332円だが、東京駅付近で1駅でも追加利用(例えば有楽町や神田など)すれば、1日分2410円の18きっぷのほうが割安になる。都心部まで来て1駅も電車に乗らないということはほぼないだろう。


東京から単純往復、または1駅分追加利用で「青春18きっぷ」がお得な区間(筆者作図)

<東京駅まで単純往復+1駅利用でおトクになるのは……>
(片道営業キロ60.1km以上の区間)

中央線:相模湖(62.6km)
東海道線:平塚(63.8km)
宇都宮線:古河(64.7km)
高崎線:熊谷(64.7km)
常磐線:ひたち野うしく(60.3km)
常磐線・成田線:安食(60.3km)
総武線・内房線:長浦(63.5km)
総武線・外房線:大網(62.1km)
総武線・成田線:酒々井(61.7km)
総武線:榎戸(62.2km)

高崎―横浜間往復が半額に

横浜へのお出かけなら、房総方面や北関東からの利用だとおトク額がグッと増える。大月―横浜間なら、往復3036円のところが2410円だ。このほか、宇都宮―横浜間、高崎―横浜間(往復4620円)なら2210円安とほぼ半額。房総方面は君津―横浜間、上総一ノ宮―横浜間など(往復3960円)なら1550円安になる。おトクになるエリアは結構広く、宇都宮線なら白岡駅、高崎線なら桶川駅、常磐線なら取手駅、総武線は都賀駅、京葉線は蘇我駅からでも18きっぷの方が安い。

<横浜駅との単純往復でおトクになるのは……>
(片道営業キロ70.1km以上の区間)

東海道線:湯河原(70.3km)
上野東京ライン(宇都宮線直通):白岡(72.3km)
上野東京ライン(高崎線直通):桶川(70.9km)
上野東京ライン(品川から常磐線):取手(72.0km)
横須賀線・総武線:都賀(72.2km)
東海道線・京葉線:蘇我(71.8km)
横浜線・中央線:四方津(71.0km)
 ※東京―横浜間28.8km、千葉―横浜間68.0km

横浜駅まで単純往復+1駅利用なら、房総半島のほぼ全駅が18きっぷのほうがおトクな射程圏内だ。宇都宮線は土呂駅、高崎線は宮原駅と、大宮の隣より先の全駅が対象だ。なお、片道の距離が60.1kmを超えていても、運賃が割安な電車特定区間の駅からだと、追加で1駅利用してもおトクにならないケースがほとんどだ。そのため常磐線は取手より先の各駅から、総武線・京葉線経由だと蘇我から先の各駅からであればおトクになる。

<横浜駅まで単純往復+1駅利用でおトクになるのは……>
(片道営業キロ60.1km以上の区間)

東海道線:根府川(61.6km)
上野東京ライン(宇都宮線直通):土呂(62.1km)
上野東京ライン(高崎線直通):宮原(63.1km)
上野東京ライン(大宮から川越線):日進(62.8km)
横浜線・中央線:藤野(63.3km)
 ※東京―横浜間28.8km、上野―横浜間32.4km

ではこの5日分、どのように使うのがいいだろうか? その使用例として、宇都宮線の古河や高崎線の熊谷にお住まいの方がお出かけする場合を考えてみた。もちろん、連続した日程である必要はない。

1日目:舞浜のディズニーランドへ
古河・熊谷-舞浜間往復2684円が2410円に(274円おトク)

2日目:横浜の中華街で食い倒れ
古河・熊谷→石川町1694円
 〜中華街で昼食〜
石川町→桜木町146円
 〜クイーンズスクエアでショッピング〜
桜木町→古河・熊谷1694円
合計3534円が2410円に(1124円おトク)

3日目:渋谷・原宿でショップ巡り
古河・熊谷→原宿1166円
原宿→渋谷146円
渋谷→古河・熊谷1166円
合計2478円が2410円に(68円おトク)

4日目:君津で海水浴
古河・熊谷-君津間往復5280円が2410円に(2870円おトク)

5日目:鎌倉で寺社やカフェ巡り、江の島にも
古河・熊谷→北鎌倉1980円
 〜寺社巡り〜
北鎌倉→鎌倉146円
 〜江ノ電で江の島に寄って藤沢へ〜
藤沢→古河・熊谷1980円
合計4106円が2410円に(1696円おトク)

5日間、通常の切符なら総計1万8082円になるところが1万2050円と、3分の2の費用で済む。ちなみに、5日間とも帰路にグリーン車を使っても土休日なら計4800円の追加料金(4日目は総武線と上野東京ラインの2列車で利用)で済み、なお1000円以上のお金が浮く。これなら遊び疲れていたり、たくさん買い物をした帰りだったりしても安心だ。

名古屋-豊橋往復が270円安

■中京エリア編

名古屋駅を中心とした中京エリアでは、豊橋、米原、中津川、伊勢市といったエリアとのお出かけに使える。

豊橋―名古屋間は往復2680円だが、18きっぷなら270円安くなる。米原―名古屋間、中津川-名古屋間も2680円なので同様だ。伊勢市―名古屋間は途中に伊勢鉄道線を挟んでの利用となるが、JR線分の往復3040円が2410円となるので、630円も安い。しかも乗り放題なので、単純往復だけでなく名古屋市内の複数の駅を行ったり来たりできる。

<名古屋駅との単純往復でおトクになるのは……>
(片道営業キロ70.1km以上の区間)

東海道線豊橋側:豊橋(72.4km)
東海道線米原側:醒ケ井(73.8km)
中央線:美乃坂本(73.5km)
関西本線・紀勢本線:多気(71.1km)※
※JR線の営業キロ・別途伊勢鉄道運賃が必要

名古屋駅まで単純往復+1駅利用なら、さらに名古屋寄りの駅からでもおトクだ。例えば紀勢本線松阪駅からはJR線分の往復運賃が2340円(別途伊勢鉄道線+1040円)なので、名古屋駅付近で1駅でも追加利用すれば18きっぷ2410円のほうが割安になる。


名古屋から単純往復、または1駅分追加利用で「青春18きっぷ」がお得な区間(筆者作図)

<名古屋駅まで単純往復+1駅利用でおトクになるのは……>
(片道営業キロ60.1km以上の区間)

東海道線豊橋側:三河大塚(60.8km)
東海道線米原側:柏原(64.9km)
中央線:武並(62.9km)
関西本線・紀勢本線:松阪(63.2km)※
※JR線の営業キロ・別途伊勢鉄道運賃要

■関西エリア編

大阪駅を中心とした関西エリアなら、近江八幡、姫路、和歌山といったエリアとのお出かけに使える。

例えば近江八幡―大阪間、姫路―大阪間は往復3040円なので、18きっぷなら630円おトクだ。通常は往復2560円の和歌山―大阪間も150円安くなる。基本的には片道営業キロ70.1km以上の区間を往復する場合に18きっぷが割安となるが、関西空港駅はそれより短いものの加算運賃が含まれているため、実は18きっぷで往復したほうがおトクである。JRで関空に行く人は頭の片隅に入れておいてほしい。


大阪から単純往復、または1駅分追加利用で「青春18きっぷ」がお得な区間(筆者作図)

<大阪駅との単純往復でおトクになるのは……>
(片道営業キロ70.1km以上の区間)

JR京都線・琵琶湖線:野洲(72.5km)
JR京都線・湖西線:和邇(わに)(70.8km)
JR京都線・草津線:石部(74.1km)
JR京都線・嵯峨野線:八木(71.0km)
JR神戸線:加古川(72.2km)
福知山線:下滝(76.4km)
関西本線:大河原(73.3km)
阪和線:紀伊中ノ島(70.9km)※
 ※JR時刻表に基づく距離
阪和線・関西空港線:関西空港(56.7km)※
 ※関西空港は加算運賃があり片道1210円、往復2420円

関西圏でも大阪まで単純往復+1駅利用なら、上記より大阪寄りのエリアからでもおトクになる。

<大阪駅まで単純往復+1駅利用でおトクになるのは……>
(片道営業キロ60.1km以上の区間)

JR京都線・琵琶湖線:南草津(62.5km)
JR京都線・湖西線:おごと温泉(62.8km)
JR京都線・嵯峨野線:馬堀(60.9km)
JR神戸線:魚住(62.2km)
福知山線:古市(61.2km)
関西本線:加茂(61.2km)
阪和線:紀伊(64.0km)

「ぷらっとこだま」と併用すると…?

JR東海ツアーズが販売している「ぷらっとこだま」などの格安新幹線乗車票は、新幹線区間の前後の在来線区間は別途切符購入が必要な場合が多いが、こういった商品を使うときにも18きっぷは使える!

例えば東京圏での移動+ぷらっとこだま+関西圏での移動を想定してみよう。木更津から東海道新幹線経由で和歌山まで行くケースだと……

通常:木更津→東京(1342円)+ 新大阪→和歌山(1280円)=合計2622円
18きっぷ:2410円(212円おトク)

このように旅先でも同じ切符が使えて安くなるのは大変便利ではなかろうか。

いかがだったであろうか。18きっぷは「乗り鉄」や遠方への旅行目的に限らず、ちょっと足を延ばしたお出かけなどにも使える切符であることがハッキリしたのではないだろうか。

18きっぷはJR全線で使えるため、その売り上げは切符の購入者が乗っていようとなかろうと、赤字ローカル線が多数を占めるJR北海道や四国にも分配される。つまりは鉄道版“ふるさと納税”と考えられなくもない。18きっぷを利用すれば、自身の節約になるだけでなく、これら各社の支援にもつながり、ローカル線を守る一助になる。素晴らしいことではありませんか!


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(北村 幸太郎 : 鉄道ジャーナリスト)