生命力あふれる観葉植物は葉が鮮やかなミドリ色 (写真:片桐圭<リンガフランカ>)

慌ただしい生活でも鉢を置くだけで彩りがうまれ、癒しアイテムとして人気の高い観葉植物。100円ショップでも購入できる手軽さがある一方で、しばらくすると弱ってくることも多いのではないでしょうか。長く育てるほど枯れたときのショックも大きくなります。

観葉植物は本来、正しく「ケア」すれば人よりも長生きする「生きもの」です。お気入りの植物と、生涯をともにすることだって可能です。枯らすのはその生態を知らないだけ。植物をよみがえらせる園芸家、川原伸晃氏の初著書『プランツケア』の内容を一部抜粋、再構成してお届けします。


(漫画:厳男子)


(漫画:厳男子)

長寿の鍵をにぎるのは「肥沃」な土

「うちの観葉植物、最近、元気がないんです……」

「以前に枯らしてしまって……」

「観葉植物を育てるのは初めてで……」

僕は2005年に観葉植物専門店「REN」を開業して以来、さまざまな相談を受けてきました。その中で、非常に多くの方が「観葉植物の寿命は数年だろう」と誤解をしていることに気がつきました。

無理もありません。

街中の園芸店などで観葉植物を買い求めたとき、その多くはプラスチックの簡易的な鉢(以下、プラ鉢)に植わっています。実はこのようなプラ鉢に植えられた植物を、そのままの状態で、長期にわたって健康に育てることはほぼ不可能です。

原因は「土」にあります。多くの場合、プラ鉢の土には用土の肥沃さを表す「腐植」がほぼ含まれていないため、植物は本来持つ生命力を発揮できません。「観葉植物は数年で枯れる」と誤解されている最大の原因がここにあります。植物が本来持つ生命力を発揮できないように「リミッター」がかけられている状態です。


長寿の鍵をにぎるフカフカな土(写真:片桐圭<リンガフランカ>)

また、長く育てているとあらゆる疑問や不安にもぶつかります。

「最近、よく葉が落ちるけど何が原因かわからない」

「大きくなってきたけど、植え替えたほうがいいのかな?」

「鉢を置くとなぜか枯れてしまう場所がある……」

今まで多くの園芸店は「植物を売るプロ」であって「植物をケアするプロ」ではありませんでした。ペット産業にたとえるならば、ペットショップはあるのにペットクリニックがない。園芸業界では、そんないびつな構造が常態化していました。その結果、観葉植物は「ケア」する対象ではなく、一般的には「枯れたら処分する」消費対象として普及したように思います。この状況への違和感から、業界初の植物ケアサービス「プランツケア」の提供を始めました。

「サボテンすら枯らす人」が揶揄にならないわけ

植物を育てることが不得手な人に対して、よく「サボテンすら枯らす人」と揶揄する光景を目にします。本人が自虐的に言う場合も多いですよね。しかし実はこれ、まったく揶揄になっていません。なぜなら日本で多肉植物を育てることは簡単ではないからです。

植物管理の基本は、自生地を想像して生まれ育った環境に近づけることです。

それを念頭に置けば、乾燥地帯で生まれ育った多肉植物を日本で上手に育てるのは、いかにハードルが高いか想像がつくかと思います。犬でたとえてみましょう。中東の人々がモフモフの秋田犬を砂漠で飼育する困難さを想像してください。珍しく魅力的な品種だと感じるほど、その植物ははるか遠くの異国からやってきていて、日本の環境には適合しにくい品種です。

そもそも「観葉植物」と聞いて、どんな品種を思い浮かべますか?

パキラやガジュマル、最近では多肉植物やエアプランツなど、人によって多種多様ではないでしょうか。

実は植物店によってもその解釈はさまざまですし、インターネットの情報も千差万別です。「観葉植物」という呼び方は定着しているのにもかかわらず、世間一般の共通認識はありそうでないのが実態です。

そこで、まずは観葉植物を定義することから始めます。

なぜわざわざ定義が必要なのか? 「ケア」を重視したいからです。

観葉植物の品種を見極めることが肝要

本来持つ生命力を全うすれは、観葉植物は人よりも長生きします。100年生きるには正しいケアが不可欠で、最適なケアを追い求めると専門分化は避けられません。犬と猫と鳥と爬虫類はそれぞれがまったく異なる生き物であるように、亜熱帯性植物(ゴムノキなど)と熱帯性植物(ブロメリアなど)、多肉植物(サボテンなど)、着生植物(ビカクシダなど)は似て非なる植物だからです。


僕は観葉植物を「亜熱帯性植物」と定義しています。品種で言うと、ゴムノキ・パキラ・ガジュマル・ポトス・サンセベリア・モンステラなどをさします。「亜熱帯」とは一般的に熱帯と温帯の間をさします。高温の夏と穏やかな冬、年間通して10〜30度程度の気温です。イメージとしては沖縄や台湾など、暑過ぎず寒過ぎない地域を想像してください。

観葉植物は室内で育ちます。お庭やベランダは不要ですし、部屋の大小や戸建て・集合住宅などの形態も問いません。老若男女を限定せず、大掛かりな力仕事も不要です。

さらには観賞の目的が葉や枝なので、花や実をつけるための難しい栄養管理も専門知識も不要です。すべての人にとって最も普遍的な園芸、言い換えると、人間の暮らしに最適化した植物が「観葉植物」なのです。

「プランツケア」の目的は、お気入りの観葉植物を枯らさずに、長く一緒に暮らしていくことです。そのためには適した品種があるのです。

(川原 伸晃 : 園芸家、いけばな花材専門店四代目)