プラグインハイブリッドパワートレインを搭載して登場したSF90 XX ストラダーレ(写真:Ferrari)

フェラーリが新型モデル「SF90 XX」のストラダーレとスパイダーを、2023年6月29日に発表した。

フェラーリの有名なテストコース「ピスタ・ディ・フィオラノ」でお披露目。サーキット専用車の開発プログラムとして知られる「XX(エックスエックス)」シリーズ(FXX-K Evo)と、スペチアーレシリーズ(488ピスタとか812コンペティチオーネ)を組み合わせたものという。。


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上記2つのプログラムの最大限の“いいとこどり“と、フェラーリ。「(自分たちが培ってきた)レーステクノロジー、空力、それにパワーマネージメントで作りあげつつも、公道を走れる初めてのXXモデル」(プレスリリース)と表現される。

クーペと電動ハードトップをもつスパイダーが設定されるのは「SF90 ストラダーレ」と同様だが、今回は異例なことに同時に発表された。

V型8気筒3990ccリッターエンジンに3基の電気モーター(前に2基、エンジンとギアボックスの間に1基)を組み合わせたプラグインハイブリッド(PHEV)パワートレインは、なんと757kW(1030cvとフェラーリ)という最高出力を発揮し、静止から100km/hまでを2.3秒で加速する性能ぶり。


SF90 XX ストラダーレに対し電動ハードトップを持つSF90 XX スパイダー(写真:Ferrari)

それによって頭1つ(あるいは2つか3つ)分、セグメントの中で抜け出そうということか。世界最高のスポーツカーメーカーを標榜するフェラーリの矜持をみせる(私の推測では)プロダクトだ。最高時速は320km/hに達する。

それでいて、ハイブリッド車のため「eドライブ」モードを選択すると、エンジンは停止。モーターだけで前輪を駆動し、25kmの距離を走行、135km/hまでの最高速を得ることができる。

パワーアップ+空力の徹底的な見直しを実施

ベースは、2019年発表のSF90 ストラダーレ。同じ3990ccのV8ツインターボに、3基のモーターを組み合わせた「e-4WD」なる駆動システムをもち、735kW(1000cv)の最高出力を発揮するモデルだ。


SF90 ストラダーレの735kW(1000cv)に対し757kW(1030cv)の最高出力を発揮(写真:Ferrari)

SF90 XXは、エンジンの冷却効率の向上などでパワーアップ(ターボチャージャーなどのハードウェアは同一だそう)。加えて、空力の徹底的な見直し、ギアボックスの制御ロジック変更、そしてドライブトレインへの電子的な制御システムの追加が行われている。

ハイスピードドライビングを実現するための空力設計は、SF90 XXの最重要ポイントの1つ。「空力においてムダなデザインは1ミリもありません」と、開発統括(チーフテクニカルオフィサー)のジャンマリア・フルジェンツィ氏が胸を張って言うほどだ。

ボディには、さらに大型の固定式リアウイングと「シャットオフ・ガーニー」とフェラーリが名付けた可動式の空力用フラップが備わる。

後者はF1で知られるガーニーフラップの“進化形”とされ、電動で開閉して後端の空気の流れをコントロールするもの。SF90ストラダーレで採用されたシステムを、新たに設計し直しているという。


コンペティティブなイメージを強調する固定式のリアウイング(写真:Ferrari)

固定式スポイラーについて、これまでフェラーリはあまり積極的な態度をとっていなかった。今回あえて採用に踏み切った理由について、「かつての『F40』や『F50』のようなアイコン的なモデルの象徴であり、顧客の要望に応えたものです」とマーケティング統括のエンリコ・ガリエラ氏は説明した。

「とにかくダウンフォースをかせぐことが、このクルマ(SF90 XX)をサーキットでも早く走らせるために重要だと考えました」とは、フルジェンツィ氏。はたして、「ダウンフォースはSF90 ストラダーレの20%増しです」という。

「エクストラブースト」でトルクを上乗せ

このクルマがサーキットを楽しめる「XX」の名にふさわしいと思わせる、もう1つの機構が「エクストラブースト」。サーキットで最大限のパフォーマンスを引き出すドライブモード「クオリファイング」を選ぶとスタンバイする。

システムはさらなるトルクを上乗せし、サーキットの出口でアクセルを全開にすると瞬間的にトルクアップ。ハンドルが直進位置にあるとか条件が設けられているようだが、バッテリーがフルだと30回使えるという。


カーボンファイバーのカバーの中に電動ユニットを「見せる」演出(写真:Ferrari)

その効果は、どれほどなのか。「ピスタ・ディ・フィオラノの周回でラップタイプをコンマ25秒縮める」と、開発ドライバーでありエンジニアでもあるラファエレ・デ・シモーネ氏は言っていた。

スポーツ走行のための電子制御技術も、多岐にわたる。ドライブモードで「レース」を選ぶと作動し、車両の動きを判断しながらブレーキ制御を行う「ABS EVO」が、「296GTB」に続いて採用された。「ドライな路面において最大限の性能を引き出す」というシステムだ。

X軸(ロール)、Y軸(ピッチ)、Z軸(ヨー)の3方向のクルマの動きをセンシングする「6W-CDS」の情報を、ABS EVOなどの制御システムがフルに活用する。

ブレーキで旋回性能を高める「フェラーリ・ダイナミックエンハンサー」は今回「2.0」に進化。「エレクトロニック・サイドスリップコントロール(eSSC)1.0」とともに、サーキットでのパフォーマンスを高めるとされる。


サーキットユースを考慮したフルバケットシートが備わる(写真:Ferrari)

フェラーリでXXというと、冒頭でも触れたとおり、サーキット走行と密接に結びついている。FXX-K Evoや599 XXのようなサーキット専用モデルを顧客に提供し、顧客によるサーキットドライブで得たデータを集め、将来のモデル開発に役立てる「XXプログラム」があるためだ。

しかし、今回のSF90 XX ストラダーレは、車名にストラダーレ(いってみれば公道)と入っているとおり、「XXプログラムとは無縁」(ガリエラ氏)という。

それでも、エンジンのパワーアップ、エンジンやブレーキを使っての駆動力制御、ダウンフォースによるコーナリング性向上などを目指したエアロダイナミクスなど、従来のSF90 ストラダーレから、さらに何歩も先に進んだクルマがSF90 XXだ。

スタイリングは「アートとサイエンス」の両立

スタイリングについては、フェラーリでヘッドオブデザインを務めるフラビオ・マンツォーニ氏は、「アートとサイエンスをどう両立させるかを努力した結果です。SF90 XXの課題は、多彩な機能を盛り込みつつ、エレガントなスタイルを作りあげることでした。空力が重要なテーマなので、前後それに側面すべてリデザインしました」と語ってくれた。

さらに「ただし、単に機能を整理すればいいのではなく、特徴を作らなくてはならないので、ハンマーヘッド(シュモクザメ)と呼ばれるフロントのテーマを踏襲し、同時に固定式リアウイングまわりを強調しました」と、マンツォーニ氏は続ける。


ハンマーヘッドと呼ばれるフロントのデザインは、SF 90シリーズの共通テーマ(写真:Ferrari)

リアビューも、フェラーリとしてはデザイン的に斬新なアプローチだ。1つは、言うまでもなく高くそびえたウイングで、それから「ワイドさを強調した」という横バータイプのコンビネーションランプも新しい。そう、4灯デザインから離れたのだ。


丸形4灯を伝統としてきたテールはイメージが一新された(写真:Ferrari)

また、後輪のタイヤハウスに溜まったエアを吸い出す大きなエアアウトレットを強調するような、ボディ同色の縦のラインが目をひく。これは「トリマラン(三胴のヨット)のイメージ」なのだそうだ。

インテリアは、基本的にはSF90 ストラダーレに近い。ただし、さらに軽量化がひと目でわかるようなデザインとなっている。機能に直結する部分は、カーボンファイバー素材だ。

「ドアの内張りなどにエクステリアの”差し色”と同色のアクセントを使うようにしました」とマンツォーニ氏。

ダッシュボードは上下にわかれ、上半分は人工スエードのアルカンターラが、下半分には高機能合成繊維であるテクニカルファブリックが張られる。これは、レースカーからの引用だ。

新しく用意されたカーボンファイバー素材を“あえて見せる”デザインとした一体型シートに身体を落ち着けると、ヤル気が出てくる。

スパイダーへの力の入れ方

冒頭でも触れたように、ルーフが電動で格納するスパイダーも同時に発表されたのは、フェラーリとしてはかなり特別なことだ。たいていはクーペが登場して半年後、あるいはそれ以上あとにスパイダーが追加されるのだから。

スパイダーはコクピットに座っただけだから断定的なことはいえないが、ウインドシールドは比較的長く、乗員の頭上に届きそうだった。きっと、風の巻き込みは少ないだろう。快適志向ということだ。


フロントウインドウがかなり乗員に近い位置まで伸びていることがわかる(写真:Ferrari)

乗員の頭部を保護しつつ、空力効果も担うフライング・バットレスは、1950年代のレーシングフェラーリを思わせるものであり、同時に近年のフェラーリスパイダーに共通するアイコン的なものだ。

ルーフは、45km/hまでなら走行中に電動で開閉が可能。14秒でクーペからオープンに早変わりする。ここぞというときに風を浴びて走るか、あるいは逆に雨などどうしようもないときに閉めるか。素早い開閉機構の恩恵をどう受けるかは、人それぞれだろう。

価格は、SF90 XX ストラダーレ(クーペ)が、イタリアで77万ユーロ(およそ1億2100万円)。デリバリーは、2024年の第2四半期に開始されるという。限定799台だ。


発表会の会場に置かれるSF90 XX ストラダーレ(写真:Ferrari)

SF90 XX スパイダーは、85万ユーロ(およそ1億3400万円)。こちらは限定599台のみが、生産される。デリバリーは、少し遅れた2024年の第4四半期。ただし「どちらのクルマもすべて売約ずみ」というから、フェラーリの世界はスゴイものだ。

<フェラーリ SF90 XX ストラダーレ>
全長×全幅×全高:4850mm×2014 mm×1225mm
ホイールベース:2650mm
車重:1560kg
パワートレイン:3990cc V型8気筒ツインターボ+電気モーター プラグインハイブリッド4WD
最高出力:586kW(エンジン)+171kW(モーター)、システム合計757kW
最大トルク:804Nm(エンジン)
変速機:8段ツインクラッチ

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)