リノベしたキッチンのビフォーアフター。まるで見違えた(写真:筆者撮影)

日本の古い木造建築や町家、古民家は日本人にとっても魅力があるが、外国人にとっても「住んでみたい」と思わせる何かがあるようです。最近は日本の空き家などを購入し、リノベーションする外国人が増えていると、ニューヨーク・タイムズ紙も報じています。実際、日本で古民家などをリノベするのはそんなに魅力的なことなのでしょうか。上智大学で教鞭をとるパリッサ・ハギリアン氏が、自身の日本での古民家リノベ体験を紹介します。

日本でのリノベコストは高額

古い日本家屋の中にはとても魅力的ながら、長年にわたって放置されてきたものが多くあります。このような住宅のリノベーションの可能性は無限です。中には、床暖房を導入し、屋根や壁をすべて作り直し、現代の基準に合わせた完全なリノベを選ぶ人々もいます。その場合、家自体の価格の数倍の改装費用がかかることは必至で、完成に2年かかることもあります。

そこまでしなくても、ほとんどの場合、家の床や内装をリノベします。こちらは難しくありませんが、日本語が話せない外国人だとそれなりの経験が必要です。

日本の場合、リノベをする場合は通常、専門事業者に依頼しますが、そのコストはけっして安くありません(一度、冷暖房を設置するだけで(作業時間は10分程度)4万円請求されたこともあります)。一般的なリノベ会社に依頼すると、費用は規模によって約500万円から1000万円かかるとされます。

一方、私は東京、そして、京都で家を買ったときにリノベの際、友人に力を借りました。ヨーロッパではよくあることで、友人や家族の協力を得れば、リノベコストを下げることができます。また、リノベを一度に済ますのではなく、2年、3年と時間をかけて、資金に余裕ができた時にリノベを行いました。

日本の家屋は、観光名所に建っていたり、もともとの建築様式がその地域を象徴していたりする場合などには、建て替えられない場合もあります。内装は改装可能ですが、外観はもとのままに保たないといけません。

こうした場合は建築家が必要になり、その分コストも嵩みます。建築家は通常、建て替え費用の10%を受け取ります。日本の田舎にある、伝統的な非常に大きな家の場合、改築費用は簡単に5000万円に上り、施工期間も1、2年かかることもあるようです。


リノベした京都の古民家。キッチンも使い勝手がよくなった(写真:筆者撮影)

自分の家の壁が隣人の壁だった!

リフォームには驚きがつきものですが、木造住宅のリフォームは私と友人にとっても新たな挑戦でした。ヨーロッパではほとんどの家がコンクリートれんがでできていますが、日本では特に古い空き家は木造が多く、壁に薄いモルタルが塗られていることもあり、木造であることが一目でわからないようになっています。

現在、日本のドアや浴室やキッチンの多くは標準化されていますが、地元の人々の手によって建てられたものが多いので、ドアや床、壁の大きさもまちまちです。なので、古民家をリフォームする際、ドアのサイズが壁と同じなど個性的な作りもあって、これがリノベの際に大きな問題となることがあります。

枠に合わせてドアをカットしたり、壁を撤去して上から改築したり、水平でない床を張り替えたりする必要もあるかもしれません。隣人が家をリノベしたときにわかったのが、自分の家の壁がなんと隣人の壁でもあり、壁のリノベには細心の注意を払わねばならないということでした。

「動物」の問題もあります。木造住宅には抜け穴がたくさんあり、ネズミやイタチ、あるいはヘビといった“迷惑な客”が非常に多くいます。古民家におけるリノベの主な目的は動物対策ともいえます。

京都には特別に保護されているイタチがいるので、このイタチが家に住み着いたら、プロに捕獲してもらう必要があり、これは20万円ほどの出費になります。私の家にもイタチが2度ほど侵入したことがあり、穴を探して塞がなければいけませんでした。

さらに厄介なのはネズミです。ネズミの場合はさらに費用がかかります。私の場合、1軒につき20万円ほどかけて、侵入できないように鉄柵を設置し、すべての穴をふさがなければなりませんでした。作業は数日を要する上、非常に複雑なものでした。

木造住宅の場合、さまざまな問題に対処しなければなりませんが、日本でのリノベにはエキサイティングな部分もあります。私のハイライトは京都の大きなゴミ処理施設で建設ゴミを処理したことでしょう。これは外国人にとってはかなりの冒険で、コンクリートの塊や古いバスタブなどを巨大なベルトコンベアに自分で捨てることができるという、かなり開放的な体験でした。

日本ではDIYが盛んだと聞いていましたが、こちらでは自分の家を自分でリフォームしているという人に会ったことがありませんでした。ヨーロッパの家具会社のキッチンパーツを運んできた配達員は、私たちが、自分たちでリノベしていることが信じられないという様子でした。20年間、家具やキッチンの配送をしていて、自力で設置する人を見たことがないとのこと。

また、近所の人たちも驚き、興味を示し、リノベ中には何度も見学しに来ていました。彼らもまた、私の友人が自分で家を改装したことを信じられない様子で、私たちのこういった作業を「とてもヨーロッパ的」だと感じたようです。


京都の古民家の外観のビフォーアフター(写真:筆者撮影)

古民家暮らしの「実際」

日本で空き家や古民家を購入することはリノベをして終わり、ではありません。メンテナンスも家を快適に保つためには重要です。特に冬は寒くて乾燥していて、夏は非常に暑くて湿度が高い日本の気候は木造の家屋に大きな影響を及ぼします。夏の間はカビ対策が必須ですし、庭がある場合はその手入れも大変。毎年、夏休み後にヨーロッパから日本に帰ってくると、庭がジャングルのようになっています。

また、日本の古民家では、音響の面でのプライバシーはほとんどありません。人里離れた田舎の家でもない限り、周りの音が全部聞こえてしまいます。場合によっては、隣人のいびきや喧嘩の声も聞こえるし、隣人が食べているものの匂いを毎日嗅ぐことになるのも実際に住んでからわかったことです。

東京で最初に家を買ったとき、不動産屋が「日本人はこんな家を買わない」と言った理由が理解できませんでした。こんなに素敵なところに住みたいと思わないなんて、と。

しかし、年齢を重ねるごとに、日本人がマンションに住むことを好む理由がだんだんわかってきました。木造住宅は通常、室内外の温度が同じなので、全室を暖めるにはエアコンか床暖房が必要です。ヨーロッパではセントラルヒーティングで家の中を暖めますが、日本ではほとんどの部屋をエアコンで別々に暖め、トイレや浴室は全く暖めないのが普通です。慣れるまでがとても大変でした。

「空き家」をビジネスにする

私はビジネスを教える教授であり、人々にビジネスの立ち上げ方を教えているにもかかわらず、空き家をビジネスにすることは真面目に計画していませんでした。自分の好きな場所に、素敵な新しい家を作る、という興奮に流されていたのです。

しかし、これはベストな方策ではありませんでした。当初は、リノベは趣味の範疇くらいにしか考えていなかったのです。家を購入してしばらくしてから、私は家を貸すことにしたのですが、日本では家がどこにあるかによって、(特に観光客向けに)場所を貸すルールが異なります。

例えば、多くの場合は月単位でしか貸すことができませんが、京都では1日単位から貸すことが可能です。また、きちんとした仲介業者を見つければ、家のメンテナンスなども含めて任せることができます。

しかし、たとえビジネスアイデアが現実的だと思えたとしても、リノベ費用を含めた空き家への投資を回収できるまでに最低でも8年から10年はかかるのではないでしょうか。投資として考えるなら、もっと効率のいいものがあるはずです。

リノベには時間も費用もそれなりにかかりましたし、メンテナンスは大変ですが、私は日本の家での生活を本当に楽しんでいます。今は、東京の家に住み、京都の2つの家を貸しています。木造住宅には特別な雰囲気がありますし、近隣と密接なのも面白いと感じています。そして、この独特の魅力に気づいている外国人は私だけではないでしょう。

前回記事:「古民家購入→自分で改装」した外国人が見た現実

(パリッサ・ハギリアン : 上智大学教授(国際教養学部))