「大成功を収めたものはすべて、最初はほんの小さい、一極集中のものだった」と著者は指摘します(写真:Fast&Slow/PIXTA)

成功するクリエイターになるには、どこを目指すのか。どうやって始めたらいいのか。「1000人の忠実なファン」を作るところから始めなさいと述べる『WIRED』誌共同創設者ケヴィン・ケリーの真意とは。

『「週4時間」だけ働く。』の著者として知られるティム・フェリスが、現代のパイオニア106人に成功の秘密を聞きまくってまとめた本『巨神のツール 俺の生存戦略』の『富編』の中から、紹介しよう。

ティム・フェリスも感銘を受けたその内容

ケヴィン・ケリーの『1000人の忠実なファン』を、僕はこれまで、文字どおり、何百万の人たちに薦めてきた。


かなりざっくりとしたあらすじを紹介すると、「『成功』するのに複雑である必要はない。手始めに、1000人をものすごく、とてつもなくハッピーにすることから始めなさい」。

オリジナルバージョンは、いくつかの点で時代遅れになっていたので、ケヴィンは親切にも、この本の読者のために、彼が言わんとするところを新たに書き直してくれた。

僕が初めて『1000人の忠実なファン』を読んだのは、約10年前のこと。そこで学んだコンセプトを、何十もの事業で試してきた。

そのうちの多くは、今では数十億ドルを稼ぎ出す会社にまで成長している。

以下に、そのごく一部を抜粋しよう。

成功するクリエイターになるには、何百万の単位は必要ない。何百万ドルも、何百万の顧客やクライアント、ファンも必要ない。

職人、写真家、ミュージシャン、デザイナー、作家、アニメーター、アプリ制作者、起業家、投資家……あなたの職業がこの中のどれであっても、あなたが生計を立てるのに必要なのは、1000人の忠実なファンだけだ。

ここで言う忠実なファンは、「あなたが生み出すモノならなんでも買ってくれる人」と定義しておこう。

ここで紹介する熱狂的なファンは、あなたの歌を聴くために、300kmの距離でも車をとばしてやってくる。

本を出せば、ハードカバーも、ソフトカバーも、オーディオ版だって買ってくれる。見てもいないのに、次に発表する彫刻だって、もちろん購入してくれる。無料で公開しているユーチューブの「ベスト版」DVDだって買うだろう。

(中略)

あなたがすでにこういったファン(スーパーファンとも言う)を1000人近く抱えているのなら、生計を立てることは可能だ。あくまでも、ひと財産築く、のではなくて、生計を立てられればOK、と言うのであれば。

(中略)

1000という数字は絶対ではない。100万より3桁少ない数であれば問題ない。

実際の数は、その人に応じて調整してもらえばいい。忠実なファン1人当たり、年間50ドルしか稼げない、というのなら、あなたには2000人のファンが必要だ(同様に、年間200ドルが手に入るなら、500人のファンがいれば事足りる)。

(中略)

結論。1000人の忠実なファンは、スターを目指すのとは別の、あなたが成功へたどり着くための方法だ。

ベストセラーを生み出す。大ヒットを打ち出す。セレブのような生活を手に入れる。

こんな狭くて、なかなかたどり着けないような頂点を目指すのではなくて、1000人の忠実なファンと、直接的なつながりを目指すだけでいいんだ。

「生計を立てる」ことと「ひと財産築くこと」の区別

ケヴィンは、「生計を立てる」ことと「ひと財産築くこと」を明確に区別しているが、それはこれから議論を進めるうえで、大事なポイントになる。

とはいっても、注意しておきたいのは、必ずしも互いに相いれないものではない、ということだ。

君がどうやって大ヒットを生み出すか、一生涯続くメガヒット作品を生むか、世界的名声を手に入れるか(自分が何を望むのか、注意すること)は、1000人の忠実なファンの獲得にかかっている。

大成功を収めたものはすべて、最初はほんの小さい、一極集中のものだった。

君がビジネスで、年間10万ドル稼ぐことが目標であっても、未来のウーバーになるのが目標であっても、1000人の忠実なファンを見つけることで、初めの一歩を踏み出せる。

僕は、自分自身の急激な成長と、大成功を収めているスタートアップ企業の多くで、これを目の当たりにしてきた。

君が本当に望んでいることはなにか?

彼らは初め、100人から1000人をターゲットに狙いを定め、自分たちの手におえて、かつ費用対効果の面でも望ましい人数を獲得するために、受け取ったメッセージを基に、ターゲットを絞り込み、ビジネス業態を変化させていった。

そこで、自分自身にこんな質問をしてほしい。

「10億ドル規模のビジネスを立ち上げようと思っているのに、どうしてたった10万ドルの売上げを目指しているのか?」

そこには2つの理由がある。

1つは最初から前者を目指せば、1000人の忠実なファンとの強いきずなを放棄する結果になってしまう。

1000人のファンは、業界のメインストリームに打って出るための、もっともパワフルなマーケティング戦力の役目を無料で果たしてくれるのに。

そうした主要な武器を持たない君は、おそらく失敗するだろう。

2つ目は、本当に大企業を立ち上げて経営していきたいと思っているか?ってことだ。

多くの人にとって、それは楽しい経験にはならない。君をクタクタに疲れさせる厳しい主人がいるようなものだ。

確かに、なかには難局をくぐり抜けて、ジェットコースターに乗っているような状況を楽しめる、エース級のCEOたちは存在する。しかし彼らは例外だ。

「1000人の忠実なファン」の批評として、ミュージシャンがよく口にするのが、次のセリフだ。

「そう言うけど、僕はアルバム1枚、10ドルでしか売れないし、1年に1枚作るのがやっとだ。それじゃ1万ドルにしかならないし、食べていけない。『1000人の忠実なファン』の理論は、残念だけど僕には当てはまらない」


多くの作家たちも、同じような議論を展開しているけれど、そこには欠陥がある。

思い出してほしい。

「心からの忠実なファン」は、君が世に出すもの、すべてを買ってくれるんだ。

もし彼らが、君の作品に10ドル以上出すことを拒むようなら、それは君がまだ、忠実なファンを発掘していないだけなんだ。

ティム・フェリスの価格戦略

2015年、ウータン・クランは、世界にたった1枚しかないオリジナルのアルバムを、オークションに出した。

モロッコ系イギリス人アーティスト、Yahyaによる、銀と銅で作られた特製ボックスに収められたそのアルバムは、ある男性に200万ドルで落札された。


10ドルと200万ドルの間には、数えきれないほどの選択肢が横たわっているはずだ。

僕は、自分の提供するものを両極端に位置付けている。僕の手がけているものの99%は、無料もしくはタダに近い価格で全世界に発信している。

高価なものを売ることはめったにないけれど、そのときにはおそらく「同業者」の10〜100倍の値をつけている。

これを始めて、僕は何ものにもしばられない創造の自由、そして経済的自由を手にすることができた。

収入の額にとらわれて、芸術の真髄を犠牲にする必要はない。君がすべきは、素晴らしい経験を生み出し、そこに十分な値段をつけること、それだけだ。

(ティム・フェリス : 起業家、作家)